ライター/研究者・トミヤマユキコ
1979年、秋田県生まれ。ライター、研究者、パンケーキのエバンジェリスト。「図書新聞」「週刊朝日」「文學界」などで連載中。早稲田大学などで少女マンガ研究をメインとしたサブカルチャー関連講義を担当。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)がある。
『Saeko One&only 「私は私」。ルールに縛られない、おしゃれな生き方』(集英社)
結婚前は「いつも浮いている人」と思っていました。女優っぽくないし、バラドルとしてもヘタ。歌唱力は壊滅的。このままオバさんになったらヤバいぞと老婆心ながら心配していました。それが、ダルビッシュ有と結婚して野心家なんだとわかった。「女界の偉人」になりたいんだと気づかされたんです。世間が思うより、さらに上に目標を設定している。
ブログやフォトエッセイを読むと、小言が多いおじさんのよう。例えばドラマ共演者との食事について、若い女性タレントなら「楽しかったよー」などと書きますが、『Saeko』(アメーバブックス新社/08年)では「たくさんお話聞けて嬉しかったんだけど、2杯目に頼んだシャンディーガフのジンジャーの主張が激しくてちょっと苦しかったです。笑」と一言余計。ダルビッシュとの交際3カ月、妊娠3カ月の結婚も、「決して成り行きではなく、心から望んだことでした」と、批判する人への反論を書かずにいられない。そこが、かわいげがなく映り、バッシングを誘うのかもしれません。
野心家でおじさん的なので、ダルとの結婚生活は出世欲の強い男性が2人いるのと同じ。彼女が不幸なのは、カネのあるイケメンなら誰でもいいわけではなく、自分を今以上のステージに引き上げてくれる男性でないと愛せない点。ZOZOTOWNの前澤友作社長もそう。ダル同様、結局ぶつかってしまうことはわかっているのに。もはやこれは業ですね。
圧倒的な上昇志向を持ちながら、視線は庶民側に固定されているのも面白い。例えば、スタイルブック『Saeko One & only』(集英社/11年)の副題で「『私は私』。ルールに縛られない、おしゃれな生き方」と謳いつつ、紹介されるファッションは「ルールしかない」。価格帯も大体1万円前後で、がんばればしまむらの商品でも真似できそう。庶民が自分のお客さんということがよくわかっている。批判する人を無視せず、いちいち反論する点も、ここに起因すると思います。
世代論でいえば、1986年生まれのハチロク世代。上昇志向の強さは、大学時代に「世界一周したいから出資してくれ」と企業を募集したはあちゅうさんにも似ています。物心がついてからずっと不景気だったせいか、ジェット噴射で上のし上がろうとするのが86世代の特徴。「私なんかがこんなことやったら恥ずかしい」なんて自意識はない。「謙虚は美徳」を刷り込まれている世代は、「カリスマモデルでもないのに、スタイルブックを出版して服をプロデュースするなんて」と思うけど、86世代にとって不景気のリスクヘッジであちこちにビジネスの柱を立てるのは当然のこと。一本一本は割り箸のようでも、100本あれば安定する。
今後、オバさんになってどうするかが楽しみ。RIKACOのようにコアなファン相手にファッションの分野で稼ぐ手もあります。いや、政界進出もありえるかも。『Saeko One & only』で「もっと、ママに優しい国になってほしい」と書いていますしね。
(構成/安楽由紀子)