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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第112回

『ゲット・アウト』――人種問題もネタに!黒人コメディアンの過激で不条理な笑い

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『ゲット・アウト』

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アフリカ系のカメラマン・クリスは白人の恋人のローズと一緒に彼女の実家へ遊びに行った。だが、そこには時代錯誤の黒人家政婦がおり、近所の人も黒人であることを執拗にネタにする。やがてパーティでビンゴ大会が始まるが、実はこれ、クリスを“賭けて”いるのだ。何が真実なのか? クリスは困惑するが……。

監督:ジョーダン・ピール 出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズほか。日本公開未定。


 ケイ&ピールというお笑いコンビが面白い。テレビ版『ファーゴ』で、どうしようもないバカタレのFBI捜査官を演じた2人組がそうだ。ノッポでギョロ目のスキンヘッドがキーガン・マイケル・ケイ。デブチンでメガネのほうがジョーダン・ピール。ケイもピールも父親がアフリカ系で母親は白人。黒人社会と白人社会の間で育ったケイ&ピールのコントには、当然キツい人種ネタが多い。

 ケイが夜道を歩いていると、何もしていないのに警官に逮捕されてしまう。そこにピールが現れてケイを救い、時空の裂け目を通って「ニグロタウン」に逃げ込む。ミュージカルになって、黒人たちが笑顔で歌って踊る。「ニグロタウンではタクシーが止まってくれる」「ニグロタウンではパーカーのフードをかぶってても撃たれない」。フロリダではフードをかぶった高校生が何もしていないのに射殺され、犯人は無罪になった。

 そのジョーダン・ピールが脚本・監督した『ゲット・アウト』というホラー映画が、アメリカで大ヒットしている。主人公はアフリカ系の若いカメラマン、クリス。恋人のローズは明るい白人女性。今度の休みに、2人はローズの実家へ行くことになっている。

「ご両親に、僕がアフリカ系だと言った?」

「ううん。でも大丈夫、パパもママもレイシストじゃないから」

 そう言われてもクリスは不安を隠せない。1967年に『招かれざる客』という映画があった。老夫婦(スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘップバーン)の一人娘が結婚したいという相手を連れて実家に帰ると、彼は黒人(シドニー・ポワチエ)だった、という話。トレイシーの役柄はリベラルな新聞記者だが、いざ自分の娘が黒人と結婚するとなると許せない。筆者も、結婚前に初めて妻の実家を訪問した時は本当に緊張した。自分の父親が韓国人だからだ。

 ローズの実家アーミテージ家は、郊外の高級住宅地にあった。住んでいるのは白人の金持ちばかり。でも、クリスを見たアーミテージ夫妻は温かいハグで彼を迎えてくれる。2人は偏見のない人々だった。ただ、アーミテージ家の庭師とメイドは黒人で、なぜかロボットのように無表情なのが気になる。

 週末、近所の住人たちがアーミテージ家に集まってガーデン・パーティが開かれた。そしてビンゴが行われる。いや、ビンゴのようだが、どこかおかしい。そう、彼らはクリスを競売にかけているのだ!

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