――鹿、猪、熊に始まり、果ては鴉やアライグマまで……! 現在、高田馬場店など3店舗を展開する『米とサーカス』は、この時期、各種取り揃えたジビエ鍋が人気だ。昆虫食でも有名な同店だが、鍋特集の今回はあえてジビエ鍋に焦点をしぼり、その獣っぽくも奥深い世界を紹介する。店舗を運営する亜細亜Tokyo World株式会社ブランディングディレクターの宮下慧氏にインタビューを行った――。
(構成/里中高志)
(写真/後藤秀二)
オリエンタリズムあふれる店内。
――そもそも、このお店はいつからスタートしたのですか?
宮下 もともと新宿のゴールデン街の3番街で、弊社代表が『ゴールデンダスト』というバーをやっていたのですが、『米とサーカス』としてオープンしたのは、高田馬場店が最初になります。現在、『米とサーカス』は、渋谷PARCO店も含め、都内に3店舗を展開。高田馬場店は2011年3月オープンなので、もうすぐ10年になります。
――『米とサーカス』という店名は一風変わっていますね。その由来はなんでしょうか?
宮下 「パンとサーカス」という慣用句がもともと西洋にはありまして、これは民衆に食糧(パン)と娯楽(サーカス)を与えておけば政治的に盲目となり、民衆は言うことを聞くという、あまりよくない意味なんですけど、弊社ではこれを逆手にとって、美味しい食事も楽しいエンターテインメントも追求していこうということで、日本なのでパンを米に変えてこういう店名を名付けました。
――この時期はジビエ鍋が人気を博しておりますが、どういうきっかけでジビエを扱おうと思ったのでしょうか?
宮下 弊社代表がゴールデン街の先輩ママさんに鹿肉を食べさせてもらったと頃、その滋味深い味に感動して、自分の店でも提供したいと思ったそうです。そのころのジビエといえば、フレンチレストランに行かないと食べられないような敷居の高いイメージだったので、もっと居酒屋感覚で、誰もが親しみやすい鍋の形で、カジュアルにジビエを楽しんでもらいたいと考えて、この店をオープンしました。
人気ジビエ鍋のひとつ「鹿鍋」。紅葉鍋1680円/紅葉すき焼き1730円(税抜)。※1人前 2人前からのご注文。写真はすき焼き。
――ジビエ鍋の伝統はそれまで日本にあったのですか?
宮下 昔からあります。狩猟で獲ったお肉を食べていた歴史はそれこそ縄文時代からありますし、江戸時代に仏教の影響で肉食が禁止されてからも、「山くじら」などの隠語を使って、タンパク源として獣肉が食べられてきた歴史がありました。明治以降にも、猪肉の牡丹鍋とか、熊鍋とか、そういうものは有名なお店でも食べられてきましたね。
――なるほど。『米とサーカス』では当初、猟師さんと直接交渉して肉を仕入れていたということですが……。
宮下 一番最初は北海道の阿寒湖の近くの猟師さんにお願いしたのですが、鹿以外に熊も入るよ、ということで扱う種類が広がっていきました。ただ、その猟師さんは年配だったので、体調を崩されて取り引きが終了してしまったんです。今は、北海道などの解体処理場のある会社と取り引きをして、毎月肉を送ってもらっています。
さまざまな生き物を漬け込んだお酒も
――では、カンガルーなど、日本では自然界で目にすることのできない珍しい肉はどこから仕入れているのですか?
宮下 カンガルー、ワニ、ラクダはオーストラリアから仕入れています。オーストラリアではこれらの肉はスーパーにも並んでいて、高タンパクで低脂質なので、体を鍛えたりダイエットをしている方に好まれているそうです。