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ステキな「古典新訳」の見つけ方【5】

翻訳論の専門家が答える昨今の"新訳誤訳論争"──「すべての翻訳は、誤訳である」

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 翻訳論の専門家である慶応義塾大環境情報学部教授に「そもそも『翻訳』とはいかなる行為なのか?」を聞く。専門家の目には、昨今の"誤訳論争"はどのように見えているのだろうか?

──最初に、昨今の"古典新訳ブーム"をどう見ていますか?

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書店には、数多くの翻訳書が並ぶ。明治期以降、日本
人が多くの海外文学を受容してきたことの証しか?

霜崎實(以下、)  ひとつの作品に対し複数の翻訳が出ること自体は日本特有の現象ではありませんが、『星の王子さま』のように十数種ともなると、おそらく世界的にも例のないことです。『赤毛のアン』も、とても質の高い定番の村岡花子訳(三笠書房、52年)があるにもかかわらず、次々に新訳が出ていますよね。日本人には伝統的に海外古典好きな側面があるなど、要因はいくつか考えられますが、やはり村上春樹の「前回の海外古典ブームから50年が経過し、翻訳の"賞味期限"が切れたから」という見方に、信憑性があると思います。50年前と今とでは、もろもろの社会背景が違うというだけでなく、日本語にとって半世紀という期間は、明確な変化を遂げるのに十分なスパンといえるからです。作品にもよりますが、いかに優れた翻訳でも、若い読者に訴える力が時とともに弱まっていくのは避けられませんから、古典の"revive"(生き返らせる)には、"revise"(改訂)が必要なんです。

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ステキな「古典新訳」の見つけ方【4】

サトエリ&なめ子が、あの名作をみずから手がける!! 『ライ麦畑でつかまえて』独自の完成で翻訳対決

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──当特集【3】で「翻訳マル秘談義」を行ったこの2人が、村上春樹も訳したサリンジャーのあの名作シーンを訳し比べ。翻訳文から、2人の完成が垣間見える?

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【原書】
[平易な英文でとっつきやすい!?]
『The Catcher in the Rye』(J.D.salinger、1945年)
What Ihave to do,I have to catch everbody if they start to go over the cliff-I mean if they're runningu and they don't look where they'regoing I have to come out from somewhere and catch them.That's all day. I'd just be the chatcher in the rye and all.I know it's crazy, but that's the only thing I'd like to be.I know it's crazy.


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【旧訳】
[「名訳」の誉れ高い超有名訳]
『ライ麦畑でつかまえて』(白水社 64年)野崎孝/訳
僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ──つまり、子供たちは走ってるときにどこを通ってるかなんて見やしないだろう。そんなときに僕は、どっからか、さっととび出して行って、その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだな。ライ麦畑の捕まえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてることは知ってるよ。でも、ほんとになりたいものといったら、それしかないね。馬鹿げてることは知ってるけどさ。


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ステキな「古典新訳」の見つけ方【3】

"太宰ラブ"佐藤江梨子×"翻訳経験アリ"辛酸なめ子──スラングも邦訳じゃ、イケてない! ねむたい新訳はどれだ!?

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──その美貌からは想像できないほどの読書量を誇る"文学好き女優"佐藤江梨子と、セレブウォッチャーとして有名ながら翻訳本の出版経験もある"マルチ・コラムニスト"辛酸なめ子が、翻訳文学のなんたるかについて語り合う!!

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(写真/菅野ぱんだ)

辛酸なめ子(以下、) 佐藤さんは、海外文学はよく読まれるんですか?

佐藤江梨子(以下、) よくってわけではないけど、たまに読みます。最近だと、ラッタウット・ラープチャルーンサップっていう人が書いた『観光』っていう本(早川書房、古屋美登里/訳)が、超面白かった。

 変わったタイトルですね。

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ステキな「古典新訳」の見つけ方【2】

翻訳本はここまで変わる!! 誰でも知ってる"有名海外文学新訳VS旧訳"徹底読み比べ

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──古くさくなくなった? 漢字が減った? 海外文学の古典的名作の中からここ最近新訳が出たものをピックアップ。実際に読み比べてみました──。

「ウワバミ」か「ボア」か「大蛇」か、それが問題だ

『星の王子さま』(サン=テグジュペリ、1943年)

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【旧訳】
内藤濯/訳(2章、15ページ)
「ちがう、ちがう! ぼく、ウワバミにのまれてるゾウなんか、いやだよ。ウワバミって、とてもけんのんだろう、それに、ゾウなんて、場所ふさぎで、しようがないじゃないか。ぼくんとこ、ちっぽけだから、ヒツジがほしいんだよ。ね、ヒツジの絵をかいて」

【新訳】
辛酸なめ子/訳(2章、8~9ページ)
「違うよ、大蛇に飲まれた象の絵なんて見たくない。大蛇は危険だし、象は大きくて邪魔くさくて、両方共僕のうちには入らないよ。とにかく羊が欲しいから、羊を描いてください」

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ステキな「古典新訳」の見つけ方【1】

論争の火種か文学の進化か──村上春樹も参入! 古典新訳ブームの正しい"味わい方"

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──『星の王子さま』『カラマーゾフの兄弟』『ライ麦畑でつかまえて』──2000年代初頭より続く、村上春樹、柴田元幸らの著名文化人による海外文学の「新訳」ブーム、その裏にある、出版にいたるまでの苦労を徹底究明。そして、あの佐藤江梨子と辛酸なめ子が、名作『ライ麦畑でつかまえて』をガチンコ翻訳対決!!

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(写真/菅野ぱんだ)

 世は深刻な出版不況。中でも海外古典文学は、1960年代前後の世界文学全集ブームの終息以降、最も売れないジャンルのひとつとされてきた。ところが近年、海外古典文学の新訳版が続々と刊行されて人気を博し、翻訳者名で本を選ぶという現象も見られるようになるなど、"古典新訳ブーム"が巻き起こった。そうしたブームの背景を押さえた上で、海外古典文学の翻訳出版の内情に迫ってみよう。

 まず、ブームの先駆けとされるのが、『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝/訳、白水社、64年)の新訳である、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社、03年4月)の刊行だ。村上春樹による平易で流麗な文体が反響を呼び、古典作品としては異例の売り上げを記録した。続いて05年1月、『Le Petit Prince』(邦題『星の王子さま』)の日本における著作権保護期間が切れて出版ラッシュとなり、ブームに拍車がかかる。さらに、06年9月に刊行を開始した「光文社古典新訳文庫」が大ヒットし、同時に、"誤訳論争"がメディアを賑わせた(各社の出版傾向については下を参照、新訳の内容等については当特集【2】を参照)。

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スポーツ紙、週刊誌の運動部記者"匿名座談会"

東スポは日本が誇る一流紙!? 現場記者らが内幕を暴露する紙面には乗らない五輪報道の裏

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──水面下ではプレス申請でのゴタゴタに、出場選手の過剰な取材規制など、スポーツ紙や専門誌と協会や選手たちの間では、すでに熱い戦いが繰り広げられていた。匿名だからこそ言える、そんな北京五輪にまつわる悲喜交々を現場記者が語り尽す──。

[出席者]

A......全国紙オリンピック担当記者
B......スポーツ紙運動部記者
C......スポーツ誌編集者
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過去、写真週刊誌に人気AV女優とのキス
プリクラを掲載されたこともある、競泳・北島
康介選手は実力も取材態度も"一流"?

A さぁ、世紀の祭典、五輪開催まで1カ月。我々からすれば、ようやくここまでこぎ着けたという感じだよね。プレス申請も終わったし、あとは北京へ行くだけ。ウチは15人くらいの記者を北京に派遣する予定だけど、スポーツ紙はどう?

B こちらは7人くらいかな。なんといっても弱小だから(笑)。でも、北京五輪組織委員会の広報担当者は本当に手強かったよ。プレス申請はほとんどメールでやり取りするんだけど、全然話が通じない。取材予定の競技種目やプレス席数の確認をしても、数字が羅列されたメールが返ってきたり、数週間後に「メールが届いていない」とか言われたり。日本や欧米諸国じゃ考えられないくらいテキトーなんだよね。

C 今からそんな体たらくだと、現地に到着して、ちゃんと案内してくれるか不安だよ。

A でも、これまでに、表立った中国側の取材規制とかはないので、まだ安心かな。ただ、中国は何が起こるか、何をしてくるかわからない国。各紙とも不文律のように、五輪前は中国の批判記事を書かないようにしているね。

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五輪放映権高騰はなぜ起こったのか?

人気種目はくじ引きだった──60年前はたった21万円? 五輪放映権のウラ側

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──IOC(国際オリンピック委員会)の収入の半分を占めるのが、メディアによる放映権料。日本では、NHKや民法キー局からなる団体が交渉し、権利を購入するが、その考証や人気種目の割り振りには、それぞれの組織のさまざまな思惑があるという──。

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スポーツイベントに巨額の金を費やすアメリカ4大ネットワーク。
(左上より時計回りに。「ABC」「CBS」「FOX」,「NBC」)

「NHKをはじめ、民放キー局ら日本民間放送連盟からなるジャパンコンソーシアム(以下、JC)が、国際オリンピック委員会(以下、IOC)に支払った北京五輪の国内放映権料は総額211億7000万円(契約締結時の換算レートによる)。さらに08年4月、JCは、2010年バンクーバー冬期五輪と12年ロンドン五輪の放映権料において、325億円でIOCと合意に達したと発表しました」

 こう話すのは、元NHK職員で五輪等のスポーツ放映権交渉を手がけてきた、スポーツ・プロデューサーの杉山茂氏。さらに、ロイター通信では「1948年に英BBCが1000ギニー(旧通貨単位/約21万円)を支払って始まったIOCの放映権収入は、84年のロサンゼルス五輪からアテネ五輪までに約5倍にはね上がり、08年8月の北京五輪では25億ドル(約2600億円)になる」(08年5月11日付)と報じているように、五輪の放映権は高騰の一途をたどっている。そのきっかけとなったのは、ロサンゼルス五輪であった。

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日本が知らない中国メディア事情【1】

中国の内幕をレポート! 五輪のためなら地震も利用!? 中国政府の巧みなメディア統制

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アイドルアスリートの頂点に立つ郭晶晶
(グオ・チンチン)。よく見ると、それほど美人
じゃないよね?(写真提供/朝倉浩之)

──チベット問題、世界各国での聖火リレー騒動、そして四川大地震。五輪を控えた中国をめぐって数々のトラブルが続発した。ただ、これらネガティブなはずの出来事さえも、同国政府は、ことごとく北京五輪の成功に結び付けようとしているという──。

 中国の報道機関といえば、「プロパガンダ記事」「共産党の旗振り役」といったイメージが、日本では一般的だろう。だがしかし、それはあくまでも一側面にすぎず、スポーツ報道となると決して 政府の舌 とは一口には言えない部分がある。中国スポーツメディアの報道姿勢はとても活発で、その内容は「カオス状態」、「なんでもあり」と言えるほど、すごい世界が繰り広げられている。

 筆者の住む北京のスポーツメディアとしては、サッカーとバスケットボールをメインに骨のある報道を続ける総合スポーツ紙「体壇周報」を筆頭に、国家体育総局発行の「中国体育報」、速報性で定評のある「競報」、そして各人気スポーツに特化した専門紙が数え切れないほどある。

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日本が知らない中国メディア事情【2】

「加油中国!」(がんばれ、中国!) 五輪報道に明け暮れる中国メディアの奇妙奇天烈

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──改革・開放が進み、市場経済化したとはいえ、中国のマスメディアは、基本的には、共産党と政府の代弁者である。つまり、党の路線や方針を大衆に伝える宣伝機関。そこで、五輪開催に向けて、洪水のように氾濫している"盛り上げ役"をご紹介しよう──。

[テレビ]

■世界最多の視聴者数!
中国中央電視台(CCTV)

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1958年設立。言わずと知れた中国最大の国営テレビ局。総合、経済、映画、芸術など16チャンネルがあり、そのうちのスポーツチャンネル「CCTV-5」は08年1月から「CCTV-五輪」に名称を変え、24時間、各種国際大会やスポーツ情報を放送している。特に、週末も含め毎朝6時半から8時まで放送されているスポーツ情報番組『ニーハオ2008』は、国内の各種リーグ戦から海外サッカー、NBAまで充実しており、スポーツ好きのサラリーマンや学生から絶大な支持を得ている。
http://www.cctv5.com.cn/


■地方局だが視聴者数は3億人!?
北京電視台(BTV)

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1979年設立。北京市内をカバーする国営地方局ではあるが、衛星放送で、全国に向けて番組を発信しており、その視聴者数は3億人を持ち、国内でも影響力の強いテレビ局のひとつ。このうち、「BTV-7」がスポーツ専門チャンネルで、24時間、各種大会、五輪情報を発信している。中でも、地元サッカーチームで中国超級リーグ所属の「北京国安」の主催試合は全て中継している。また毎晩、その日のスポーツニュースを伝える『天天体育』は北京に住むスポーツファンの要チェックの番組である。
http://www.btv.com.cn/btvindex/index.htm

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日本が知らない中国メディア事情【3】

揺れる日の丸、たなびく五星紅旗─中国版ネット右翼に悩む新華社通信と日本メディア

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 お祭り騒ぎにウカウカしてるとヤバい!? 日中関係の転換期は"北京五輪後"にやって来る──。

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日本国旗、中国国旗、チベット国旗。それぞれの旗の
下で国民は何を思うのだろうか......?

 4月26日、北京五輪聖火リレーの当日、長野県は、動員された中国人留学生と五星紅旗に埋め尽くされた。産経新聞と少数のワイドショーのみでの報道となったが、赤い旗の影で、「チベット独立支持」を訴える日本人とチベット人が中国人に暴行を受けた。現場にいた大手メディアの記者、カメラマンたちは、その一部始終を目撃していたという。
 
「あまりにも酷かったんで、被害者の話を聞いて、記事として原稿を書きました。全国版用に本社に送ったのですが、結局、ボツにされてしまった。どうも、上の意向が働いていたようです」(社会部記者)

 これには対中協調政策をとる、福田政権をめぐる思惑が影響している。テレビ局でも、暴行事件を報じたキー局もあったが、新聞同様、ごく小さな扱いだった。

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連載
宇野常寛の批評
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『さらば、既得権益はびこるレッドオーシャン化した批評界!』

映画でわかるアメリカがわかる
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『映画を通してズイズイっと見えてくる、超大国の真の姿。』

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哲学者・萱野稔人の
“超”現代哲学講座
『国家、権力、そして暴力とは何か?知的実践による解説。』


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