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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第147回

『スキャンダル』トランプ礼賛なTV局トップのセクハラを暴け!

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『スキャンダル』

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2016年、全米ナンバーワンニュース放送局FOXニュースのベテランキャスター、カールソンが突然クビになった。背景には同局CEOのセクハラがあったのだ。彼女は局とCEOを告発するが……。監督:ジェイ・ローチ、出演:シャーリズ・セロン、ニコール・キッドマンほか。2月21日全国公開。

『スキャンダル』は、アメリカのケーブルTVチャンネル、FOXニュースのCEO、ロジャー・エイルズのセクハラ・スキャンダルを描く実録ドラマ。FOXニュースは共和党のプロパガンダのため、1996年に世界のメディア王ルパート・マードックによって作られた。CEOに抜擢されたのがロジャー・エイルズ。彼は67年にリチャード・ニクソンにテレビ戦略の顧問に雇われて以来、50年近く「共和党のゲッベルス」として働いてきた。

 97年、エイルズはFOXニュースで連日連夜、クリントン大統領と研修生のモニカ・ルインスキーの「不適切な関係」を放送して視聴率を稼ぎ、クリントンを弾劾に追い込んだ。

 2001年、子ブッシュ政権が、イラクは9・11テロの黒幕だ、核兵器を持っているなどと主張すると、FOXはその嘘を全番組で強力に支持した。戦意高揚報道は視聴者を喜ばせ、FOXの視聴率はライバルで老舗のCNNを抜いた。

 04年、FOXは元弁護士のメーガン・ケリーを法律解説者に抜擢した。06年には、元ミス・アメリカのキャスター、グレッチェン・カールソンを朝のトーク番組『FOXアンド・フレンズ』の司会に採用した。2人は、09年からのオバマ政権を厳しく批判し続けながら、FOXの女性キャスター・トップの座を争った。

 彼女たちが『スキャンダル』の主人公で、ケリーを演じるのはシャーリーズ・セロン、カールソンを演じるのはニコール・キッドマン。 驚くのはセロンをケリーそっくりにしてしまったヒロ・カズ(辻一弘)の特殊メイク。骨格も輪郭もまるで違うのだから。

 女性キャスターたちの反乱のきっかけは、15年、共和党の大統領候補予備選にドナルド・トランプが立候補してからだ。共和党の主流派を「ウォール街の手先」「政治屋」と攻撃するトランプを脱落させるべく、FOXニュースは8月6日の討論会でトランプに恥をかかせることにした。ケリーはトランプの「ブスとデブとノロマな女は嫌いだ」などの女性差別的言動に鋭く斬り込んでトランプを追い込み、党派を超えて絶賛された。討論後、トランプは悔し紛れにツイッターでケリーを中傷した。「ビンボー(見かけだけのバカ女)」「目から血が出そうだった。あそこからも」。

 ケリーは怒ってトランプを追撃しようとしたが、エイルズが止めた。「トランプは圧倒的な人気だ。大統領になるかもしれん。トランプに付こう」ケリーはハシゴを外された。

 一方、16年6月、カールソンはFOXをクビになる。彼女はすぐにFOXとエイルズを訴えた。エイルズから性的関係を迫られて断ったから外されたのだと主張したのだ。これを知って、ライバルのケリーやFOXのほかの女性キャスター、スタッフは決断を迫られる。なぜなら、みんな腐ったジャバ・ザ・ハットのようなエイルズに迫られていたが、キャリアのために黙っていたからだ。ついにケリーも告発に参加し、半世紀に渡ってアメリカの政治を操ってきたエイルズは、総帥マードックに切り捨てられ、1年を経ずに亡くなった。カールソンとケリーは右派のアイドルから一転して、セクハラ告発の#MeToo運動の旗手に祭り上げられた。

 FOXとの裁判で2000万ドル勝ち取ったカールソンは、18年1月、トランプが手放したミス・アメリカ大会の議長に選ばれた。最初にしたのは水着コンテストの廃止だった。

 ケリーも2000万ドルの契約金でNBCテレビで自分の番組『メーガン・ケリー・トゥデイ』を任された。ケリーは番組に、元ミス・アメリカの女性たちを招き、カールソンのイジメを告発させた。カールソンは19年6月にミス・アメリカ役員を辞任した。

 だが、それより早く、18年10月、ケリーは番組で「私が子どもの頃、ハロウィンで白人が顔を黒く塗って黒人に扮するのは普通だったわ」と発言して差別発言だと激しい抗議を呼び、NBCから解雇された。『スキャンダル』劇中にある「誰もFOXから逃げられない」というセリフは本当かもしれない。

 ただFOXニュースそれ自体は、今も視聴率トップでトランプ翼賛を続けている。

まちやま・ともひろ
映画評論家。サンフランシスコ郊外在住。『映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』 (新潮文庫)、『今のアメリカがわかる映画100本』(小社刊)など著書多数。

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