『日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩』(アジアプレス出版部)
――北朝鮮から逃げ出した人たちが、この問題に対する警鐘を鳴らすため、はたまた生活の糧として書籍を書くことがある。こうした脱北本とも呼べる書籍が徐々に生まれつつあるようだ。
移民本としては北朝鮮から他国に亡命した脱北者の実情を描いた、いわゆる「脱北本」も見逃せない。脱北者の数はすでに3万人以上にのぼっており、世界各地で生活を営んでいる。彼ら自身が描いた移民本、もしくは第三者や関係者も関与した「脱北文学」が徐々に生まれつつある。
三辺氏は、日本で生活している脱北者の実情をブログに綴り、それをまとめた『リ・ハナの一歩一歩』(アジアプレス出版部)から、内面や心境が浮かび上がると言う。
「著者は北朝鮮にいる時、いつも周りの人が自分をどう思っているかを常に考えなければならず、その習慣が身についてしまったと書いています。実際、ブログからも周囲の目や、人にどう捉えられているかにとても敏感になっている印象が。とはいえ、内容自体は80%くらいが普段の生活の話。とても読みやすい一冊です」
一方、金原氏が紹介するのが、『ソンジュの見た星 路上で生きぬいた少年』(徳間書店)だ。
「著者は脱北して米国に住んでいて、南北朝鮮の融和ために活動しています。1990年代の食糧危機の時に路上生活者のようになった少年たちが、生き抜いて国を脱出するという話。戦前・戦中の日本の占領時代の凄惨な話も書いてある点はとても興味深い」
余談だが、日本に先立ち移民への門戸を開放した韓国で現在、最も差別の対象となっているのが、脱北者、そして中国・朝鮮族(中国に居住区を持つ朝鮮系民族)だ。歴史的に、在日・在米コリアンへの「近親憎悪」や差別心があったが、その対象が増えつつあるのだ。在日コリアン文学には、祖国やルーツへの愛と憎しみが同時に描かれることが多かったが、彼らの小説はどんな内容になるのだろうか。