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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第83回

アメリカの日常に侵入してきた戦争の暴力とは?

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『ザ・ゲスト』

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長男を戦争で失ったアメリカの片田舎に住むピーターソン一家の元に、長男の戦友を語る男が現れた。容姿端麗、頭脳明晰、人柄も良い……そんな完璧な男・デイヴィッドは一家の周囲で起こるトラブルを解決し、家族の信頼を得て、双方の距離は縮まっていった。だが次第に彼の裏の顔が明らかになり、ついに街は特殊部隊をも巻き込む“戦場”へと化していく。
監督:アダム・ウィンガード/主演:ダン・スティーヴンスほか/11月8日より全国公開。







 ピーターソン一家はアメリカの田舎町に住む、平凡で愛国的な家族だ。彼らの長男は軍に志願し、アフガニスタンで戦死した。母は、その悲しみから立ち直れない。そこに、デイヴィッド(ダン・スティーヴンス)という青年が訪ねてくる。彼は長男の戦友だと言い、母親と悲しみを分かち合う。

 父親も、自分より年下の社員に出世で追い抜かれて打ちひしがれており、いまどき珍しく礼儀正しい青年デイヴィッドに息子の面影を見る。いじめられっ子のピーターソン家の子どもはいじめっ子らを一瞬で叩きのめしたデイヴィッドを兄貴と慕う。そして長女はデイヴィッドの甘い美貌と6つに割れた腹筋にうっとり。

 しかし観客だけは、デイヴィッドがふとした瞬間に見せる狂気の眼差しに気づく。彼は次第に、殺人マシーンとしての正体を明かしていく……。

 映画『ザ・ゲスト』は、アメリカの日常に侵入する戦場の暴力をホラーとして描いている。これは決して絵空事ではない。

 戦場で生死の境をくぐり抜けてきた兵士たちは、アメリカに帰ってからも暴力をコントロールできずに苦しんでいる。2012年、「ジャーナル・オブ・コンサルティング・アンド・サイコロジー」が1388人のイラク・アフガン帰還兵を対象にした調査によると、彼らの33%が少なくとも一回、米国内で暴力事件を起こしており、11%は銃やナイフを使った暴力、または性的暴行だという。現在、アメリカの刑務所で受刑している帰還兵は20万人、それは全受刑者の1割に及ぶ。

 たとえば、11年にアカデミー賞のドキュメンタリー部門の候補になった『ヘル・アンド・バック・アゲイン』は、帰還兵デニスの苦しみが記録されている。彼は海兵隊員としてアフガンに従軍したが、銃弾を受けて車椅子に乗って故郷に戻ってきた。殺し殺される世界からすぐに日常に戻れるはずもなく、デニスは不眠症に苦しみ、装弾した拳銃を片時も手離せない。ちょっとしたことで、一瞬後 には手が拳銃を構えている。兵士たちは、頭で考えるよりも素早く反応するように訓練されているからだ。何度も殺されそうになった妻は「夫は、まったくの別人になってしまいました」とすすり泣く。

『ザ・ゲスト』のデイヴィッドはKPGという民間軍事企業によって「生み出されたもの」という設定になっている。イラク戦争では、アメリカ政府が「ブラックウォーター」などの民間軍事企業に戦争を下請けさせていた事実が判明して問題になった。彼らは警備会社の名目だが、実際は傭兵斡旋会社である。世界中の戦争のプロたちが雇われた。彼らの多くは元兵士で、戦争の魔力に魅入られた者たちだ。軍規の外にある彼らは許可なく発砲し、民間人を容赦なく射殺したので、怒ったイラク市民によってリンチで殺される事件も起こった。

「デイヴィッドはサイコパスよ」と言うピーターソン家のアンナに、KPGのカーヴァー大尉は答える。

「だが、兵士としては優秀だ」

 カーヴァーは『ランボー』のトラウトマン大佐にあたる。彼はグリーンベレー(陸軍特殊部隊)でランボー(シルヴェスタ・スタローン)を最強の兵士に育てあげた。

『ザ・ゲスト』はデイヴィッドを恐ろしい怪物として描いているが、ベトナム帰還兵ランボーも怪物だった。たったひとりで州兵の部隊を全滅させ、ひとつの田舎町を完全に破壊したのだから。

 9月10日、オバマ大統領はISIS(イスラム国)に対して空爆を強化すると演説した。その翌日は同時多発テロから13年目の9月11日だった。イラク・アフガン戦争は終わらないのに、アメリカの日常はまるで何事もないかのように続いている。アンナの家庭のように。

 しかし、戦場で心を病んだ兵士たちは暴力を平和なアメリカに持ち帰り続ける。数えきれないデイヴィッドたちとして。だからデイヴィッドは死なないのだ。

まちやま・ともひろ
映画評論家。サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文春文庫)など著書多数。

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