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第1特集
男性優位の社会やホモフォビアも深く関係

ジャニーズ報道から考察「男性の性被害」の救済が遅れる理由

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――英国公共放送『BBC』の報道や元所属タレントの相次ぐ告発を受け、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が“謝罪動画”の公開に至った故ジャニー喜多川氏の性加害問題。近年の日本における#MeTooの流れで行われた告発と異なるのは「被害者が男性である」という点だ。それがこの問題の解決の遅れにどう影響したのかを考察していく。

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ジャニーズ事務所代表取締役社長・藤島ジュリー景子氏の釈明動画にも多数の批判が寄せられた。

世間一般でも「聞いたことがあった」という人は多いはずの故・ジャニー喜多川氏の性加害疑惑。マスコミの報道は1960年代から断続的に行われており、99年から「週刊文春」(文藝春秋)とジャニー氏・ジャニーズ事務所との間で争われた裁判では、最終的に「所属タレントへの性的虐待は事実である」との認定がなされている。そして2023年、英国公共放送『BBC』の番組報道や元所属タレントの告発などにより、藤島ジュリー景子社長が謝罪を行う動画を公開したのは周知の通りだ。

この問題については、長らく沈黙を貫いてきた大手マスコミへの批判が大きい。一方で疑惑が疑惑のまま長く放置された背景には、「被害者が男性である」という点も関係しているのではないか――。本稿ではそうした仮定に基づき、ジェンダーの観点を軸に、「男性の性被害」を取り巻く日本社会の問題を掘り下げていく。

まず男性の性(暴力)被害については、「あまり聞いたことがない」「どのような状況なのか知らない」という人が多いかもしれない。そもそも「男性の性被害」という言葉や概念は新しいもので、メディアで取り上げられる機会が増えたのも最近のことだ。

「日本では90年代ごろから、男の子、男性を含めた性暴力被害の調査が徐々に始まりましたが、それ以前は男性の性暴力被害を適切に言い表す言葉がありませんでした。男性の自助グループの働きかけや、対人援助の現場での被害者への対応も行われていましたが、一般の人の大半は、そうした状況を知らなかったのではないでしょうか」

そう話すのは男性の性被害の研究者で、法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」のヒアリングに協力した経験も持つ、立命館大学大学院の宮﨑浩一氏。言葉の状況に関しては、コラム(本記事5ページ)で詳述しているように、99年の「週刊文春」の報道では、「ホモ・セクハラ」という不適切な言葉が使用されていた。

また性被害から「男性」が除外される状況はかつて法律においてもあり、その法改正が行われたのはごく最近のことだ。2017年に強姦罪が強制性交等罪に改正され、被害対象者の性別を問わない形だったが以前は、被害対象は女性に限られていた(なお強制わいせつは、以前から男性も被害者になることがあった)。

「17年の法改正は『性別に関わらず挿入を伴う性暴力被害がある』と国が認めたということ。改正された文章には女や男という性別の明記もなく、ジェンダーやセクシュアリティを問わない形となりました。これは非常に大きな変化で、男性の性暴力被害が一般に知られる機会となりましたし、被害者の人たちが『自分の体験は被害だった』と捉えるきっかけにもなったと思います」(宮﨑氏)

なお欧米等では日本より前から男性の性被害がメディアで多く報じられ、その支援団体がいち早く組織された国もあった。男性の性被害専門カウンセラーで、カナダで男性の被害者の支援センターに約6年勤務した経験も持つ山口修喜氏は以下のように話す。

「カナダやアメリカでは、90年代ごろから、各都市でさまざまな支援団体が組織されていきました。また00年代半ばには、人気トーク番組『オプラ・ウィンフリー・ショー』で男性の性被害の特集が組まれ、200人ほどの被害者が顔出しで出演したこともありました。アメリカで著名人が性被害を告発する事例も複数あり、日本と比較して男性でも被害の体験を話しやすい状況が早くから作られていたと感じます」

では現在の日本で男性の被害者はどの程度いるのかというと、「刑法上の性暴力被害の認知件数で単純に比較するのは、暗数の問題もあり難しい」と宮﨑氏。その前提を踏まえた上で2020年度の内閣府の調査を見ると、「無理やりに性交等された経験」を持つ男性は調査対象の1%程度。女性の6.9%より少ないが、100人に1人は被害経験があることになる。

「現状の統計では、欧米でも女性のほうが被害者の割合は高くなっています。ただこの問題の認知が広まれば、被害を打ち明ける人も増える可能性があります」(宮﨑氏)

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