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第1特集
世界を狙った今際の国のアリスの野望【1】

日本産ドラマが全世界1800万再生! ネトフリの潮目を変えた裏側――『今際の国のアリス』座談会

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――2020年末に配信された『今際の国のアリス』は、全世界で初登場5位となるなど、海外でもヒットを成し遂げた。そこで本稿では、サブカルチャーに詳しい産業医と映画監督、そしてベンチャー企業を手掛けてきた3人が、同作の作品性からビジネス的な狙いまでを分析していく。

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なにかと実写化ものの主人公に据えられては批判を受けてきた山﨑賢人。本作のヒットで面目躍如か?(写真/GettyImagesより)

伊丹タン(以下、伊丹) 普段はウェブの日刊サイゾーで『産業医と映画Pの配信作品批評「ネフリんはほりん」』を連載して、Netflixドラマを見まくっているんだけど、今回は担当編集から「雑誌に出張しろ」と言われたので、『今際の国のアリス』を取り上げていきます。

大室正志(以下、大室) そして、雑誌版のスペシャルゲストとして家入一真さんに来ていただきました。家入さんってNetflix見てるの?

家入一真(以下、家入) 家にはテレビがないのでNetflixはよく見ています。ジャンル的にはドキュメンタリーとかを見ることが多いですね。ただ、映像業界に詳しくないので、今日は一般的な視聴者目線で質問させてもらいます。

――では、早速『今際の国~』について伺っていきましょう。大学を中退したニートの主人公がある日、異世界に迷い込んでしまい、デスゲームに巻き込まれていくこの作品は、世界中で1800万再生を記録。すでにシーズン2の制作も発表されています。

大室 他の作品でも同様なんですが、Netflixオリジナルドラマの文法ってとても味付けが濃い。その濃さを例えるなら「Vシネ」みたいなものです。ただし、映像が洗練されているから意識高い系の人でも見ることができる。本質としては「おしゃれなVシネ」です。

 その意味では、『今際の国~』も同じ。日本のドラマにありがちな、ふんわりとした恋愛プロットをなくし、生きるか死ぬかのデスゲームで味付け濃く視聴者の注意を引きつける。非常にベタな展開の連続なんですが、それをスタイリッシュに見せる映像のクオリティが圧倒的です。

家入 僕は音声を英語にして、日本語字幕で見ていたんですよ。日本語で見てると、どうしても俳優の演技に、気恥ずかしくなっちゃって。音声を英語にして味付けを薄めると、気恥ずかしさもなくなりました。

大室 その見方はおもしろいね(笑)。味付けの濃さとともに、もう一つ特徴的なのは「世界標準コンテンツ」に対する意識の高さ。この作品の冒頭には、渋谷のスクランブル交差点の映像が出てきますよね。しかし、原作マンガでは渋谷は出てきません。初めから世界標準コンテンツとしての戦略を組み立てるため、意図的に世界中の誰もが知っている日本の姿からスタートしていましたね。

――渋谷の映像は、栃木県にある渋谷スクランブル交差点のオープンセットがあるスタジオを利用して撮影されたことは有名ですね。

伊丹 実は、東京は、他の国の都市に比べて撮影許可を取るのってものすごく難しい。だから、これまで東京では思うように撮影をすることができなかったんです。『今際~』は、Netflixの莫大な予算でVFXによってスクランブル交差点を再現してしまいました。

 そうして、Netflixの世界視聴ランキング5位に入る快挙を果たし、再生数も1800万を突破しています。これまで、Netflixのグローバルではほとんどヒットが生まれていなかった日本の実写シリーズ作品にとって、この結果は快挙ですよ。

大室 渋谷を背景にしてデスゲームを行うことで、世界を巻き込む作品になったっていうことだよね。その代わり、この作品が持つ「現代日本っぽさ」はほとんど受け取られてないように思います。この作品って、承認欲求からどう逃れるかをひとつのテーマとしていますよね。デスゲームの渦中に放り込まれることで、エリート家庭の中で自分だけニートの主人公・アリスは日常を取り巻く承認欲求から逃れ、生存欲求に対してむき出しになれる。でも、グローバルのマーケットでは、そんな承認欲求からの逃避はあまり重要視されず、ハラハラドキドキの展開だけが伝わっているんじゃないかな。

伊丹 人物の造形やキャラ設定といった部分はある種、類型的ですよね。山﨑賢人演じる主人公・アリスのニートという設定や、土屋太鳳の演じるウサギの背景にある父親との関係の描き方もクリシェっぽい……。あれくらい記号的にして味付けをわかりやすくしないと、グローバルでは伝わりにくいという判断をしたのかもしれません。

10億円の制作費をどうやって回収する?

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