サイゾーpremium  > 特集2  > 【西田亮介】テレビとSNSの共犯関係

――新型コロナウイルス感染拡大の状況下において、SNSでは毎日ワイドショーの内容が話題に上がっている。情報社会論研究者の西田亮介氏は、自身もワイドショーに出演する立場から「テレビとネットは、お互いのコンテンツが連続的な関係にある。番組のつくられ方を知り、適切に距離を持って観る必要がある」と説く――。

2006_nishida2_320.jpg
番組名やコメンテーターの玉川徹氏の名が頻繁にツイッタートレンド入りする『羽鳥慎一モーニングショー』。報道内容に対し、政府から名指しで反論もされている。画像は公式HPより。

 アニメ映画『天空の城ラピュタ』が『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で放送されるたび、劇中の呪文「バルス」がトレンドワードに登場するなど、インターネット……ことツイッターはテレビと仲がいい。それは新型コロナウイルス禍に見舞われている現在においても変わらないのはご存じの通りだろう。毎朝、民放各局のワイドショーの放送時間になると、ツイッターのトレンドにはその番組タイトルやコメンテーターの名前が居並び、それをクリックしてみると番組やコメンテーターに対する賛否両論・毀誉褒貶など視聴者によるさまざまなツイートが羅列される。

 こうしたテレビとネットの結託は、情報の流通にどのような影響を及ぼしているのか。メディアと政治の関係に詳しい東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授・西田亮介氏に聞いた。

     *     *     *

――SNSでの反応を見ていると、人々は数ある新型コロナ対策の情報源の中でもワイドショーを重用しているように感じます。テレビの影響力が低下したと言われて久しいですが、この状況を西田さんはどうとらえていますか?

西田 ワイドショーを熱心に観てツイートしている人は、実際にはごく少数だと思います。各局の視聴率から考えるとワイドショーの視聴者数はざっくり数百万人から1000万人程度の規模感といえるはずですが、放送時間帯を考えてみても、たいていの人はそんなに真剣に観てはいないでしょう。

――ツイートまでしているのは、いわばノイジーマイノリティだ、と。

西田 在宅時間が長くなった自分の生活を振り返ってみても、自宅のテレビは朝から点いてはいるけど、妻は家事をしながら横目で「ふーん」という感じで見ているし、僕も子どもの世話をしながら「なんだ、この内容?」とか言って、僕はときどきツイートしますかね(笑)。視聴者数とツイート数を比較してみても、たいていの人はそんなものではないでしょうか。

 ですが、ワイドショーの影響力自体は無視できるものではありません。それだけの数の人が毎日同じ番組を観ているとなると、ディテールまで追っていなくても、誰もがなんとなく論調は共有していて、根拠なく生活習慣の中で日々刷り込まれている。こうした視聴環境と番組のあり方は、世界的にもユニークです。

――西田さんは、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)や『モーニングCROSS』(TOKYO MX)などにコメンテーターとして出演されています。制作の現場を目の当たりにして、日本のテレビはネットをどう利用していると感じていますか?

西田 両者は共犯関係です。自分が出演するようになってよくわかったのですが、テレビの制作スタッフは本当にネットで話題になっていることやランキングを追いかけがちです。視聴率とネットの反応以外に自分たちの番組の評価の尺度がないからです。その一方で、テレビの話題はツイッターのトレンドワードに頻出したり、ニュースサイトの記事になったりと、ネットでも人気コンテンツです。ひとつの人気コンテンツは両方で見られることが多いですね。

――つまり、さきほど仰っていたようにあまり多くはない人たちがテレビのコンテンツについてSNSで言及し、制作陣がネットの反応をうかがいながら番組をつくり、そしてそれを数百万から1000万人の人たちが流し見してなんとなく刷り込まれる――という循環の中で情報が増幅していく、と。そもそも、ワイドショーがネットの影響を受けるのは“いいこと”なんでしょうか?

西田 たとえば今、神戸大学の岩田健太郎教授がツイッターなどで、新型コロナ対策には次善の策、プランBを用意しておくことが必要だと訴えています。内容の真偽はさておき、ネット上で発信されるオルタナティブな意見がテレビで拾われて、出演者や視聴者といった多くの人に気づきを与え、批評・検証される流れは、テレビとネットの共犯関係の“功”の側面といえるでしょう。ただし残念ながら、そうした例は稀ですよね。

――ネットの反応を気にするのなら、新型コロナ対策に有益な情報をピックアップしてワイドショーで取り上げればよさそうなものですが……。

西田 ワイドショーはそうしたつくり方をできる構造になっていないんです。たいていのテレビ局には局員や制作会社が共有しているデータベースがあって、政治部や経済部の記者が現場で集めてきたネタをテキストと映像で検索できる形にまとめてそこにアップロードしておきます。情報番組の制作スタッフは、そのデータベースの中からいくつかの映像をピックアップして、つなげることで番組をつくっている。DJみたいですね。「安くておいしい新橋ランチ情報」みたいな軽いネタは番組独自でできても、政治や経済のニュースについて番組単位で独自取材する余裕はほとんどありません。ときには政治部などから逆にクレームが入ったりもします。日テレの情報番組で例えるなら、朝の『ZIP!』から『スッキリ』、夕方の『news every.』と情報番組が続きますが、同じネタが少しずつ更新されながら放送されがちなのはそうした背景もあるからです。

――確かに、政治経済や社会に関するニュースについては、番組が変わっても映像は同じというのはよく見る光景です。

西田 ワイドショーの制作スタッフは必ずしも政治や社会の問題に詳しいわけではなく、あくまで番組構成と演出の専門家だと考えるとよいと思います。使う映像と構成を決めて、出演者のブッキングをするのが仕事なわけです。それゆえ、コメンテーターとして専門家を連れてきているつもりであっても、実はその人が本当に適切なのかどうかはよくわかってないことも多い。加えて、帯の情報番組は基本的に前日から当日にかけてつくられるので、突発的に起きた事件についてのコメンテーターを探すのもやはり放送の前日か当日になります。だからたまたまその日に連絡がついた専門家が出演しているケースも少なくありません。言ってしまえば制作者にとって“都合がいい人”というだけかもしれない、と思って観る必要はあります。

――そうした制作の裏側は、意外と知られていないところかもしれません。

西田 制作サイドと視聴者サイドの双方にとって、もっと広く知られたほうがいいと考えています。ワイドショーはあくまで情報エンタメとして観るのが正しい付き合い方だとわかれば、不安を煽られすぎることもない。メディア環境や力学が変化する中で、テレビ局にとってもメリットがあるはずです。短期的には「こんなにいい加減につくっていたのか」と呆れられるかもしれないけれど、中長期的には逆に「この番組はしっかり取材をしているから信用できるものです」「この番組はあくまでエンタメです」という役割分担が進めば、信頼が得られるようになるのではないでしょうか。テレビ局の勉強会や研修でもこうした話はしますが、「現場をわかっていない大学の先生が何か言ってるな」という感じで、あまりはかばかしい反応はないですね……。

――特に現在のような状況下では、信頼に足る情報を選ぶのにも一苦労します。

西田 もしワイドショーから流れてくる新型コロナの情報に不安を感じている人がいるなら、「テレビを消して、官邸のホームページを見てください」と言いたいですね。実は支援について正確な情報が見やすくまとめられています。

(構成/成松 哲)

社会学者・西田亮介(にしだ・りょうすけ)
1983年、京都府生まれ。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。15年9月より、東京工業大学准教授。近著に『情報武装する政治』(角川学芸出版)、『なぜ政治はわかりにくいのか 社会と民主主義をとらえなおす』(春秋社)などがある。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ