サイゾーpremium  > 特集  > エンタメ  > 【黒人映画】サントラの雛形をつくった画期的4作

――一時代を築き上げたブラックムービーは多彩なジャンルが生まれ、あらゆる分野で話題を独占。いまヒットを放つ黒人映画の“要素”を知る。

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「男勝りの女MC」は、もはや古い過去。いまや世界を代表する女優となったクイーン・ラティファ。強盗犯役もタクシーの運転手役も、恋に落ちる理学療法士を演じても、常にダイナマイト・バディ。

「黒人による黒人のための映画の進化 知られざるブラックムービーの世界」で解説した通り、この数年でブラックムービーが勢いを取り戻している。昨年公開された『42~世界を変えた男』【1】や『大統領の執事の涙』、今年に入ると『Ride Along』【2】が公開と、黒人俳優を主役にした映画が米興収チャートで軒並み首位を獲得。これらに加え、『それでも夜は明ける』や『Fruitvale Station』など評論家好みの作品も生まれ、ブラックムービーは現在、質・量ともに充実した時期にあるといってよいだろう。

 ところが、日本におけるブラックムービーは、まだまだ“スキモノ向けジャンル”の域を脱しておらず、感動巨編とデンゼル・ワシントン主演作品を除いては、冷遇されているのが実情だ。そこで本稿では、近年米国で話題になったブラックムービーについて、独断で緩くジャンル分けをしながら紹介していきたい。

 まずは、主に実話に触発され、見る者を元気づける「インスパイア系」。困難に耐えながら運命に打ち勝つ人物をモデルにした感動巨編が多いため、日本公開されることが多い。しかし一部では、「映画自体は素晴らしいが、奴隷やメイド、執事、従属的な地位にいる伝記・格差社会ものはおなかいっぱい」という黒人の若年層が存在するのも事実である。これは俗にいう「アジア女性といえば従順な耐え忍ぶ女、日本人といえば芸者」という感覚に近しい。

 教会に通い、ゴスペルを聴く黒人をターゲットとした「クリスチャン系」は、00年代頭からタイラー・ペリーの独壇場だ。日本では『スター・トレック』のバーネット提督として認知されているであろうペリーだが、黒人映画界では押しも押されもせぬ大物作家で、スパイク・リーを凌駕する実績を残している。彼は舞台俳優としてドサ回りを続けて地道にファンを増やした後、映画界で大成した苦労人で知られているが、特に人気が高いのは、ペリーが毒舌クリスチャンばあさんに扮した『Madea』シリーズ。米で昨年公開された『A Madea Christmas』【3】で7作目を数えた。1作目では、聖歌隊が「アラーでもブッダでもなく、ジ~ザス!」と歌い上げるシーンもあり、異教徒を寄せ付けない凄味と偏狭さがあったが、全米での認知度が高まるにつれクリスチャン臭を薄め、現在は“黒い水戸黄門”のような様式美で、お約束の展開を繰り返している。また、顔面に多少の難があろうが、演技派子役を起用する点は橋田壽賀子ドラマにも重なる。その他クリスチャン系は、元デスティニーズ・チャイルドのメンバー、ラトーヤ・ラケット主演の『Preacher’s Kid』など地味ながらも数は豊富で(しかし質は悪い)、主に中年女性から人気を博している。また、際どいシーンも少なく、老若男女・親戚一同で安心して鑑賞できる長所もある。

「コメディ系」はブラックムービーの鉄板。特に警官ものアクションコメディは、過去に『バッドボーイズ』【4】や『ラッシュアワー』(98年)など、確実にヒットを放ってきた。そこに加わったのが前述『Ride Along』だ。「この人、本当にもともとギャングスタ・ラッパーだったの?」と笑いのネタにされるほど俳優業が板に付いている、アメリカ西海岸を代表するラッパーのアイス・キューブが、黒人コメディアンで現在人気ナンバーワンのケヴィン・ハートとタッグを組んだ作品である。さすがは口先で勝負してきた2人だけあり、その会話は歯切れが良く楽しい。こうしたコンビもののコメディでは、軽妙な掛け合いから「ブラックマンのラジオに触ってはいけない」「非黒人が“ニガー”なんて使うと大変なことになる」など、黒人にとっての一般常識が学べるところも楽しい。

 そして、気になる異性を部屋に上げて、むふふ……という甘いたくらみの小道具となるのが、「ロマンティック系」。このジャンルを好んで鑑賞する男性のほとんどが「鑑賞後のお楽しみ>>>作品自体の鑑賞」という図式だ。ニア・ロングやガブリエル・ユニオンなど、黒人男性好みの黒人女優が複数配備され、劇中にはセクシーなラブシーンも適度に挿入、女性の気分(および男性の股間)を盛り上げるサービスが標準装備されている。ちなみに胸にこだわるのは白人男性ばかりで、一般的に黒人男性は“尻と脚”を重視する。筆者がおっぱい絡みで黒人が興奮している姿を見たのは、『ナッティ・プロフエッサー2』で、ジャネット・ジャクソンがウエディング・ドレスを着たシーンのみである(世の黒人男性陣はジャネットの胸の谷間を見ながら「ハレルヤ……」とつぶやくのであった)。ブラックムービーに関していえば、「女優の乳首が出ているか否か」など、日本人がこだわるポイントはほとんど話題にならない。

 なお、90年代後半から00年代初頭には、『ラブ・ジョーンズ』(97年)や『Love & Basketball』(00年)などのロマンティック比重が大きい“セクシーなしっぽり”系作品が多かったが、最近は『Think Like A Man』や『Baggage Claim』(13年)などコメディ要素が強め。ただし、『The Best Man』(99年)の続編として昨年公開された『The Best Man Holiday』【5】は、コメディ、ドラマ、ロマンスをバランスよく配合しており、久々にしっぽり度の高い作品として注目を集めた。

 一方で同じロマンティック系でも、姐御肌で知られる女性ラッパー、クイーン・ラティファがイケメン・ラッパー(兼俳優)のコモンと恋に落ちる『恋のスラムダンク』【6】は展開に無理がありすぎるため、「カップルのしっぽり」仕様ではなく、「喪女の妄想」仕様となっている。

 最後に、地味ながら「リアル系」も存在する。90年代はストリートを舞台とした作品が多かったが、『Gimme the Loot』(12年)は、地元ニューヨークに生きる少年少女を描きつつ、爽やかで楽天的な空気を漂わせた不思議な作品だ。特にフッド(地元)の若者の話しぶりそのままの台詞は、ぜひチェックを。少女の「ファック!」連呼に戸惑うかもしれないが、あれぞまさに、ハード系黒人女子のリアルトークなのだ。

 本稿で紹介した映画は、ここ数年で成功を収めたブラックムービーのほんの一部である。今年は『Think Like A Man』の続編や、マーロン・ウェイアンズ主演のホラー・コメディ『A Haunted House』の第二弾、『42~世界を変えた男』で主演を務めたチャドウィック・ボーズマンが、ジェームス・ブラウンを演じる伝記映画『Get On Up』などが控えており、"ミスター・マライア・キャリー"ことニック・キャノンが主演した学園青春映画『ドラムライン』(02年)も続編の製作が発表された。

 さまざまなジャンルで歴史を築き上げてきたブラックムービーの勢いは、このまましばらく続きそうだ。

押野素子(おしの・もとこ)
ハワード大学ジャーナリズム学部卒業。訳書に『マイケル・ジャクソン裁判』や『JB論:ジェイムズ・ブラウン闘論集』などがある翻訳職人。現在、ワシントンDC近郊のブラックネイバーフッドに在住。

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【1】『42~世界を変えた男』
監督:ブライアン・ヘルゲランド/出演:チャドウィック・ボーズマン、ハリソン・フォードほか/発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
まだ人種差別が激しかった1940年代、黒人初のメジャー・リーガー(正確には2人目)といわれたジャッキー・ロビンソンの伝記映画。ハリソン・フォードの熱演も光る。(13年公開)


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【2】『Ride Along』
監督:ティム・ストーリー/出演:アイス・キューブ、ケヴィン・ハートほか/発売:ユニバーサル・ピクチャーズ
「ラッパーより俳優のほうが儲かるぜ!」を体現したアイス・キューブ主演のポリス・コメディ。『フライデー』や『バーバー・ショップ』、『アナコンダ』など、キューブは本当に演技がお上手。(日本未公開)


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【3】『A Madea Christmas』
監督:タイラー・ペリー/出演:タイラー・ペリー、アンナ・マリア・ホースフォードほか/発売:ライオンズゲート
タイラー・ペリーの女装云々よりも、なぜこんなにおもしろい作品が日本未公開のままなのか謎な人気コメディ「メディア」シリーズの劇場版。タイラー・ジョーク、炸裂。(日本未公開)


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【4】『バッドボーイズ』
監督:マイケル・ベイ/出演:ウィル・スミス、マーティン・ローレンスほか/発売:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
ウィル・スミスとマーティン・ローレンスという、ブラックムービー界を代表する2人による黒人刑事映画。ダイアナ・キングが歌う主題歌「Shy Guy」も大ヒット。(95年公開)


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【5】『The Best Man Holiday』
監督:マルコム・D・リー/出演:テイ・ディグス、ニア・ロングほか/発売:ユニバーサル・ピクチャーズ
99年に公開された『The Best Man』の続編。日本では公開されることがなかったが、ビヨンセやザ・ルーツ、マックスウェルらが参加した初代サントラに続き、続編のサントラも実に豪華な布陣。(日本未公開)


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【6】『恋のスラムダンク』
監督:サナー・ハムリ/出演:クイーン・ラティファほか/発売:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
いまやハリウッドを代表する女優となったクイーン・ラティファがラッパー兼俳優のコモンと恋に落ちるという、抱腹絶倒のラブロマンス。実際にラティファのスラムダンクを喰らったら、ひとたまりもない。(10年公開)


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