サイゾーpremium  > 特集  > エンタメ  > アート界の”瑕疵”【悪徳絵画商法】の実態

──美術界の本流からは無視されてきたヒロ・ヤマガタやクリスチャン・ラッセンといったアーティストがいる。彼らが美術界で冷遇されてきた理由の一つには、その販売手法にあった。“絵画商法”と呼ばれる悪名高い売り方をはじめ、アートビジネスの裏面というべき悪徳美術販売はいまだ業界に跋扈している。名画の裏であくどく儲けるその手法の現状を紐解いてみた。

1309_akutoku_01.jpg
年に数回来日し、自身の展示会に足を運ぶラッセン氏。各地で人気を誇る。

 一般の人には取っ付きにくいと思われがちな現代アート。閉じられた世界に収まるのではなく、大衆も楽しめる土壌を醸成しようとする動きもあれど、一方では相変わらず販売経路や価格設定が外から見えにくいため、「胡散臭い」と警戒心を抱く人は少なくない。特にそういった風潮を煽ってきたのが、展示会商法と呼ばれる手法により、リトグラフやシルクスクリーンなどの版画を、流通価格ではあり得ない高額で売りつける手口が横行していることだろう。イルカの絵で有名なクリスチャン・ラッセンや、カラフルで幻想的な街を描くヒロ・ヤマガタなどといった作家の作品がその象徴としてメディア等で取り上げられることもあり、現代アート界の健全な発展に影を落としている。

 先ごろ、『ラッセンとは何だったのか?――消費とアートを越えた「先」』(フィルムアート社)という評論本が刊行され、「初のラッセン論」として一部で話題になった。同書では日本のアート評論のど真ん中にいる人々が、それぞれにラッセンという画家についてアートの観点から読み解いているが、ラッセンを語ることは長らく美術業界でタブー視されてきた。その背景にはラッセンの「わかりやすい作風」への反発もあっただろうが、販売手法への反感があったことも同書からは読み取れる。

 ラッセンなどの作品を扱っていることで有名な販売業者・アールビバンのアート関連事業は、売上高が35億9700万円(前年同期比5・3%増)、営業利益は5億9300万円(同119・1%増)に上っている(2013年3月期 決算短信)など、1社だけみても市場は大きく、アンチもいればファンもいるのだ。ラッセンについては、展示会に本人が現れた際の盛り上がり方は「新興宗教の『教祖様』のようだ」とまで表現されている(「週刊文春」94年12月1日号「一枚八十万円『高級ポスター』バカ売れの裏側」)。

 70~80年代にこの手の絵画販売で名を馳せたヒロ・ヤマガタは、99年のインタビューで「日本で紹介されている作品の多くは、米国の悪徳画商にだまされ、押しつけられて描いた絵だ」と回答しているが、ラッセンは90年代の全盛期にはひとつの版画作品を1000~3000枚刷り、アールビバンから「それは刷りすぎだ」といさめられたことがあるというほど、販売に熱心なようだ(さすがにいさめられて以降、枚数は減らしたそうである/「週刊ダイヤモンド」97年7月5日号アールビバン・野澤克巳代表インタビューより)。

 彼らに象徴される展示会商法の中でも、「エウリアン」(「絵を売る人」と「エイリアン」を掛け合わせた造語)と揶揄されることもある悪質な絵画販売業者の手法でよくあるパターンは、繁華街の駅前で若い女性に声をかけさせ、ポストカードを見せながら「すぐそばで展示会をやっているんです」などと誘わせるというもの。展示会で絵を見ていると、「どの絵がお気に入りですか?」と勧誘が始まり、契約するまで帰れない雰囲気を作られる。お金がないと断っても、「分割にすれば安いもの」「絵画は人生を豊かにする」などと口説き落とし、半ば強引に契約を取ってしまうというのだ。

 裁判になったケース(08年高裁判決)では、26歳の男性が展示会で執拗な勧誘に遭い、購入を断って帰ろうとしても販売員が両手を広げてそれを阻止。本来はさほど稀少価値がないにもかかわらず、「今買わなかったら価格はどんどん上がる」などと、あたかも価値のあるもののように勧めてきたという。結局、この男性は市場価格5000~1万2000円のシルクスクリーン版画を48万円で契約させられてしまった。版画はアメリカ人アクリル画作家のもので、販売業者がクーリングオフにも応じなかったというから悪質だ。しかも、後日、同じ男性を電話で誘い出して、2件目の契約まで取っている。一度見つけたカモは手放さないということなのだろう。

 また、国民生活センターに寄せられた相談の中には、大手スーパー店舗内の個室で、流通価格14万6000円のシルクスクリーンを82万9000円で契約させられたケースも存在する。同センターではこの事例に対し、「5時間もの長時間にわたり、『支払えないので購入できない』と述べている消費者に対して、通常の流通価格の約3倍から約5・7倍の価格のシルクスクリーンを、『希少価値がある』とか『社員割引にするから月々の支払い額が安くなる』などと虚偽の説明をし、高額な立替払い契約で締結させたという典型的な若者を狙った絵画の展示会商法」と断じている。

 同センターの担当者は、こうした悪徳業者に狙われるのは20代の若い男性が多く、「たまたま地方から上京した際に、引っかかってしまうケースもある」と明かす。若い綺麗な女性が男性に声を掛け、親しくなってから作品の購入を持ちかける、いわゆる「デート商法」と呼ばれる手法を取る場合も多く見受けられるという。前出のケースでは、「この絵は、あなたのような人にぜひ所有してもらいたい」「この絵画は、お客様の特別な絵です」といった営業トークが使われており、「あなたならわかる」という特権意識を植え付けている痕跡もうかがえる。ましてや綺麗な女性におだてられれば、気分が良くなってしまうのが男性心理というものだ。

 アートという明確な価値の判断が難しいものだからこそ、「あなたのような人にぜひ」という盛り上げ方が可能なのかもしれない。芸術の価値に対する憧れを逆手にとっているこれらの手口は、良心的なアート業界人には許しがたい商法だと言えよう。

高齢者をターゲットに販売ではなく出品商法も

1309_akutoku_11.jpg
国内オークション会社大手である、SBI証券系のSBIアートオークション(写真上)と、シンワアートオークション。国内外各々でオークションの“格”も当然存在するらしい。

 ただ、こうした古典的な悪徳展示会商法の手法は、すでに周知のものとなっているため、最近では被害が減っている。国民生活センターに寄せられた展示会商法の相談件数は、03年度が550件だったのに対して、386(04年)、472(05年)、359(06年)、283(07年)、203(08年)、158(09年)、171(10年)、110(11年)と年々減少傾向にあり、12年度は102件と、ピーク時の5分の1以下にまで減少している。同センターは10年前までのデータしか公表していないため、それ以前は不明だが、「週刊文春」(前出号)によると、94年4~10月には809件の相談があったとされている。また、東京都内の消費者センターに対しても、93年に288件の相談が寄せられ、「そのほとんどが、ラッセンやヒロ・ヤマガタといった現代版画を高額で購入してしまった、20代の若者である」と紹介されている。

 しかし、展示会商法は完全になくなったわけではない。11年には秋葉原や銀座などの路上や店頭で若者に声をかけ、高額な絵画を販売していたアートクライミング、アトリエ凛、葵美術、アールブリアンの4社が東京都から行政処分を受けたことを見ても、まだ「エウリアン」たちが繁華街を闊歩していることは確かであろう。アートクライミングに関しては、07~10年度に東京都消費生活センターへ68件もの相談が寄せられており、平均契約額は103万4000円、最高金額は330万円だというから驚きだ。相談者の平均年齢は26・7歳(最少20歳)で、相変わらず若者がターゲットになっているようだ。また、最近ではギャルゲーなどの“絵師”による原画展で高額な版画が強引に売られるケースもあり、当の絵師が了承していなかったトラブルも発生しているという。時代に合わせて絵画のジャンルも広がってきている。

 さらに、近年の兆候として際立っているのが、高齢者を狙う悪徳アートビジネスだ。東京都は11年に、「有名な評論家の先生が、あなたの作品を絶賛しています」と絵画をたしなむ高齢者に電話をかけたり、訪問したりするなどの手法で展覧会への出品や画集掲載の勧誘を行っていた出品サービス事業者・遊美堂に対して、業務停止命令を下した。

 こちらは、展示会に呼び込んで高額な商品を購入させるのではなく、「有名な先生方のお墨付きがあるので審査を飛び越えて出展が決まっている。審査料が無料もしくは特に優遇された金額で出展できます」「今、休みを返上して評論家の先生と会議をしているところです。評論家の先生が集まって絵を推薦している。何がなんでも絵を載せてもらうようにしなさい、と言われている」などと、とにかく褒めちぎり、出展料をかすめ取る手口だ。「褒め上げ商法」と呼ばれるもので、遊美堂について東京都に相談を寄せた人の平均年齢は、77歳(最高91歳)と高齢者ばかり。平均契約額も42万2000円(最高169万円)に上っている。これは、一時期、出版業界ではやった自費出版商法とも似ている。

「褒められてしまうとうれしくて正常な判断ができず、安易に契約してしまうんです。若者をターゲットにしてクレジット契約しても、途中で返済が滞ってしまうというリスクもあるので、業者からすると現金を持っている高齢者を相手にしたほうがいいと思っているのでは。09年頃から増えてきた相談事案です」(国民生活センター)

 こういった事例を見ると、ますます「アートは胡散臭い」と思ってしまう人も多いはず。また、バブル期にアートが投機的に扱われた歴史もあり、「素人が手を出すものではない」という印象もつきまとう。コレクターや美術館をはじめとした美術の“本流”の収益構造も、一般の人にはほとんど知られていないのだから当然だ。

 いわゆるアート市場の成り立ちとしては、まずギャラリーや画廊に作品が出品され、展示や売買が行われる。これは“目利き”のような機能を持ち、名門のギャラリストに認められることが若手作家の目下の目標になる。有名なコレクターに作品が買われたり、美術館に収蔵されたりするなどの過程を経て、作家の評価が定まっていく。ギャラリストが作家を世に売り出すプロモーションに関わることもある。これが、プライマリー(一次)と呼ばれるマーケットだ。

 肝心の価格はどのように決めるのかというと、過去の実績や既発表作の売買価格などによって市場価値をはじき出すというものだが、村上隆・奈良美智を世に出したギャラリスト・小山登美夫の著書『現代アートビジネス』(アスキー新書)によると、同時期に出品する同じアーティストの作品は、サイズと素材で値段が決まるという原則があるという。つまり、「100号【引用者註:キャンバスサイズ。長辺1621ミリメートル】のペインティングは、すべて同じ値段」であり、「プライマリー・プライスは、作品の出来ではなく、一つの規則に則ってフラットに値付けすることが多い」(同書より)。

 一方、セカンダリー(二次)のマーケットは、オークションが主戦場となる。世界でいうとサザビーズやクリスティーズ、日本では毎日オークション、シンワアートオークション、SBIアートオークション、エスト・ウェストオークションズなどが有名どころだ。オークションには一度マーケットで取引された作品を中心に持ち込まれ、ここでの落札価格がプライマリー・プライスの評価に影響してくることも押さえておきたい。

 オークションでは、もちろん競りによって価格が決まる。ある元業界関係者によると、「売り手と買い手両方から15%ほどの手数料をもらうのがオークション会社の商売。つまり、売れ残るのが一番嫌なので、オークション会社の営業マンは、例えばピカソの絵画が1億円で売れるだろうと弾いたら、いかに売り手から8000万円で出品させるかに腐心します。人が殺到すれば高値で売れるし、そこまで人気が出なくても低く設定しておけば誰かしらに売れる可能性があると考えるからです」という。しかし、もともと好事家たちが形成する閉鎖的な業界だったため、一部では不透明さも残る。落札価格をつり上げるべく、誰も入札していないのに壁を指して金額を叫ぶ、「壁打ち」と呼ばれる手法が使われることもあるという。「まあ、オークション会場に来ている人は、よく業界のことを知っている方なので、壁打ちすると、ヤジが飛んだりしますけどね(笑)」(前出の元関係者)と聞くと、やはり特殊な業界であることは間違いない。

 さらに、正規のギャラリーでも、グレーな手法で儲けを出そうと考えるケースもある。

「村上隆さんのポスターが、彼のギャラリーショップで定期的に2~4万円くらいの値で販売されるのですが、アルバイトを雇ってポスターを購入させ、海外オークションに高値で出品する業者があることは、業界では有名な話です」(美術業界関係者)

 印刷作品のため大きな儲けにはならないが、小銭稼ぎにはなるということらしい。

 ラッセンのような“異端”にせよ、村上隆のような“本物”にせよ、アートの世界における価値の測り方はとかく素人にはわかりづらい。「日本では十分にアート市場が育っていない」と美術業界関係者は口を揃えるが、手を替え品を替え不当に儲けようとする業者が跋扈する限り、この市場に対するアレルギーはなかなか撲滅されないままだろう。ひとまず、街頭や店頭で覚えのない美人に声をかけられたら要注意である。

(文/宮崎智之)

1309_akutoku_03.jpg

■80年代に荒稼ぎ、でも本当はインスタレーションの人
ヒロ・ヤマガタ

【1】長野五輪(98年)のポスター。このほかに、バルセロナ五輪(92年)、アトランタ五輪(96年)の公式ポスターも作成している。お馴染みの、細かく描きこまれた人々と長野の自然に、カラフルな花火が映える。(個人蔵)


1309_akutoku_04.jpg

【2】「スモールワールド」。92年に米国のウォルト・ディズニーアートクラシックインクと契約を結び、ディズニーキャラクターを取り込んだシルクスクリーン作品を制作。明朗で色彩にあふれた彼の世界観は、“夢の国”との相性が良かったのだろう。(個人蔵)


【3】03年に開催された横浜トリエンナーレでのインスタレーション「ヒロ・ヤマガタとNASAの世界」。従来のシルクスクリーン版画のイメージとはかけ離れている。しいて言えば、色使いが多彩なのが共通する作風か。

ヒロ・ヤマガタ
1948年、滋賀県生まれ。高校卒業後、地元の日本画家に弟子入りすると同時に上京。広告会社でデザイナーをした後、70年代に海外へ移り、ヨーロッパ各地で個展を開く。78年にロサンゼルスに移住し、シルクスクリーン作品の制作に取り組む。この時期を、本人は「自分をアメリカに来るよう誘った画商に一方的に11年間の契約を結ばれ、毎日版画を作らされた」と述べており(共同通信、99年5月)、不本意な制作だったと捉えているようである。しかし実際にこの時期に作った作品が売れたことは間違いない。現在は、元来取り組みたかったレーザービーム等の光を使ったインスタレーションの制作に挑んでいる。(写真/共同通信)

1309_akutoku_07.jpg

■販売手法に1ミリの躊躇もない!? アート界の鬼子
クリスチャン・ラッセン

【1】83年に発表された代表作「サンクチュアリ」。海と海洋生物、宇宙空間というラッセンのモチーフが詰め込まれている。国連の「クリーンオーシャンキャンペーン」のイメージアートであり、記念切手にもなった作品。(個人蔵)


1309_akutoku_08.jpg

【2】ラッセンが主演した海洋映画『I am the earth』(97年)のポスター。映画自体は、海の生物とラッセンの交流を通して、今ある地球環境の豊かさ、大切さを訴える作品。ユニセフ推薦映画になっているとのこと。(個人蔵)


1309_akutoku_09.jpg

【3】公式iPhoneアプリもある。アプリからダウンロードして壁紙等に設定できるが、350円はアプリとしてはやや高額。細かく儲けるチャンスは逃さない。


1309_akutoku_10.jpg

クリスチャン・リース・ラッセン
1956年、カリフォルニア生まれ。幼少期に家族でハワイに移住し、海に親しんで育った。20代前半にプロサーファーとして名を上げるのと同時に、画家としての活動を始め、「マリンアーティスト」を名乗るようになる。高校では美術系の学科に所属していたが、本人いわく画法はほぼ独学であるらしい。基本的なモチーフは、イルカやクジラ、シャチといった大型海洋哺乳類を中心に、熱帯魚や海それ自体を好んで描く。あるいは、画面を半分に割って下半分が海、真ん中で海面を破ってジャンプするイルカ、そして上半分に惑星を配置した宇宙空間、という“全部盛り”のような構図も多い。日本では一部で「ラッセン(笑)」という扱いを受けているが、いまだにファンは絶えない。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論
    • 音楽業界からの【賛辞と批判】
    • 【芸能プロ】的戦略が抱える2つの“矛盾”
    • 令和の【ジャニーズ・シングル】20選
    • 20年代のジャニーズ【ミュージックビデオ】

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

サイゾーパブリシティ