サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 【島根の"閉架騒動"】とはなんだったのか?
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『はだしのゲン 第1巻 青麦ゲン登場の巻』(汐文社)

『はだしのゲン』は、2012年12月に亡くなった中沢啓治氏(享年73歳)の体験をもとにした自伝的マンガ作品である。全10巻のあらすじは……

 広島市に住む国民学校2年生の主人公・ゲンは、1945年8月6日に投下された原爆で父、姉、弟を失い、自身も原爆症で毛髪が抜け落ちる。母と生まれたばかりの妹のために奔走する中、死んだはずの姉と弟に似た、夏江と隆太と出会う。だが、ほどなく妹は1歳のときに栄養失調で、母も夏江もゲンが中学のときに原爆症で死んでしまう。初恋の相手も原爆のせいで死に、弟分のムスビはヤクザに麻薬中毒にされ金を奪われて死亡。隆太はその敵を討つためヤクザを射殺、自首しようとするが、ゲンは「お前は原爆の恐ろしさを証言できる大事な見本じゃ」と逃がす。そして画家を目指して東京に向かう――というものだ。

 原爆が落ちた直後の様子として、やけどで皮膚が垂れ下がり、目玉や内臓が飛び出したまま歩く人々、おびただしい死体、無数のウジなどが描写される。またアジア・太平洋戦争における日本兵の"蛮行"として、中国人の首を切り落としたり、妊婦の腹を切り裂いたり、女性器に一升瓶を押し込んだり、などの様子が描かれている。

 こうした"過激シーン"が「子どもにふさわしくない」、あるいは「歴史認識に事実誤認がある」などとして、12年8月、学校図書館からの『ゲン』の撤去を求める陳情が、ある男性から島根県松江市議会に提出され、同年12月、市教委は事務局の判断のみで校長会において閉架にするよう口頭で求めた。13年8月、この問題が報じられると、「知る権利の侵害だ」と各所から批判が殺到。市教委は「手続きの不備がある」として制限要請を撤回し、各学校の判断に委ねるという形で決着となった。根本的な解決に至ったとは思えない結果だが……。

「旧日本軍の残虐行為については『この部分については、いろんな意見もある』と子どもにきちんと教えればいいだけの話。『ゲン』がダメなんだったら、例えば『平家物語』はどうなんだ? という話ですよ。あれだって源氏と平氏の戦争にすぎない話を、ひとつの美しい物語へと昇華して美化しているともいえます。子どもが『平家物語』を読むのは偉いが『ゲン』を読むのは間違い、なんて非常におかしな論理です」(呉氏)

「単行本を出版した75年当初から、『読んで気分が悪くなった』という意見はありました。でも、戦争とは悲惨なもの。そこを避けては戦争の怖さを伝えられない。事実のまま描くべきだと中沢さんも汐文社も考え、出版しました。思想性についても、戦争反対という純粋な気持ちが原点。30年は草木も生えないだろうといわれた広島の惨状の中で、ゲンは苦しみを乗り越え明るく生きていく。そこが『ゲン』の一番の魅力であり、子どもたちの共感を得たのだと思います」(吉元氏)

『ゲン』は、童心に帰って素直な気持ちで読もう。

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