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高山真が読む今月のサイゾー/オトコとオンナとアイドルと【12】

松本潤と伊野尾慧に見る、「ノンケの姫」問題と「"かわいい"への覚悟」問題

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――女性向けメディアを中心に活躍するエッセイスト・高山真が、世にあふれる"アイドル"を考察する。超刺激的カルチャー論。

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松本潤の主演で高視聴率を記録した日曜劇場『99.9―刑事専門弁護士―』(TBS)公式HPより

 ここ2年ほど、私は体調をちょっと崩しておりまして、入院したり手術したり、さまざまな副作用でガツンと太ったり…という日々なのですが、そんなときにもあれやこれやと差し入れてくれたり、外出許可が出たときはお蕎麦だったりお魚だったり、体にやさしい(しかしお財布には大変やさしくない)食事を出してくれるお店を押さえてくれたりする、ノンケのオトコ友達が数人います。ゲイの友達やオンナ友達とは割り勘のほうが心地いい私なのですが、オトコ友達との食事では、彼らに全部まかせっきり。一度「私も払うわよ」と言ったのですが、彼らは彼らで「姫はいいから」と、それを許しません。

 ここまで読んで不思議に思った方もいるでしょう。薬で代謝が狂った影響とは言え、座ると洋梨のような体型になる40代のゲイ(非女装)をつかまえて「姫」…。言うノンケもたいがいですが、受け入れる私もたいがいです。まあ、出会ったとき彼らは20代で、30を少し超えるくらいで超健康だった私も今よりも20キロ痩せていた、という部分もありますし、最初に「姫」呼ばわりされたときから、それはすでに「ギャグ」として機能していた部分も大きかった、と言い訳はさせていただきましょう。

 当然ですが、ノンケのオトコ友達の中にも私を「姫」呼ばわりしない人たちはおりまして、彼らは「姐さん」呼ばわりが主流です。「姫グループ」と「姐さんグループ」の違いは何か、と考えてみましたが、「姫グループ」の人間たちは、贔屓目に見ても相当ルックスがいい。彼ら自身が(自慢話ではなく単純に経験談として)話す、女子・女性たちとの恋愛遍歴もかなりのものです。

「姫グループ」も「姐さんグループ」も、私のことを別に「美人なオンナ」として認識しているふうでもない(繰り返しますが、私はラ・フランス体型になりつつある非女装です)。私のほうも、「姫グループ」の誰かと肉体関係があったわけでもありません。「姫グループ」の人間たちと私の間に、セクシャルなものは存在していないのです。

「姫グループ」の人間たちは、同じグループにいるはずの人間の中から『姫』的な存在を選びたがる。ホモセクシャルな場ではなく、ホモソーシャル(セクシャルなものをまったく含まない、同性同士の友情や強い連帯感のこと)な場においての「姫」。これは、私の周囲だけで起こる現象なのだろうか…と思っていたら、さすがはジャニーズ、私の周りなどよりも何億倍もハイクオリティな形で存在していました。嵐の松本潤です。

 2012年のクリスマスシーズンでしたか、『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)で、マツコ・デラックスが「松潤問題」を提起しかけたことがありました。マツコが「ほかのメンバーには、極端な話、すれ違いざまにズボンの前をペロンとさわることができるけど、この人(松潤)にはできないのよね…。それをやっても(松潤が)怒らないだろうってのは知ってるんだけど。この感覚はなんなんだろうと思って」みたいな思いを表明し、しかしそれは解明されないまま次の話題に進んでしまったのですが、今となって私は、「見目麗しいノンケの中には、『王子』ではなく『姫』的な意味でのアンタッチャブル感を備える人が出てくるものなのかしら」という思いに至った、と言いますか。

 知り合いでもなんでもないのですが、小栗旬も相当モテてきたことは、さまざまな分野から私のところにも漏れ聞こえています。その小栗旬も、どうも見た感じ、松本潤には「超仲のいいノンケの友人」からもう一段、ソフィスティケートな扱いをしているような。

 ホモソーシャルな空間で、同性の「美」を素直に称賛するのは、恋愛強者だったノンケオトコたちのほうが圧倒的に多い。これは断言してもいいと思います。恋愛弱者だったオトコたちでそれができるのは、非常に頭がいい人間に限られるのではないかと思います。「知」が「嫉妬」を超えるほどの地頭のよさ。「人間って誰もが大なり小なりアンドロジュノス(両性具有)かもしれない。人によって割合が違うだけで。マコト見てるとそう思う」とアタシに言ったのは、驚くべきことにゲイでもオンナ友達でもなく、ノンケのオトコでした。ただし、「クリエイティブな分野で大成功していて超多忙。ルックスは悪くないのに、多忙さと人見知りな性格ゆえに独身。しかしそんな自分自身の境遇に対しては、ルサンチマンを抱くでもなく、超フラット」という、大変な希少種。「ゲイ」とか「さばけたオンナ」といった「ザクザクいる人たち」などよりも、はるかに見つけるのが難しい生き物なのですが。

 嵐のメンバーは5人が5人ともまったく違うキャラクターで、それがファンの間でも割ときちんと5等分な人気になっているのが非常に面白いのですが、ほかのメンバーのファンをやってる人たち(ジャニーズファンの間では「○○ファン」ではなく「○○担」と呼ぶ文化があるんですってね)も「嵐の中に『姫』を置くなら、MJ」ということには同意していただけるのではないか、と。

 で、「松潤はノンケの姫」的な意味で、「もう少し下の世代に誰かいるか」という問いを出されたら、間違いなくHey! Say! JUMPの伊野尾慧だと思います。あれはたいした逸材です。ジャニーズ内部というよりも、ジャニーズの所属タレントではない人たちの間で君臨するのは、ああいうタイプでしょう。

 千原ジュニアが『にけつッ!』という番組の中で、ある収録で一緒になった伊野尾慧のことを、「共演した人の中に女の人もおったけど、群を抜いて可愛かった」「家賃払ってあげたい」「美味しいものを食べさせてあげたい」「ひかんといてね。ちょっとゴチョゴチョしたい」と話していたのを見たことがあります。千原ジュニアは「若いころからの根っからの恋愛強者」ではなかったことが容易にうかがえるルックスです。モテるようになったのは、たぶん仕事がある程度うまくいって使えるお金ができてから(つまり、社会的・経済的な強者になってから)だろう、と私はふんでいます。「ちょっとゴチョゴチョしたい」というコメントは、「恋愛強者としてのキャリアが浅い分、この感情が湧き出ている源が、ホモセクシャルなものなのかホモソーシャルなものなのかが、いまいち自覚しきれていない(ホントはホモソーシャルなのに)」ことによるものでは、と勝手に推測していたりするのです。

 ジャニーズ事務所のタレントが恋愛強者であるかどうかは知りません。もともと私は芸能人のプライベートに興味もありませんし。彼らも彼らで、職業柄、一般人ほどには恋愛を謳歌できていなかっただろうし。ただし、彼らは恋愛強者の必須条件である「ルックス」は十二分に備えて生まれてきた子たちばかりです。そんな美形たちが百人単位で、「ジャニーズ事務所」という、日本の芸能界の中で圧倒的にホモソーシャルな空間(「ホモセクシャルな空間」ではありませんよ。この違いは大変重要です)に籍を置いている。なかなか凄いもんだと思いますが、そんな子たちの間でも、伊野尾慧の「姫ポテンシャル」は飛びぬけているように私には見える。たぶん、ジャニーズ事務所のタレントたちの間では、千原ジュニアのような「伊野尾とゴチョゴチョしたい」という勘違い的な感情抜きで、伊野尾慧を愛でている動きもあるのでは、と。

 松本潤と伊野尾慧、「ポテンシャルの高さ」ということでは共通しつつも、松本潤はわりと天然というか、自分の「姫」資質にはけっこう無自覚だったりします(まあ、その無自覚さが逆にポテンシャルの異常な高さを際立たせてもいるのですが)。対して伊野尾慧は…ありゃちょっととんでもないタマですわ。ええ、もちろん褒め言葉ですよ。「逸材」という言葉とほぼ同じ意味。「自覚」とか「覚悟」の度合いがハンパではないのです。

 ファンでない人たちに「あざとい」と切り捨てられたり反発を喰らったりするリスク。そして、ファンの中からでさえ、その「あざとさ」を半笑いで処理して受け入れる層が出てくるリスク。その両方を覚悟したうえで事に乗り出す、伊野尾の姿勢…。私の友人兼読者は「伊野尾慧は壇蜜に近い」と言ったことがありますが、今ならなんとなく、その言葉の意味がわかります。伊野尾慧が時々かぶる猫耳のカチューシャと、壇蜜が着る胸元がバックリ開いたボディコンのドレスは、「あざとい」という点で同じカテゴリーのアイテムです。

「かわいい」には、覚悟がいります。オトコが「かわいい」をやる場合は、特に――。これ、わからない人は一生わからないものですが、わからない人ほどこういうものを声高にディスる傾向があるものです。確かに「かわいいは、正義」なんて言葉もありますが、あらゆる正義の中で「かわいい」ほど迫害をうけるものもないでしょう。たぶん伊野尾慧もその程度のことはすでに肌で知っていると私は推測しています。そういった声を受け止めたり受け流したりする方面の「覚悟」も含め、私はちょっと伊野尾慧に注目していたりするのです。

…なんて言いながらも、私は正直言って、ジャニーズの若い子たちの大部分は、「テレビでちょっと見るくらい」の知識しかありません。「いやいや、すでにジャニ内部では○○××くんが『姫』になっている」という事実をご存じのジャニオタの方がいらしたら、ぜひ教えていただきたい。お勉強させていただきます。

 最近の私の個人的生活に端を発した「ノンケの姫」問題。こうして考えてみると、私の周りにいるルックスのいいノンケたちが、ちょっと可哀想にも思えてきます。洋梨体型の40代ゲイを『姫』として扱わざるをえない理不尽。ほんと、彼らにとっては「いい災難」以外の何物でもありません…。

高山真(たかやままこと)
男女に対する鋭い観察眼と考察を、愛情あふれる筆致で表現するエッセイスト。女性ファッション誌『Oggi』で10年以上にわたって読者からのお悩みに答える長寿連載が、『恋愛がらみ。 ~不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)という題名で書籍化。人気コラムニスト、ジェーン・スー氏の「知的ゲイは悩める女の共有財産」との絶賛どおり、恋や人生に悩む多くの女性から熱烈な支持を集める。現在、「マイナビウーマン」というサイトでも、期間限定の連載『マコトねえさんの恋愛相談バー』を執筆中。

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