サイゾーpremium  > 特集  > タブー  > 【原発と精神病院】そして戦後日本

――「私はとてつもなく大きなものに見放され、置き去りにされているんじゃないだろうか」。患者の問いかけに精神病院の院長はそれが原発や精神病院というこの国の仕組みなのだと答える。昭和、平成と、日本で見放されてきた者たちとは――。

1902_P084-087_img001_320.jpg
舞台『精神病院つばき荘』のポスター。

「この国、原発、精神病院。知らなくていい、考えなくていい、意見を持たなくていい。そうやって生き延びてきたんですよ、私たちは昔から」

 2018年の12月13日から16日まで、今や国外からも酔客が集う新宿ゴールデン街の劇場で、『精神病院つばき荘』という舞台が上演された。

 物語の舞台は「つばき荘」という名前の精神病院。40年の長期にわたり入院し、患者仲間のよき聞き役として、病棟内での信頼も厚い患者の高木は、ある朝、院長の山上に呼び出される。院長の話は初め要領を得ないが、次第に本音を明かし、高木にあるお願いをする。今この病院で、一部の看護師が、「原発事故が起こった場合の事故対策、緊急時のローテーションと避難用のバスの確保をするべきだ」と言い始めたが、限られた人員でそんなことができるわけがない。それどころか、この病院が反原発だと見られたら経営上困ったことになる。ついては今日の患者ミーティングで、看護師が患者の高木さんに「原発事故が起こったら避難したいですか。それともここで死にたいですか」と聞くことになっているから、「このままここで死なせてほしい。そのほうが幸せだ」と、そう答えてほしい――と、院長の山上は患者の高木に懇願するのだ。その依頼を受けることを躊躇する高木に対し、山上が口を滑らせたのが、冒頭のセリフだ。

 劇中、原発事故対策を言いだした看護師は登場しないが、院長のセリフによると、実際に原発事故が起こったときに、バスで避難中に患者が大勢亡くなった出来事があったことから、遠く離れたこの病院でも万一の時の事故対策が必要だと考え始めたことがわかる。

 実はこれには、ベースとなる実際の出来事がある。2011年3月11日の福島第一原発事故の際、原発から5キロ離れた場所にある精神病院と、その病院が運営する介護老人保健施設で、高齢の患者を乗せたバスが6時間をかけて避難先を目指して移動。点滴の管理や痰の吸引などが思うようにできず、水分の欠乏やショックなども重なったことから、移動中と到着後に50人が亡くなったのだ。

 原発と精神病院――。この2つこそが、戦後の日本が経済成長のプロセスを経ていく過程で、ある人々やある土地を犠牲にし、そのことに蓋をしてきたという大きなタブーだったのではないだろうか? この2つを並べて論じることは、日本という国家のシステムの背後に隠されてきたものを理解する上でとても重要なことかもしれない。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2019年9月号

戦争と平和

戦争と平和
    • 平和を願った【ジャニー喜多川】の戦後史
    • 【スピルバーグ映画】が訴える戦争
    • アメリカの【アトミック・カルチャー】
    • 【PTSDになった日本兵】の悲しき境遇
    • 【BTSDアメリカ兵】を描いた傑作映画
    • 米軍では反発も…【LGBT自衛隊員】の憂鬱
    • 戦争を金に!【トランプ】の魂胆
    • ドラッグ、殺人【米ラッパー】の司法戦争
    • アイドルが歌う【反戦歌】と音楽業界
    • 【激戦地区】の異文化と気候の地政学
    • 【映画監督・塚本晋也】ベトナム戦争映画のトラウマの意義
    • 【映画監督・想田和弘】GoProで撮影された映画で観客が失神
    • 【映画監督・宮崎大祐】戦争の記憶を掘り起こす異常な暴力映像
    • 【ラッパー・Kダブシャイン】禁断のアメリカ史を描いたフィルムメーカー
    • 【イスラーム映画祭主宰・藤本高之】中東紛争に肉薄した3作品
    • 卍とハーケンクロイツ【ナチスと仏教】の結びつき
    • 国防としての【サイバーセキュリティ】

竹内渉、究極の"美尻"撮

竹内渉、究極の
    • 【竹内渉】が魅せた色香と素顔

NEWS SOURCE

    • 【関ジャニ錦戸】退所報道の舞台裏
    • 【ソニー】音楽ビジネス大改革の裏側
    • 【秋元司・内閣府副大臣】の疑惑とは

インタビュー

    • 【上原実矩】──"年金"で女優業に目覚める !?
    • 【田川隼嗣】──18歳が月9の現場で武者震い
    • 【釈迦坊主】──元ホストラッパーの光と闇

連載

    • 【RaMu】二郎デビューしたんです。
    • 【川上愛】スパイに間違えられたモデル
    • 【菜々子】が一番大事
    • 【動画メディア】の未来と情報発信のあり方
    • 【萱野稔人】人間は"教育"によって生かされている(後)
    • 高須基仁の/【テレビ】はもう終わった
    • 盆踊りに【使徒】襲来
    • 中国大富豪たちの【ポッドキャスト】
    • 【RIZE】逮捕で考える薬物とロック
    • 町山智浩/【おしえて!ドクター・ルース】90歳のセックス・セラピスト
    • ポピュリズム政策【MMT】は日本経済の救世主か?
    • 小原真史の「写真時評」
    • 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」
    • 笹 公人「念力事報」/帝国の翳り
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ博物館」
    • 稲田豊史/マンガ『1122』ソリューションとしての不倫
    • アッシュ・ハドソンの「アングラ見聞録」
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 伊賀の里でビールを仕込む【忍者ブルワー】見参!
    • 幽霊、新しい大衆はもう猿を見ない。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』