――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
[今月のゲスト]
高野隆(たかの・たかし)
[弁護士、大川原化工機事件「裁判官の責任を問う訴訟」弁護団長]
1956年、埼玉県生まれ。79年、早稲田大学法学部卒業。82年、弁護士登録。87年、サザン・メソジスト大学ロースクール修了。法学修士。2004~09年、早稲田大学法科大学院教授。09年より高野隆法律事務所代表パートナー。著書に『人質司法』(KADOKAWA)など。
大川原化工機事件で勾留中に死亡した相嶋静夫氏の遺族が、不当な長期勾留を認めた裁判官37人の責任を問う異例の国家賠償訴訟を起こした。否認を理由に保釈を認めない、いわゆる「人質司法」の実態と、裁判官が身体拘束の不利益を軽視してきた構造とは――。司法判断の責任と再発防止策を、弁護士の高野隆氏を迎え、議論する。
神保 これまでこの番組では人質司法については何度も議論してきましたが、今回、大きな動きがありましたのであらためて取り上げたいと思います。ゲストは弁護士で大川原化工機事件「裁判官の責任を問う訴訟」の弁護団長を務める高野隆さんです。
大川原化工機事件は2020年に起きた世紀の冤罪事件で、警察が「(同社が)中国に化学兵器の製造に転用できる機械を輸出した」という無理筋な事件をでっち上げていたことが明らかになっています。そうした中で、当時同社の顧問だった相嶋静夫さんが勾留中に亡くなり、不当な拘束を受けたとしてご遺族が訴訟を起こし、検察と警察に対してはすでに国家賠償を勝ち取っているのですが、今回は高野さんを弁護団長とした弁護団を組み、裁判官の責任を問うています。まず、この裁判が持つ意味から聞かせてください。
高野 冤罪の犠牲者たちが、捜査をした人たちや訴追した人たちの権力行使が違法だったとして国賠訴訟を起こすことはしばしばあります。しかしよく考えてみると、警察や検察は自分の意思で被疑者を逮捕することはできない。彼らは裁判官が令状を発行して初めて被疑者を逮捕し、取り調べることができます。勾留も保釈も同じで、決定するのは裁判官。これまでの裁判では、最も肝心な、令状を発行した裁判官の責任を問うということは行われてきませんでした。裁判官の責任を問うことが非常に難しいシステムになっているので、ある意味当然ですが、これはどう考えてもおかしい。
警察と検察の責任を問う国賠訴訟では、大川原化工機の人たちは完全に勝訴しましたが、亡くなった相嶋さんのご遺族は、それだけでは納得がいきませんでした。重病になっても身柄を釈放されず、きちんとした検査や適切な治療を早期に受けることができなかったのは警察や検察の責任ではなく、それを認めた裁判官の責任ではないかという当然の疑問を持っていました。
この問題をはっきりさせることができなければ、日本の司法は芯まで腐っているということになる。なんとしてもこの訴訟で成果を上げなければいけないと考えています。
神保 今回の「裁判官の責任を問う訴訟」は、相嶋静夫氏の妻、長男、次男を原告とし、国に約1億6800万円の損害賠償を請求するものです。「法令解釈や事実確認を精査することなく、罪証隠滅や逃亡の恐れを安易に肯定し、重大な疾病に罹患し死期が迫る状況にあっても相嶋静夫氏の身体拘束を認め続けるなどした裁判官計37人の判断は違法」という主張で、ポイントは逮捕令状や勾留令状を発付したり、保釈請求を却下した37人の裁判官全員を実名で告発していることですね。
高野 逮捕状を発行した裁判官、その後の勾留決定をした裁判官、さらに勾留に対する不服申し立てを棄却した裁判官、起訴後の保釈請求を却下した裁判官、その不服申し立てである準抗告を棄却した裁判官などが含まれます。保釈請求だけでも8回行われており、それぞれに関与した裁判官が違法な行為をしたということです。7回目の保釈請求を認めた裁判官1人を除き、全員の行為が国賠法上違法であるとして今回の訴訟を起こしています。
神保 保釈請求の審理は、事件そのものを担当する裁判官とは別の裁判官が行います。事件そのものを担当しているわけではない裁判官が、保釈の妥当性について、検察から上がってきた多くの証拠を短時間で判断し、罪証隠滅の恐れがあるとして勾留を認めているのが問題だと。
相嶋さんの保釈請求は8回却下され、その間に相嶋さんは亡くなりました。事件そのものがそもそもでっち上げだったということになれば国賠も当たり前だと思いますが、今回の大きな違いは、裁判官の責任を追及していることです。
宮台 都と国に対する国賠訴訟で大川原化工機や相嶋さん側が勝訴した時に、それに関わった裁判官には何か反省のようなものは生じるのでしょうか。