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第1特集
活況を呈す自主出版の最前線【1】

マンガ同人誌、アート系ZINE…… 採算度外視の"自主雑誌"の甘美な世界

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――出版社ではない個人や団体がインディペンデントで制作した雑誌にも見える冊子=自主出版が活況を呈していると聞く。同人誌、ミニコミ、ZINE……と呼び名は様々で、スカしたメディアはカフェや雑貨屋に置かれるものばかり取り上げるが、『岡崎京子の研究』などの著書で知られるばるぼら氏が、シーンのリアルな全像を浮上させる!

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自主制作マンガ誌「ユースカ」【6】創刊号には、ネットレーベル〈Maltine Records〉から音源をリリースしているDJ/トラックメイカーのオカダダも寄稿している。

 出版不況という言葉も聞き飽き、毎年訪れる電子書籍元年にも慣れてきた編集者/デザイナー/ライターたちが、新たな活路として期待を寄せるのが「自主出版」の世界だ。まぎらわしいが、高いお金を出して自分の本を出版社に出してもらう「自費出版」とは違い、日販やトーハンのような大手出版取次を通さず、編集制作、取引、頒布などを自ら主体となって行うのが「自主」という言葉の意味である。

 自主出版には同人誌、ミニコミ、ファンジン、インディーマガジン、リトルプレス、ZINEなど呼び名がいくつもあり、歴史的背景や意味はそれぞれ違う。たとえば「同人誌」はマンガ同人誌とイコールに思われがちだが、本来は同じ志を持つ人々=同人が作る雑誌のことで、詩も小説も評論も幅広くある。とはいえ、正確に使い分ける人は少数なので問題にしない。重要なのは、なぜそれらが注目を集めているのかだ。

 当然それは、2000年代に入ってからも規模を拡大する同人誌即売会「コミックマーケット」が、一般流通網とは別の経済圏を確立していることの影響抜きには語れない。3日で50万人以上を集めるイベントは、日本中探してもコミケットのみ。その巨大化はシーン全体の活性化につながり(カッコ内はおよその来場者数)、オリジナル創作同人誌が主体の「コミティア」(約1万人)や、文章系同人誌/ミニコミが多い「文学フリマ」(約3400人)、音楽や映像作品など音系同人中心の「M3」(約9000人)、芸大生やアーティストが自作品を扱う「デザインフェスタ」(約6万人/2日)などの即売会も活況を呈している。

 さらに、自主出版物の常備店/ネット通販店の増加も一因だ。即売会に予定を合わせずに買える敷居の低さは、新規ユーザの増加を生んでいるはず。模索舎、タコシェといった老舗ミニコミ店のみならず、二次創作同人誌を中心に取り扱うとらのあな、ケイブックス、メロンブックスなどの同人ショップは、2000年代に入るまでに一般書店とは違う流通網として定着。コミックジンや恵文社バンビオ店のような品ぞろえに個性を出す店や、イレギュラー・リズム・アサイラム、リルマグ、フロットサムブックスをはじめZINEを取り扱う店も2000年代中頃から増える一方だ。こうした盛り上がりに触れた人々が、「これからはもう自分でやるしかない!」という考えに向かうのだろう。

 実際、一人で執筆、編集、デザイン、印刷所入稿まで済ませば、制作費はかなり安く抑えられる。ただ、コミケットが12年に発表した調査では、50冊未満しか売れていないサークルが32%、年間収支赤字のサークルが約66%との結果が出ており、そう簡単に売れるわけでも儲かるわけでもないことは釘を刺しておきたい。

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