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小原真史の「写真時評」【113】

メメント・モリと写真

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――過去から見る現在、写真による時事批評

TOPコレクション メメント・モリと写真―死は何を照らし出すのか
会場:東京都写真美術館2階展示室
会期:6月17日〜9月25日
開館時間:10:00〜18:00 (木・金曜日は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし月曜が祝休日の場合は開館、翌平日休館)
入館料:一般700円/学生560円/中高生・65歳以上350円
(※オンラインによる事前予約を推奨)

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ロバート・キャパ《オマハ・ビーチ、コルヴィユ・シュル・メール付近、ノルマンディー海岸、1944年6月6日、Dディに上陸するアメリカ軍》1944年、東京都写真美術館蔵
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澤田教一《泥まみれの死》1966年、東京都写真美術館蔵

昨年夏と同じように新型コロナウイルスの感染者数が増えてきた。同じ失敗を繰り返す人間よりも変異を繰り返すウイルスのほうが適応力があるということなのだろう。デルタ株が広がった去年、知人を何人か亡くしたこともあり、コロナ禍以前よりも死が身近になったようにも感じられる。

「メメント・モリ」とは、「死を想え(死を忘れるな)」という意味のラテン語で、もともと古代ギリシア・ローマで生まれた「人間はどうせ死ぬのだから今をせいぜい楽しめ」という意味の標語だったようだが、ペストが流行した中世に「人間は死すべき運命にあることを自覚して生きよ」という意味の警句に変わり、「メメント・モリ」をテーマにした絵画や彫刻も数多く制作された。例えば、ハンス・ホルバインの「死の像」(画像3枚目)やバーント・ノトケの「死の舞踏」、ピーテル・ブリューゲルの「死の勝利」などの絵画は、よく知られている作品ではないだろうか。

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ハンス・ホルバイン(子)《老人》(試し刷り)『死の像』より、1523–26年、国立西洋美術館蔵

21世紀の現在、私にとってもっとも死を想起させるメディウムはと言えば、いまだ写真だ。これまで写真は死を主題にし、死に憑かれてきた。あるいは「死の勝利」に抗し続けてきたとも言えるだろう。「影をとどめよ、その身が消え果てるまえに」とは、19世紀の写真館の決まり文句のひとつだった。人間は肉体が朽ちてしまう前にその外見を残そうと古くはミイラやデスマスクなどを制作してきたが、そうした欲望に首尾よく応えたのが写真だった。

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