サイゾーpremium  > 特集2  > 屈辱の撤退から再上陸 【NHN Japan】の奮闘史
第2特集
NHN Japan急成長の裏側【1】

それでもグーグルには勝てない? LINE、NAVERまとめのNHN Japan台頭の裏

+お気に入りに追加

──今年8月、スマートフォン向けインスタントメッセンジャーアプリ「LINE」のユーザー数が世界で5000万人を突破したと報じられた。このアプリを開発したのは、日本のIT企業・NHN Japanだ。韓国では検索エンジンにおいてグーグルを上回るシェアを持つというNHN社の日本支社だが、LINEの開発をはじめ、キュレーションサービス「NAVERまとめ」などで昨今その知名度を急激に伸ばしている。2010年にはライブドアを買収し、今年頭に完全統合を果たしてますます勢いに乗る同社だが、この急成長に落とし穴はないのだろうか?

1210_LINE01i.jpg
『LINEを100倍楽しむ本』(アスペクトムック)

 ここ最近、日本のIT業界関係者の間で、頻繁に話題になる会社がある。それが、新宿区と品川区大崎にオフィスを置く、NHN Japan社だ。しかしこの会社の場合、一般には社名よりも、運営するサービス名のほうが広く知られていることだろう。インスタントメッセンジャーアプリの「LINE」、個人向けキュレーションサービス「NAVERまとめ」、そしてオンラインゲームの「ハンゲーム」などである。この名前を聞けばピンとくる読者も多いのではないだろうか。サービス名が先立ち、会社としての存在感はやや薄いが、実はあのライブドアも2010年に同社に買収されており、資本金約125億・全従業員1000名ほどのそこそこ大きなIT企業なのだ。

 NHN Japanは、韓国内でトップのシェアを誇るIT企業・NHNの日本支社である。00年9月に日本に初めて上陸したときの社名は「ハンゲーム・ジャパン」。オンラインゲーム大国である韓国のサービスが日本にも上陸したとして、当初かなり話題になった。そうして下地を作った後、ネイバージャパン株式会社を立ち上げ、01年には検索ポータル「NAVER」を日本でスタートさせた。詳細は91ページに譲るが、「NAVER」は検索・ポータル機能において韓国で実に7割のシェアを持つ巨大サービスだ。日本で言うところのYahoo!のような存在である。しかしこの日本進出は失敗に終わった。

「当時の『NAVER』は、日本語へのローカライズが全然うまくいっておらず、検索精度が低すぎた記憶があります。それではむろんポータルサイトのほうも根付かない。03年にネイバージャパンはハンゲームと合併してNHN Japanになりましたが、『NAVER』自体の定着は結局一度諦めて、05年に閉鎖しました」(ITジャーナリスト)

 しかしNHNはゲーム以外の日本市場を諦めたわけではなかった。09年、今度はNHN Japanの子会社としてネイバージャパン株式会社を再び立ち上げ、サービスを再開。そして10年5月にはNHN Japanはライブドアを買収し子会社化するという速攻を見せた。買収から4カ月後の9月には、ライブドアの検索エンジンが「NAVER」に置き換わっている。

日本発! LINEがここまで普及したカラクリ

 そして、同社の中で今最も注目を集めているサービスは「LINE」だろう。スマートフォン向けインスタントメッセンジャーアプリで、テキストチャットと無料音声通話が主な機能になっている。同アプリは韓国からの輸入ではなく、日本法人が独自開発したもの。11年6月にサービスを開始し、1年余りで中東や東南アジアなどにも広がりを見せ、世界で5000万人のユーザーを抱える巨大サービスに成長した。その成功の理由について、『Google+ 次世代SNS戦争のゆくえ』(ソフトバンク新書)などの著書を持つ株式会社モディファイCEOの小川浩氏はこう語る。

「AndroidやiOS上で、無料通話とメッセンジャー機能に絞り込んだシンプルなサービスを提供していることが『LINE』の魅力です。加えて、スマートフォンの電話帳をベースに、そこに登録されている知人を仲間に引き込む仕掛けが優れている。サービスモデルとして韓国のカカオトーク【編注:同様のメッセンジャー&無料通話アプリ。同国のベンチャー企業が開発した。韓国のスマホユーザーの95%が使っているという情報も】という先行者がありました。それを良い意味で改良コピーするという戦略を取ることができ、さらにNHN自体が強力な資金を有しているため、いわば後出しジャンケンと資金力でカカオトークを抜き去ったと言えます」

 そして「LINE」の人気を支えるのが「スタンプ」だ。前ページ上部のサービス紹介を見てほしいが、いわば従来のケータイメールにおける絵文字をさらに大きくしたようなもので、キャラクターの種類や表情、イラストのタッチも豊富。無料のものと有料のものがあり、有料ならば一律170円で、コンテンツや商品とのコラボレーションスタンプも多く配布されている。筆者も、映画『アメイジング・スパイダーマン』(12年6月公開)やゲーム『ドラゴンクエストⅹ』(同8月発売)、日清チキンラーメンなどのスタンプを利用している。8月末現在、スタンプをダウンロードできる「スタンプショップ」のランキング1位は『エヴァンゲリオン』(有料)だ。

「オリジナルスタンプを製作・配布する際は、最低で1000万円からかかるそうです。また、企業向けに『LINE公式アカウント』も提供しています。このアカウントを“友だち”に追加したユーザーに、クーポン情報や店舗情報などを直接メッセージで配信できるサービスです。こちらは初期費用が200万円で、月額は150万円から。どちらも決して安くはないですが、国内の2000万人近いユーザーに届く可能性を考えたら、広告としては悪くない。しかもスタンプのキャラクターには一定の親しみが抱かれますし、ユーザー間で送り合うことで話題にもなる。十分、元は取れるでしょう」(前出・ITジャーナリスト)

“出会い”目的が出るのはSNSの宿命だが……

 今後のNHN Japanの成長に不安材料があるとすれば、それはやはりこの台頭を後押しした当の「LINE」がどこかで躓くことだろう。同サービスの今後を左右することになるであろう次の一手として、7月3日に開催された初の「LINE」カンファレンスで発表されたのは、「ホーム」機能と「タイムライン」機能の導入だった。前者は、自分が撮った写真や動画、位置情報などを使って近況をアップデートできる機能で、後者は「LINE」でつながる友人たちがそれぞれに「ホーム」でアップデートした近況をタイムライン形式で閲覧し、コメントやリアクションをつけることができる機能だ。Androidには8月6日から、iPhoneでは同13日から実際に機能が追加されたが、この展開に対しては懐疑的な見方も多い。

「これまで『LINE』は、ウェブ上ではなくスマートフォン上でのネイティブアプリに特化することで、広範囲な人脈作りというよりはクローズドな人間関係のコミュニケーションに絞ってきました。SNS化することはフェイスブックとのユーザーの奪い合いになる可能性があり、戦略的に正しいとは思えませんね。ライトユーザーを失いかねません」(前出・小川氏)

 実際、まだ大きく浸透はしていないようで、「LINE」上の“友だち”が約50人の筆者のタイムラインでも、8月6日の機能開始以降、4件しか投稿がないといった有様である。

 さらに、こうしたコミュニケーションサービスにとっては避けがたいことに、「LINE」を出会い系として利用するユーザーも増えてきた。すでに7月には、奈良市の会社員の男(32)が「LINE」を利用して知り合った中学3年生女子とみだらな行為をしたとして滋賀県青少年健全育成条例違反容疑で逮捕されている。この事件で発覚したが、どこか別の掲示板やSNSで「LINE」のID情報と居住地域などを晒し、連絡を待つという手法が“出会い”目的利用のメインになっているようなのだ。過去、こうした“出会い”目的のユーザーをはびこらせないためにGREEやミクシィなどのSNSでは監視を厳しくし、個人あてのメッセージであっても電話番号の交換を行うとアカウントごと停止されるようになっているが、IDの交換では単なるアルファベットの並びゆえ検出も難しい。ユーザー数の急激な増加に伴ってこうした事件が続けば、かねてよりスマホ向けのフィルタリング強化を進めようとしている政府にとっては、格好の規制対象になるだろう。かつてGREEやミクシィが通ってきたのと同じように、「LINE」に対する世間の批判の目も強まるはずだ。

 ことほどさように、今や看板サービスとなった「LINE」において不安材料も抱えながら、躍進を続けるNHN Japan。中東やアジア圏での「LINE」人気を追い風に、ネットサービスの本場である欧米をも巻き込んだプラットフォームを築き上げていくことはできるのだろうか?

「フェイスブックやグーグルのような大規模プラットフォームに発展させることは難しいでしょうね。会社自体は収益的には当面死角は見当たりませんが、この2社などのライバルとしてグローバル化できるか? という点においては、やはり韓国や日本のネット事情に特化することで収益力を保っているという見方ができます。ですから、真のグローバルプラットフォーマーには成り得ないでしょう」(前出・小川氏)

 果たしてNHN JapanはIT業界を変える存在に成り得るのか? 本特集では、いまだその全貌が世に知られていないであろう同社を解剖しながら、その将来を占っていきたい。

(取材・文/松井哲朗)

いくつ使ってる?
NHN Japanの主力サービス

1210_NAVER.jpg

[日本人にはまだまだ見慣れない方式だが……]
【1】NAVER
日本で新たなシェア獲得を狙っているポータルサイト。韓国での検索結果表示とはまた少し異なるが、グーグルの検索エンジンとも違うアルゴリズムを採用しており、表示のされ方にかなり違いがある。NHN Japanのキーカラーである明るいグリーンが全面展開されている。LINEやNAVERまとめの隆盛に乗って、ポータル・検索のシェアを伸ばせるかどうか、要注目。


1210_NAVERmatome.jpg

[なんでもありのトゥギャッターみたいなもの]
【2】NAVERまとめ
ここ1年で急速にアクセス数を伸ばした、個人向けキュレーションサービス。ひとつのテーマに沿って、他人のツイートやニュース等外部サイトへのリンクとその要約などを並べることで、1本の記事のように仕立てられる。「トゥギャッター」に近い。まとめ作成者に対して、アクセス数などに応じたインセンティブが支払われる。なお、最近は外部からの完全パクリ記事に対しては厳しく対処しているもよう。


1210_LINE.jpg

[コミュニケーションの体感スピードが加速]
【3】LINE
目下注目を集めるインスタントメッセンジャーアプリ。吹き出し形式で表示されるテキストチャットと、そこで使用できるスタンプが人気を支えている。アプリをダウンロードしたら電話番号を登録すれば使えるが、電話帳の情報を一度NHN Japanのサーバーに吸い上げることで自分のスマホに登録されている人物の情報を開示し、LINEを使っているユーザーがいれば自動的に“友だち”に登録される仕組み。そのやり方にはセキュリティ面から危険性が指摘されており、登録時に「電話帳アップロードを拒否」など自衛策も考えるべき。


1210_hangame.jpg

[日本進出の功労者だが……やや下り坂?]
【4】ハンゲーム
現在NHN Japan社が展開しているサービスのうち、最も早く日本に上陸したオンラインゲームサービス。ブラウザゲームが主力で、RPGやMMORPG、育成ゲーム、ボードゲーム、スポーツゲームと幅広い。アバターの作成や、ゲーム内通貨の流通など、今日のオンゲ・ソシャゲ業界のビジネスモデルになった部分も大きい。しかし後発の国内サービスに押されて若干苦しい戦いを強いられている。


ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論
    • 音楽業界からの【賛辞と批判】
    • 【芸能プロ】的戦略が抱える2つの“矛盾”
    • 令和の【ジャニーズ・シングル】20選
    • 20年代のジャニーズ【ミュージックビデオ】

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

インタビュー

サイゾーパブリシティ