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第1特集
未邦訳文学の奥深き世界観【1】

丸屋九兵衛が案内する未訳文学の奥深き世界観!邦訳すべき“歴史改変SF”小説

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――「もし、南北戦争で南軍が勝っていたら」――そんな世界的歴史を題材にした“歴史改変文学”なるジャンルがある。ここでは本誌連載でおなじみのライター・丸屋九兵衛氏が太鼓判を押す未邦訳作品を解説。さらに3人の識者に「今こそ邦訳すべきタブー文学」を選出してもらった。

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(写真/北川 泉)

 中規模以上の書店なら、〈SF棚〉が標準装備。日本は決してSF後進国ではない。もっとも、その棚を嬉々として徘徊しているヤツは見かけないが、それはワシとタイミングが合わないだけだと理解しよう。

 海外SF小説の邦訳も盛んな日本だが、いまいち紹介が進まないジャンルがある。それは〈オルタネイト・ヒストリー=歴史改変SF〉だ。つまり、「もし、歴史が少し違っていたら?」に思いをめぐらせ、SFに見えないSFであり、歴史に沿わない歴史ものでもある、そんな文学だ。英語圏では、このジャンル限定の独自賞も存在するほどの人気だが、邦訳される作品はごくわずか。そんな歴史改変SFの我が国での不遇を嘆きながら、その危険な魅力を紹介するのが本稿である。

 まず、60年代から活躍する英国SF/ファンタジー界の大家、マイケル・ムアコック。代表作である「永遠のチャンピオン」シリーズは、早川書房や東京創元社も股にかけて人気を集めている。そんな彼が70年代に書いたのが『The Nomad of Time』という三部作だ。「元祖スチームパンク」にして、歴史改変SFの先駆的作品のひとつ。だが、いまだ邦訳の話は聞かない。それぞれ異なる歴史をたどった3つの世界を主人公が(自分の意志ではなく)移動する……という設定はご都合主義だが、しかし、世界描写はどれも鮮烈で、暴力と差別に満ちた現実の歴史を再考させるものだ。第一次世界大戦が起こらなかった結果、植民地を徹底搾取する欧米帝国主義が存続・繁栄している世界で主人公が引き起こした惨事を描く第一作『The Warlord of the Air』。民主的なロシア帝国で暗躍するスターリンと出会ってしまう第三弾『The Steel Tsar』。白眉は第二部の『The Land Leviathan』だ。19世紀末に欧米諸国間で勃発した全面戦争で荒廃した世界。マハトマ・ガンジー大統領が治める豊かな共産主義国家・南アフリカ改めバントゥスタンが文明のオアシスとして繁栄している。だが、堕落したアメリカ合衆国が再び黒人奴隷化に踏み切ったため、“黒いアッティラ”と呼ばれる黒人猛将が北半球を目指す……。欧州中心の近代史観を逆転させ、「白人=野蛮、有色人種=文明」という図式を徹底させた野心作。また、若造弁護士ガンジーが南アで20年を過ごして活動家に成長した事実を元にした南ア大統領という設定も粋だ。

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