サイゾーpremium  > 連載  > 丸屋九兵衛の音樂時事備忘「ファンキー・ホモ・サピエンス」  > 「ファンキー・ホモ・サピエンス」【69】/【ニプシー・ハッスル】R&Bは絶滅へ向かう
連載
「ファンキー・ホモ・サピエンス」【69】

【ニプシー・ハッスル】ラッパーが歌う19年と「R&B」という絶滅危惧種

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『Victory Lap』

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ニプシー・ハッスル(販売元:Atlantic Records)

そんなチャートの中で際立つのは「ラッパーらしいラッパー」、ニプシー・ハッスルだ。05年からミックステープを連発してきたが、実はこれが初の正式アルバム。「Rap Niggas」を聴けば、彼が「西海岸らしい西海岸ラッパー」でもあることがわかるだろう。現代では稀なリリシズムを感じる傑作。これからという時期に、嗚呼。

 昨年6月、TBSラジオ『アフター6ジャンクション』にて。私がかけた防弾少年団「Love Maze」を聴いたあと、佐々木士郎(君たちが呼ぶところのRHYMESTER宇多丸)は、「今やアメリカでも廃れちゃった部類の、みんなが好きなR&B」と評した。

 そう、「廃れちゃった」のである。

 というわけで前号に引き続き、「アメリカにおけるR&Bの危機」について考える今回。まずは、5月初頭の「ビルボード」トップR&B/ヒップホップ・アルバム・チャートを見てみよう。

 1位はカリード『Free Spirit』、2位はビヨンセのライブ・アルバム『Homecoming: The Live Album』。3位がニプシー・ハッスル(合掌)の最初にして最後(嗚呼)の正式アルバム『Victory Lap』を挟んで、4位はジュース・ワールド『Death Race For Love』、5位はまたもビヨンセで『Lemonade』。

 と、ここまではR&B勢が多数派を占める。私が主張する「R&Bの危機」が絵空事のように映るかもしれない。

 しかし! 問題はここからだ。6位=ポスト・マローン、7位=ドレイク、8位=ア・ブギー・ウィット・ダ・フーディ、9位=ダ・ベイビー、10位=『スパイダーマン:スパイダーバース』サウンドトラック。サウンドトラックを除けば、すべてラッパーのアルバム! その『スパイダーバース』の収録曲で活躍しているのも、ほとんどがラッパーだ。つまり、チャート5位までに4つもR&Bアクトがランクインしているのは……まあ、いわばラッキーだったんだな。

 11位から20位までは、トラヴィス・スコット、ミーク・ミル、ジュース・ワールド(また?)、カーディ・B、21サヴェージ、ナヴ(前号で言及したシーク教徒の北インド系カナダ人ラッパー)、ポスト・マローン(また!?)、オフセット、ガンナ、リル・ベイビー&ガンナ……と、やはりラッパーだらけ、「R&Bアーティスト」と呼べそうなメンツは、いない。21位以下50位までには、カリード(また!?)とエラ・メイとアンダーソン・パーク、そしてまたしてもやボブ・マーリーがいる。が、彼らを除くとシンガーが見当たらないのだ。

 前回の当連載で私が提唱した仮説は「サブスクリプション・サービスによって到来したアメリカの擬似リイシュー・ブーム」だ。先に言及したボブ・マーリーに加え、マイケル・ジャクソンやプリンスといった偉人、あるいはビヨンセらの旧譜が簡単に復活ランクインするのは、おそらくそのせいだと思う(分析は飯田一史に委託したい)が、それは問題の半分(未満)でしかない。

 では、なぜ現在の現代の現役のR&Bが見当たらないのか、どうしてシンガーたちが求められないのか?

 答えは「ラッパーが歌ってしまうから」だ。それも、オートチューンを駆使して。

 T・ペインが05年に出したデビュー・アルバムが『Rappa Ternt Sanga』と題されていた通り、オートチューンはやすやすとラッパーをシンガーに変えるのである……出来不出来はあるにせよ。長らくヒップホップ界のご意見番のような地位にあるジェイ・Zが「D.O.A. (Death of Auto-Tune)」をリリースしたのは09年6月だが、それから10年が経たんとしている今、このオートチューン死刑宣告はとても虚しい。

 たいていのラッパーはオートチューンを用いて歌い、ポスト・マローンなら生粋の生声でも歌う。そんな彼らが送り出す楽曲は――世が世なら「スロウ」に分類されるほど――テンポは非常に遅くメロディアスで、哀愁も漂っているから、R&Bとしての機能を十分に果たしているのかもしれない。こうして「純然たるR&Bシンガー」という存在を駆逐中のラッパーたちにとって、もはや「歌うこと」は標準装備となっている。逆に、ラッパーらしいラッパーを見かけることも稀になった。

 もちろん彼らの歌には、アフリカン・アメリカンが伝統としてきた濃厚な持ち味はない。だが、今のアメリカのメインストリームはそれを求めているのか?

 こうして、R&Bがチャートから姿を消しつつある昨今。昔気質のリスナーの心の隙間を埋めてくれるのがK-POPなのかもしれないな、とも思う。

まるや・きゅうべえ
5月21日(火)に「ビルボードカフェ&ダイニング」にてイベント「コリーヌ・ベイリー・レイと、めくるめくUKソウルの世界」を開催。そして6月は戦闘機の季節……。ツイッター〈@QB_MARUYA

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