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第1特集
病院の民間買収とTPP後の医療問題【1】

三菱商事、鹿島建設、セコムら大手も参画!企業の病院買収とTPP参加後の功罪

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――安倍晋三政権に代わり、準備が加速するTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参画案。TPPといえば、農業問題を思い浮かべる向きも多いだろうが、しかし、同協定への参画について、2番目の課題として掲げられているのは医療問題。TPPを目の前にして、問われ続ける民間企業の病院経営をあらためて追った──。

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『1からの病院経営』(碩学舎)

 ここ数年、三菱商事、鹿島建設、セコム……一見、病院とは縁のなさそうな業界の企業が、着々と医療ビジネスへの参入を図っている。少子高齢化時代に突入した日本において、病院経営は果たしてドル箱なのか? 当企画では、民間企業による病院買収の現状と今後を整理し、TPPが迫りくる時代の病院ビジネスをクローズアップする。

 まず、昨今の病院経営事情において見逃せないのは、2000年代から顕著になった厚生省による医療費抑制政策だ。診療報酬の引き下げ、薬価基準の引き下げといった取り組みが次々に行われた結果、公立病院を中心に病院経営は大ダメージを被った。厚生労働省が行った医療経済実態調査によると、07年時点で、赤字経営の病院は全国で実に51・7%にものぼったという。そんな事情から、力のある医療法人グループが経営悪化した病院を民事再生させ、傘下に加える──企業間では珍しくないM&A(買収・合併)の病院版が市場としてすっかり定着した。医療法人設立コンサルタントでFPサービス代表の椎原正氏は、「06~08年が病院買収のピークだった」と振り返る。そして、当時立役者になったのが、多くの提携病院を抱えるセコム、そして大型病院チェーンだったという。

「06年からの数年で、めぼしい病院M&Aはほとんど片がついたと思います。今でも同様のケースは散見されますが、数は多くない。北海道、関東を中心に各病院と提携したセコムの動きも顕著でしたが、板中こと板橋中央総合病院グループ、徳洲会、上尾中央病院グループなどの病院グループが、経営破たんした医療機関を次々と買収していきました」(椎原氏)

 セコム医療部門の拡大戦略についてはこちらの記事でも解説しているが、板中、徳洲会らはM&Aによる巨大化でスケールメリットをフルに生かし、医薬品や医療機器の共同仕入れで優位性を発揮。経営効率を格段に向上させていった。

「さらにね、病院チェーンが拡大できた理由には、医師免許停止を食らった“わけあり医者”をかき集め、買収先の病院を復帰場所として使うことで人件費を抑えるという手法も、見え隠れしていた。こうしたコストカットに邁進すると、チェーン化を進めるほど病院ビジネスは儲かるものなんだよ。医療の質については疑問が残るけどね」(医師兼作家の米山公啓氏)

 そして、もうひとつの潮流が「病診連携」。こちらもまた、厚労省が描く医療介護政策にのっとったもので、この方針を意識するかしないかで、「勝ち組・負け組」の病院がくっきりと分かれ、時代の波に乗れなかった病院は経営状態の悪化を止められず、大買収時代の草刈り場になっていった。

「06年に行われた第5次医療法改正で、病診連携の動きが強化されました。病診連携とは、病院と診療所が連携を取ることを求めるもの。厚労省が医療費を削減するために、長期入院患者、特養、老人健康保険施設に入るべき患者は診療所に収容し、一般病床には入れないという方針を明確にしました。病院は地域の広い医療圏から重症患者を集めて治療していく、という役割が重点的に求められるようになったのです」(椎原氏)

 病診連携という潮流を読み誤ったワンマン院長たちは長期介護者を入院させ続け、診療報酬点数【編註:保険診療の際に医療行為などの対価として支払われる診療報酬を計算するための点数】の確保が困難になった。結果、救急対応の比率を上げざるを得なかったのである。計画的に進められる病診連携と違い、救急が多い病院はオペチームの消耗が激しい。心身ともに疲弊したドクター、看護師を高給でつなぎ止めるしかなくなり、結果として、赤字経営となって破綻一歩手前に陥るケースが増えてしまったのである。こうして、多くの病院は買収されていった、という経緯があったのだ。

 しかし、12年度の病院倒産は3件(帝国データバンク調べ)と、01年と並んで過去最少に留まっている。こうした結果からも、不良経営の病院も買収され尽くした感があり、大手病院チェーンによる陣取り合戦も小休止といったところだろう。とはいえまだ、経営に問題を抱える病院は少なくない。人材の適正配置や医療機器の調達において、企業経営の観点からいえば、改善の余地はある。最新の医療機器導入や病棟のリニューアルに手を出した揚げ句、過剰債務を抱える病院も目立つという。

「医療報酬の点数、厚労省の政策などをキッチリ把握した優秀な事務方が抱えられるか。そこが病院経営のキモではないでしょうか。診療報酬はもちろん、財務諸表、キャッシュフロー表なども読めないドクターが多い。経営をちゃんとコントロールできる優秀な経営部隊が腕利きの医師と組んだら、それは儲かりますよ」(椎原氏)

 現行の医療法では、病院経営を行うことができるのは医師免許を持った者のみ。しかし、医療のプロである院長が、経営センスまで持ち合わせているとは限らない。採算を度外視した高価な最新医療機器の購入、ビジョンのない病棟の改装など、放漫経営と指摘されても仕方ない金銭感覚が、病院運営においては当たり前なのだ。オリックス宮内義彦会長をはじめ、財界が株式会社の医療経営参入を声高に叫んだのも、病院経営のそのような放漫事情が背景にある。タフなバトルを生き抜いてきた民間企業の経営手法を取り入れれば、赤字体質の病院経営にメスを入れられる。そんな論調が説得力を持っていたのは確かなのだ。

「公立病院【編註:地方公共団体が経営する医療機関】は医療機器、医薬品を定価購入していますが、これは驚くほどの丼勘定なんです。たとえばMRIは現在、世界でシーメンス、日立、フィリップス、GE、東芝の5社でしか作られていません。あるクリニックに仕入れる際、私たちがこの5社を集めて入札をしたら、定価9億9000万円のところ、8000万円で仕入れることができました。ところが、公立病院は談合の結果、これを1億6000万円で仕入れている(苦笑)。その差は8000万円ですよ。医療業界では、いまだにこんな談合がまかり通っているんです」(同)

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2019年12月号