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第1特集
なぜエリートほど「ツッコまれたい」のか

京大講座が取り組む、思考の主導権を取り戻す「そもそも論」

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「数値目標(KPI)」に辟易するビジネスパーソンに、「根源的な問い」を与える京都大学「次世代リーダー育成研修プログラム」が注目されている。今、なぜ、哲学的な問いが求められるのか。

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京都大学学際融合教育研究推進センターの名物企画「全分野交流会」の様子。16年前から毎月開催。学内外から50名ほどが集まる。研究者だけでなく学生・院生、大学事務、企業、行政、パパママらも参加。コロナ禍より基本ZOOM開催で年3回はリアルに集まるように。(写真・宮野公樹)

読売ジャイアンツの阿部慎之助前監督が、18歳長女への暴行容疑で逮捕され、監督を辞任した。

逮捕のきっかけは、被害者である長女が生成AI(人工知能)に相談し、その回答に従って児童相談所へ通報したことだった。長女の相談内容を受け、児相や警察が迅速に動いたことで事件化に至った。後日、娘は「ChatGPTに相談した結果(中略)みなさんをお騒がせしてしまい大事になったこと深く反省しております」と告白している。家庭内での暴力から身を守るという目的において、AIの提示した解決策は「正解」だったと言える。しかし、人間の情や世間体を排除したその機械的な最適解は、当事者が想像していたよりも遥かに重い事態を招くこととなった。

生成AIは、人が求める「正解」への効率の良い道筋を指し示してくれる身近なものになってきた。ただし、その「正解」が、大局的に見れば、必ずしも正しいとは限らず、混乱を招くことがある。

一方で、「正解なき時代」と言われ、若者たちの不安を煽るものの、実際には、数値目標(KPI)といった「正解」を、企業や省庁、社会が提示するため、彼らは不安を解消するように数値目標にしがみつく。そうした状況に、エリート・ビジネスパーソンたちは、息苦しさを感じて、自分の人生の主導権を市場原理に奪われないために「生を生きるための潤い」を求めている。宮野公樹・京都大学准教授は、根本的な問いを発することで、彼らに「潤い」を与え始めた。私たちが今もっとも必要とする「根本的な問い」について、宮野氏に話を聞いた。

知ったかぶりの教養ブームを超えて

後藤健夫(以下、後藤)  理系人材の育成が急務と言われてきた現代のビジネスパーソンや営利企業が、実は哲学や教養を求め始めています。例えばヤマハやデンソーで人事教育や組織開発に「哲学的対話」を導入している。AIの急速な台頭や、教育・社会構造の変化が叫ばれる今、宮野さんが京都大学で設立から関わっておられる「エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム(ELP)」(京大が主催している、次世代トップリーダー向けの研修プログラム。受講生は主に企業の経営者や役員、管理職など)の受講生たちのリアルな反応を踏まえて、この現象の根底には何があるとお考えですか?

宮野公樹(以下、宮野) 京大ELPは、早いもので今年で11年目になります。

この11年で、受講するビジネスパーソンの動機が明らかに変わりました。初期の頃は、「これからの時代、リーダーには教養が大事だから」という、いわば記号的な理由で、知識としての教養をインプットしようとする人が主流でした。しかし最近、受講生から強く求められるのは、そうした小綺麗な座学の知識ではありません。私が講義の場で彼、彼女らに投げかける、「本質的で容赦ないツッコミ」そのものを欲しているのです。

彼らがなぜそこまで〝ツッコミ〟を求めるのかといえば、理由はシンプルです。みんな口を揃えて「普段の業務の中では、まったく〝問われる〟ことがない」と言うのです。

後藤 組織のトップリーダーや幹部候補であっても、実務の現場では「本質的な問い」に直面する機会が完全に失われている、と。

宮野 そのとおりです。普段、各企業で事業に主体的に携わっているELPの受講生たちは、組織の中ではすでに一定の「お題」や「結論」が上から与えられてしまっています。彼らの日常の仕事は、細分化された事業部という狭い枠組みの中で、与えられたお題をどう効率的に処理するか、どうやって売り上げを伸ばすかという「ハウ(方法論)」の検証に終始している。実務の中で「リフレクション(振り返り)」をやるにしても、きつい言い方ですがそれはコストパフォーマンスや効率性を高めるための、小手先のハウの検証にすぎません。

私が講義の中で、環境問題を語るにしても「そもそも、なんで私たちは環境を守らなければならないのか。たかだか地球の一動物にすぎない人間が、なんで地球全体のことを守るなんて大それたことが言えるのか」といった根本的な問いをあえて突きつけると、場がシーンと静まり返ります。彼らは「問いの前提」そのものを疑うという頭の使い方を、普段あまりやっていないのです。

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