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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第82回

夭逝したネットの申し子に下されたアメリカ司法の鉄槌

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『インターネットの申し子 THE INTERNET'S OWN BOY』

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2013年1月、ひとりの男が自ら命を絶った――。彼の名はアーロン・シュウォーツ。革新的なプログラマーにして、若き活動家、そして学術論文などの知的財産をオンライン上で無料で閲覧できる、知の解放を目指した彼は、ハッキングにより逮捕、起訴されてしまった。果たしてこれは正義なのか? アメリカの不条理に迫ったドキュメンタリー作品。
監督:ブライアン・ナッペンバーガー/日本公開未定。

 アーロン・シュウォーツは1986年にシカゴで生まれ、3歳でスラスラ字を読むようになり、アップル・コンピュータをいじり始めた。彼は天才だったのだ。

 映画『インターネットの申し子THE INTERNET'S OWN BOY』は、2013年に自ら命を絶ったハックティヴィスト(ハッキングによる社会変革者)、アーロン・シュウォーツの、26年間の生涯を追ったドキュメンタリー作品だ。

 幼い頃からアーロンは、スポンジのように知識を吸い込んだ。図書館が大好きだった。13歳の時、誰でも自由に加筆できるウェブ百科事典をプログラムした。

「辞書は素人が作るべきじゃない」

 学校の先生は批判した。それが何年もたってからウィキペディアとして実現することも知らず。

 このプログラムでアーロンは奨学金を得て、ウェブフィード・フォーマットRSSの開発に参加し、中学生にしてネット界でその名を知られるようになった。

 そしてアーロンはローレンス・レッシングの薫陶を受けた。レッシングは、知的所有権で完全に縛られているものと、完全に使用が自由なパブリック・ドメインの中間である、クリエイティブ・コモンズ(CC)を提唱した。

 そしてアーロンは、知的財産の解放によるネットのユートピアを目指すようになった。かつて、人々が私有財産の否定によるユートピアを夢見たように。

 アーロンは18歳でソーシャル・ニュースサイト「レディット」の開発に参加した。それは巨大なビジネスになったが、彼は金に興味が持てず、ハックティヴィストの道を歩み始めた。そうして、公共の情報にもかかわらず有料にされているデータベースを、次々とハックした。

 アーロンは議会図書館や連邦裁判所のデータベース、それにJSTOR(記事倉庫。学術論文の有料データベース)に侵入し、データをダウンロードした。もちろん利益が目的ではない。アーロンにとって、それは、閉じ込められた知識を解放する運動だったのだ。

アーロンの名前を世界に知らしめたのは、2011年のSOPA(オンライン海賊行為防止法案)との戦いだった。ネット上の著作権侵害を取り締まり、リンクを禁じ、違反者のデータを提出させる法案だ。

 これが通ったらYouTubeからブログまで、個人のネット活動のほとんどは壊滅してしまう。アーロンは世界的な反対運動を組織し、署名を集め、政治家に働きかけ、12年1月18日、ウィキペディアをはじめ、10万を超えるサイトがSOPAへの抗議として機能を停止。法案は流れた。

 アーロンは群衆に向けて勝利宣言した。

「皆さん一人ひとりがヒーローです。皆さんは自由を守る役割を果たしました」

無精ひげを伸ばしたアーロンは当時25歳。クシャクシャの髪にシャイな笑顔は少年そのものだった。
 
それが彼の最後の笑顔だったかもしれない。彼はJSTORのハッキングで起訴されてしまった。求刑は35年の懲役と3年の保護観察、そして100万ドルの罰金。

 その刑は80年代に制定されて忘れられた法「コンピュータ詐欺と濫用防止法」に基づく。JSTORは具体的な被害がなかったので訴えなかったのに、検察がアーロンを起訴したのは、明らかに見せしめだった。

 どう考えてもやりすぎだ。金融危機を引き起こしたウォール街の連中も、イラク戦争を引き起こしたブッシュ政権も誰ひとりとして罰せられていないのに。

 アーロンは潰瘍性大腸炎という病を抱えていた。長い収監には耐えられない。裁判が始まる前、13年1月11日、アーロンは自宅で首を吊った。もし生きていたなら、いったいどれほど、世の中を変える技術やシステムを開発していっただろうか。

まちやま・ともひろ
映画評論家。サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文春文庫)など著書多数。

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