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第1特集
渋谷ホームレス女性の殴殺事件で注目を浴びる

弱者を街から追い出す排除アート 巧妙な手口と権力との癒着の実態

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アート作品のような見た目を持ちつつも、巧妙にその場から特定の人間を“排除”する──。そんな都市部の「排除アート」が最近注目を浴びている。「こんなものはアートじゃない」という意見もあるだろうが、こうした造形物がアートと認識されることは、実は設置者側に好都合な一面もあった。その問題点を掘り下げて考える。

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排除アートの典型例といえる渋谷マークシティ前「ウェーブの広場」の排除アート。(写真/増永彩子)

高架下の空き地や、地下通路内のスペースなどに設置された、複雑な凹凸や突起を備えたオブジェ。町中で見られるこうした造形物が「排除アート」と呼ばれていることをご存知だろうか。

東京の都心部では、渋谷のマークシティ前の「ウェーブの広場」や、新宿西口の地下通路の造形物が有名で、本記事に掲載した写真を見て「ああ、これのことか!」と気付いた読者も多いだろう。

こうした駅周辺の開けた空間は、ホームレスの寝床として利用されやすい。設置目的がホームレスの排除であることは明らかだ。

なお、利用者が寝そべることを拒むように、座面を手すりで仕切ったベンチや、複雑な形状を備えたベンチも「排除アート」の一種とされることがある。2020年11月に発生した渋谷ホームレス女性の殴殺事件では、被害者が座っていたバス停のベンチが、非常に座面が小さく、なおかつ中央に手すりが設置されたものだったことが話題を呼んだ。ちなみに同種のバス停のベンチは東京の各所で見られるもの。都心部の駅や公園に新設されるベンチでも、同様に「長く座るのは困難で、なおかつ横にはなれないもの」が年々増加している。

本稿ではこうした「排除アート」について考察。2004年の著作『過防備都市』(中公新書ラクレ)から、その存在に注目してきた建築史家の五十嵐太郎氏(東北大学大学院教授)に話を伺い、「排除アートが都市で果たす役割」「なぜこうした造形物が『アート』と呼ばれるのか」「アートが街の浄化に活用される背景と問題点」などについて考えていく。

まず、こうした造形物が日本で「排除アート」と呼ばれるようになったのはなぜなのか。同種の造形物は海外にも存在しているが、五十嵐氏によれば「Hostile architecture(敵対的な建築)」「Defensive urban design(防御的なアーバン・デザイン)」などの語句が使われ、「Art」という言葉は使われていないとのことだ。

「私も2004年の『過防備都市』では『排除系のオブジェ』と書いており、『アートのような造形だけれどアートとは呼べない』と考えていました。一方で、こうしたオブジェを排除アートと呼ぶ源流をつくったのは都築響一さんだったと思います」(五十嵐氏)

都築響一氏は04年に雑誌『ART iT』(リアルシティーズ)において、こうした造形物を「ホームレス排除アート」「ギザギザハートの現代美術」と命名。「パブリックアートという美名のもとに、ホームレスを排除するために設置される邪悪なアートの実態を、メトロポリスの足元に検証する!」として、先述の渋谷「ウェーブの広場」や新宿西口地下通路のオブジェなどを観察。以下のようにも書いていた。

「芸術っていうのは人々の生活を豊かにするためのものだと思ってたんだけどさ、貧乏人を排除するためにも役立つのかっていう。新発見!って感じだよね」(『現代美術場外乱闘』洋泉社/09年より)

つまり、かなりの皮肉を込めて、こうした造形物を「アート」と呼んでいたわけだ。ではなぜ、この呼称が日本では定着したのだろうか。

「日本には『なんだかよくわからない、明確な機能のないもの』をアートと呼ぶ独特の風潮があり、揶揄の意味を込めてそう呼ばれることも多いです。一方、税金でこうした造形物を整備する行政側からすると、その造形物が『何の機能も意味も持たないもの』だとすれば、それはそれで問題です。アートという曖昧な呼び名で認識されることは、管理者にとっても都合がよかったといえるでしょう」(五十嵐氏)

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