サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > BL誕生50年の“役割”

BLの原点ともいわれる漫画『風と木の詩』の連載開始から今年で50年を迎える。いまや世界的な広がりを見せるBLというジャンルに、なぜ女性はそこまで癒されるのだろうか?

それは、まさに事件だった。寝台で体を重ねるふたりの裸の少年。そのひとりは、少女のように可憐な容姿をしている。服を着る可憐な少年になおも絡みつく上級生に、少年は肘打ちを食らわせる。次のシーンでは、少年は学園の院長とも情事を重ねていることが明らかになる……。

少年の名はジルベール。のちに『少年の名はジルベール』というタイトルの自伝を出すことになる漫画家・竹宮惠子による、『風と木の詩』の冒頭だ。小学館から発行されていた「週刊少女コミック」の1976年10号に掲載された。今年2026年は、その連載開始から50年にあたる。

この作品で、さまざまな男たちと情事を繰り返しているジルベールは、学園に転校してきた褐色の肌の少年、セルジュと同室になる。優等生のセルジュと問題児のジルベールは反発し合いながらもやがて惹かれ合っていくが、ジルベールは叔父だといわれ育てられたオーギュスト・ボウに幼児の頃から性的な虐待を受けており、性愛によってしか愛情を確かめられないのだった……。

竹宮は、この作品の構想を連載開始の7年前から固め、冒頭のネームも作っていた。しかしあまりに過激な内容なので連載が認められず、ある編集者から「別の連載で読者アンケートで1位になればこの連載企画を通せるかも」と言われ、『ファラオの墓』という作品を描く。その作品は結局最高で2位止まりだったが、それでようやく連載にGOが出て、満を持して『風と木の詩』を発表。途中、掲載誌を「プチフラワー」に移しながら、1984年までの長期連載となる。その長い物語で描かれたのは、肉体を介しながらつながるセルジュとジルベールというふたりの少年の精神的なつながりだったといえよう。それにしても、どうして少女漫画雑誌で少年同士の愛の物語が描かれるのか? 文化庁長官なども務め2007年に亡くなった心理学者の河合隼雄は、1988年に刊行された小学館叢書版の『風と木の詩』第1巻の解説でこう書いている。

「『風と木の詩』は、少女の内界を描いた傑作である。しかし、その「内界」は実に奥深い地域である。そのために、多くの女性たち自身ですら、その存在を意識したことがない。」

憎悪にも似た激しい愛の物語

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『竹宮惠子カレイドスコープ』(新潮社)より。©KeikoTAKEMIYA1976『風と木の詩』

『風と木の詩』の連載開始から3年後の1979年、文藝春秋から『真夜中の天使』という上下巻の小説が刊行された。作者は栗本薫。1977年に中島梓の名義で『文学の輪郭』という評論で群像新人文学賞を、1978年には栗本薫名義でミステリー『ぼくらの時代』を書き江戸川乱歩賞を受賞した彼女は、当時才女として注目されていた。正伝外伝合わせて150巻を超える大長編ファンタジー小説『グイン・サーガ』をはじめ、生涯に400冊以上の本を書いた超人的な作家だ。

『真夜中の天使』は「ジョニー」という通り名で呼ばれる美少年歌手の今西良と、そのマネージャーで良をスターへと育て上げる滝俊介の物語。滝は良に激しい執着を持つが、その愛情は時に憎悪にも似て攻撃的で、芸能界の大物の男性たちに良の肉体を差し出す一方、自身も激しい感情と支配欲を良に対して持つ。男性たちのセックスは陵辱的で、それを受けた良は身体に大きなダメージを受ける。

このような男性同士の物語は、当時竹宮も影響を受けた作家・稲垣足穂の『少年愛の美学』に絡めて「少年愛」とも呼ばれたが、栗本薫は「やまなし・オチなし・意味なし」の頭文字から生まれた「やおい」という言葉を好んで使うようになる。そして、現在においては、ボーイズラブ=BLと呼称を変え、その影響は世界に広がりつつある。

それにしても、『真夜中の天使』のような作品において、女性作家によって書かれ、主に女性の読者に読まれた物語において、どうして男性同士の性愛が描かれ、しかもあれほど暴力的な物語として描かれたのだろうか。

『中島梓と「やおい」の時代』(ひつじ書房)の著者である日本近代文学研究者の金子亜由美氏は次のように語る。

「おそらく、中島さんにとって、動かし難い秩序を大きく動かす力と言う意味での暴力が重要だったのではないかと思います。社会において男性は支配する側であり女性は従属する側であるという固定的なポジションは自然なものであるという思い込みは、言葉の力によって変革し得るものだと示していく。それが、中島さんにとってのアナーキズムだったのでは。支配する側とされる男たちの中に、あえて支配と従属の関係を持ち込むことで、その関係が様々な暴力によって維持されているものだということを示すと共に、従属させられた側に置かれた男がそこから脱け出そうとする姿を描くことを通じて、そうした暴力に反逆することも可能なのだと示す、それが中島さんにとってのやおいであり、JUNEだったのではないでしょうか」

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