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第1特集
幸福の科学の行く末を憂う【2】

宗教界が声を上げる集団的自衛権反対――池田大作本と公明党の矛盾と困惑とは?

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――7月1日に行われた臨時閣議によって、他国を武力で守る「集団的自衛権」の行使容認が閣議決定された。そしてこの決定を受け、今、宗教界が揺れている。長年、政治に対する意見表明を大々的に行うことのなかった宗教界が、なぜ今、声を上げているのか――。「集団的自衛権」の背後で垣間見られた宗教界と公明党の変化について、宗教学者・島薗進氏と共に読み解いていきたい。

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宗教学者・島薗進氏

――「集団的自衛権」の行使容認が閣議決定されるにあたっての、宗教界全体の動向から教えてください。

島薗進(以下、島薗) 現在に至るまで、キリスト教や仏教などの伝統宗教から、立正佼成会をはじめとした新宗教まで、多くの宗教団体が閣議決定への反対を表明していると思います。これほど宗教団体が政治的な問題に意見表明を行うというのは、実は非常に珍しいことなんです。

 1954年にアメリカ軍による水爆実験に巻き込まれた第五福竜丸が被爆して以降、日本では反核運動が盛り上がり、同時に宗教団体による平和運動も活発化していきました。そこから60年代にかけては、政治的な問題に対しての各宗教団体による意見表明もしばしば行われていたのですが、70年代に入り思想の多様化が進むにつれ、宗教団体は意思表明を行わなくなっていきました。

 ところが、2011年に東日本大震災が起き、死者への供養や遺族たちの心の支えとなる宗教への期待と関心が再び高まると、原発問題、そして集団的自衛権と、宗教的平和の観点から声を上げる組織が目立つようになってきました。

 現代日本の宗教界の変化は、私の著書『現代宗教とスピリチュアリティ』【1】『日本仏教の社会倫理』【2】『宗教と公共空間』【3】を順に追っていただけるとわかりやすいかと思います。

――宗教に耳を傾ける人たちが増えたとなると、政治的な問題に対しても、彼らが大きな影響力を持つ可能性が出てきているのでしょうか?

島薗 注目されるべき勢力になっていることは事実でしょう。今の日本では、与党が選挙で勝利すると、その意のままに政治を動かし、反対勢力の意見が見えなくなってしまいます。その中で宗教は、政府の考え方とは異なる考え方を示す社会勢力として一定の役割を得ているのではないでしょうか。これまで宗教団体は政治家にとって”人集めに便利な道具”だったわけですが、次第に、宗教団体からも政治家に要求をするようになってきています。「平和憲法を守る」「政教分離をしっかりする」「原発再開には民意を反映すべき」。それが守られないのであれば力は貸さない、という関係性に移行してきているのです。これは、経済の拡大や国家権力の増大を求める政府と日常生活に重きを置く宗教団体との間に、利害関係だけでは埋まらないギャップが生じてきているからなのでしょう。

――そんな中、集団的自衛権の行使容認の閣議決定について、最後のストッパーを外したのは創価学会を最大の支持母体とする公明党でした。

島薗 今回の公明党の歩み寄りについては、学会の名誉会長である池田大作氏の対談集『二十一世紀への対話』【4】の中で繰り広げた、イギリスの歴史学者アーノルド・J・トインビー博士との対談をはじめ、ほかの『池田大作全集』【5】などでも再三にわたって主張してきた学会の思想を覆すものでした。池田氏はそこで、集団的自衛権を主張することは戦争の危険を招くことであり、これまでの日本国憲法の平和的精神を守りたいと訴える立場を取ってきたのです。

――政教分離とはいえ、多くの支持者が学会員である公明党としては、支持者に対する明らかな裏切りだったと言えるのではないでしょうか?

島薗 そう感じている人は増えているかもしれません。公明党による集団的自衛権容認後の7月13日に行われた滋賀県知事選挙では、同党が推薦していた人物が落選しました。出口調査では、特に公明党支持者の投票が激減したと伝えられています。今回の一件によって、今後、創価学会には属しているけれども公明党支持ではない、という信者は増えるかもしれないですね。

――田原総一朗氏も「公明党が強く反対をしたため、政府・自民党は大きく妥協」したと自身のブログにつづっているように、一部では公明党によって自民党の暴走は食い止められている部分もあるという評価も聞きます。

島薗 公明党は閣議決定に賛成をしても、まだその内容を押さえられるというような趣旨の弁解をしていますが、そもそも、国のあり方の基本となる平和憲法を勝手に違う意味のものにしてしまうということは法に基づく統治の観点からしても、平和を尊ぶという学会・党の意思からしても大変おかしいことだと思います。それを止める立場を公明党がとっていないということについて、国民も支持者も、簡単には納得できないですよね。また、当初から公明党の山口那津男代表は「自民党との連立は解消しない」と主張してきたため、これを貫かざるを得なかった、という声も聞こえてきます。しかし、連立が解消されれば自民党は国会議員の議席を100程度失うといわれていますから、連立を解消できないのは、何も公明党だけではないのです。それでも、自民党と支え合うという選択肢を取ったわけですから、きちんと説明をすべきですよね。

 現在、宗教界では「他を排除してメンバーや国民が一致結束することが平和に通ずる」という考え方と、「多様な宗教のあり方をそれぞれが認め合って共存し、同じ宗教の中でも一人ひとり異なる多様な生き方・命を尊重していく」という2つの考え方がせめぎ合っています。今回、反対意見を表明している団体の多くは後者であり、幸福の科学や統一教会のように個に対する価値意識が弱い団体が前者です。それは国家や天皇の下での一致結束という国家神道の立場とも通じあいます。

――この価値意識の分岐が、集団的自衛権への意見にも影響を与えていると捉えてもいいのでしょうか?

島薗 やや私の勝手な言い分だと言われてしまうかもしれませんが、そう整理をしていただいてもいいと思います。『近代国家と仏教』【6】も併せてご参照いただけたらと思いますが、今回、いち早く反対表明をした立正佼成会は、70年に行われた世界宗教者平和会議(WCRP)の成立に貢献した団体です。WCRPは、多様な宗教勢力が協力し合いながら世界の平和に貢献しようという目的のもとに、世界各国の宗教者たちが集結しました。この活動の中で、多様性を尊ぶ経験を積んできた立正佼成会においては、その精神をもとに、集団的自衛権への反対を表明するというのは当然のことだった。しかし、先に述べた通り、排他的な、宗教的なファンダメンタリズムが強くなり、十分な討議が行われないまま進められた集団的自衛権の閣議決定のようなことが今後も増えていくとしたら、それはとても危険なことでしょう。とはいえ、こうした宗教界の動きによって、そこに議論が生まれることは望ましいことでもあると思いますので、期待していきたいです。

(構成/編集部)

島薗 進(しまぞの・すすむ)
1948年、東京都生まれ。宗教学者。東京大学大学院人文社会系研究科教授を経て、現在は上智大学教授、東京大学名誉教授。近代以降の日本の宗教史の研究を中心に、世界の諸地域の宗教のあり方の比較研究を行う。近年は、死生学の研究にも取り組んでいる。


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【1】『現代宗教とスピリチュアリティ』
島薗 進/弘文堂(12年)/1200円+税
伝統宗教が影響力を弱め、社会がより個としての意志を尊重するようになった現代において、“スピリチュアリティ”、つまりは個々が持つ宗教観への関心がいかに高まっているかを説いた一冊。


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【2】『日本仏教の社会倫理』
島薗 進/岩波書店(13年)/2300円 + 税
震災後、お寺が被災者に開放され、僧侶が被災者に寄り添い、共に苦難を担おうとする場面が増えた。近代化の中で薄れていた、日本人に根付く仏教が持つ倫理性や社会性を再検証していく。


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【3】『宗教と公共空間』
島薗 進/東京大学出版会(14年)/4400円+税
宗教性が及ぼす公共社会への影響と社会における「宗教」の役割の変化を読み解くことができる本書。宗教に対しどんな期待をしていくべきなのか、考察したい。


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【4】『二十一世紀への対話』
池田大作/聖教新聞社(02年)/809円+税
上中下の全3巻にわたり、イギリスの歴史学者であるトインビー博士と池田大作名誉会長の対談を収録した。ここで池田氏は、集団的自衛権について、はっきりと反対の意思表明を行っている。


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【5】『池田大作全集』
池田大作/聖教新聞社(99年)/2667円+税
全150巻の構想をかかげ、池田氏の提言をまとめた書のひとつ。第2巻にて記された「SGIの日」の「平和提言」においても、池田氏ははっきりと「集団的自衛権」を認めない趣旨の発言をしている。


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【6】『新アジア仏教史14 日本Ⅳ 近代国家と仏教』
末木文美士/佼成出版社(11年)/4000円+税
日蓮主義と政治のあり方について追求した本書では、近代宗教の人々への影響や、明治維新や戦争との関わりなど、広い視野からその関係性を見つめ直している。

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