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「テクノロジーから見る! 業界アウトルック」No.07

ももクロでメジャー化した「電波系」音楽はIT時代が生んだ日本発のパンクだった!?

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もはやどんな事物もテクノロジーと無関係には存在できないこのご時世。政治経済、芸能、報道、メディア、アイドル、文壇、論壇などなど、各種業界だってむろん無縁ではいられない──ということで、毎月多彩すぎる賢者たちが、あの業界とテクノロジーの交錯地点をルック!

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今月の担当者サエキけんぞう氏のHPより。

[今月の業界と担当者]
音楽業界/サエキけんぞう(ミュージシャン)

──ももいろクローバーZなどによって広く知られることとなった「電波系」なる音楽ジャンル。その正体は何で、そしてその音楽的出自はどこなのか? ハルメンズ、パール兄弟などに関わり、と同時に多くのアイドルソングも手がけてきたインテリミュージシャン、サエキけんぞうが徹底解説を加える!

 波系というと、ちょっとイッちゃった女子や、根本敬さんの文章を思い出される方も多いと思うが、今日お話しするのは、音楽ジャンルの電波系のこと。「ドンシャン・ドンシャン」と、譜割りも正確でものすごく高速な2ビートの上に、戸川純や、あるいは椎名へきるのような声優歌手がボーカロイドになってさらに気の狂ったような早口の女性ボーカルがからむ、というのが、この電波系といわれる楽曲の大まかな説明となる。「なんとなく、思い当たるな?」と思う人は、一度でもニコニコ動画で音楽を聴いたことがある人だと思う。

 そうした電波系のエッセンスが今、J-POP界を席巻しつつある。ももいろクローバーZ「Z伝説~終わりなき革命~」や私立恵比寿中学「ザ・ティッシュ~とまらない青春~」といったBPM(テンポ)が速い曲が、音楽ジャンル「電波系」の雰囲気をよく出している。両方とも、ヒャダインの作詞作曲編曲によるものだ。

 ヒャダインは、もともとプロの編曲家出身だが、勃興する同人系、ニコ動系といわれる音楽性をよく吸収し、圧倒的なビュー数と支持を得てブレイクするに至った。

 電波系の曲は、普通の曲とどう違うのか? 電波系ユニット「おでんぱ☆スタジオ」を率いるベイビーレモネード氏に、通常のロックのリズムと、代表的な「電波ソング」のリズム打ち込みの波形とを比べてもらおう。

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【図1】標準的な8ビートのロックの波形は、2拍目と4拍目にリズムの重心がくる。つまり小さい山と大きい山が交互に現れ、緩急のある波形となるのが一般的だ。【図2】これに対して電波系は、ハイハットの裏拍アクセントが効いた4つ打ちであるため、よりスピード感が感じられる。電波系では、ほぼ均等に4拍すべてにリズムがノコギリ状に打ち込まれていくのだ。

「8ビートのロックの波形は2拍目と4拍目にリズムの重心がきます」。つまり小さい山と大きい山が交互に現れ、緩急のある波形となっている【図1参照】。

 それに対して電波系は、「ハイハットの裏拍アクセントの効いた4つ打ち。よりスピード感が感じられることが波形からも判断できるでしょう」【図2参照】。電波系では、ほぼ均等に4拍すべてにリズムが、ノコギリ状に打ち込まれ、ロックと同じテンポだとしても、電波系のほうがはなはだしく速いテンポ感を感じる。いわば「21世紀のパンク」といえる音楽性を持っているのだ。

 1980年代後半、世界のポップ音楽は、ハウス、テクノ、ヒップホップというクラブ系の新しい音楽ジャンルの隆盛を生んだ。それらはすべてコンピュータによる打ち込みで編曲がなされていた。しかし、ロックやソウルから生まれたそれらのクラブ音楽は、当たり前ながら、黒人音楽のアクセントも背負っていた。

 電波ソングには、ロックや黒人音楽的なニュアンスをまったく感じない。ほとんどアクセントを持たないリズム波形を分析すれば明らか。なにげに日本が生んだ、日本人による新しい音楽文化といえるのだ。

 そしてPCの中だけで作られるIT時代の音楽。90年代後半に生まれた電波系は、ネット時代の空気も反映していたといえる。

 同人系というベールに隠れてはいたが、PCだけで編集されたリズム、ネットでやりとりされ、コミケなどで広まった電波系は、今ではももクロなどによって一般化も進み、ジワジワと日本の最新メジャー・ビートに昇格しつつある。

電波ソングを押し上げたヒャダインとももクロ

 電波系の基礎を打ち立てたのは、1990年代前半から「太鼓の達人」などに多数の作品を提供しているゲームミュージックの作曲家・細江慎治だといわれている。ナムコに在籍し、おびただしい量のゲーム音楽を創り出した彼の音楽性は、ロッテルダム・テクノにも影響を受けたアッパーなものだが、冷たい本場のテクノと違い、日本人受けする人懐こいグルーヴを持っていることがポイントだ。このビートのあり方が同人系に及ぼした影響は大きく、徐々にオタクシーンの脳へ日本流にアレンジされたグルーヴが浸透していったようだ。

 電波系とは歌物のポップスを指すが、電波ソングの元祖は、2003年に発売されたエロゲー『巫女みこナース』のテーマ「巫女みこナース・愛のテーマ」(作詞・作曲 - 柏木るざりん)だといわれてる。性急なビートと頭がトロけるようなエロい歌詞とキテレツなボーカルが、ここに結びつけられた。

 さらに、秋葉原ストリートアイドルのルーツ的存在である桃井はるこが、2002年に現ULTRA-PRISMの小池雅也と結成したUNDER17も、日本語を自由自在に操るボーカルスタイルが、電波系の源流ともいわれる。

 その小池雅也も合流するMOSAIC.WAV(モザイクウェブ)も2003年にデビュー、柏森進(キーボード)によるこの「AKIBA-POP」音楽ユニットの電波ソングが2000年代中頃に、電波系の狂ったビート感を確立した。秋葉原への世界の注目がピークを迎えた頃、その雰囲気を体現していたといえよう。ボーカル・み~この、性急さを極めた滑舌とメロディーのスピード感、技巧力がすごい。

 2000年代中盤には、ハイキーなボーカルスタイルを持つKOTOKOを中心としたI’ve(アイヴ)、高い編曲能力を持つARMを中心としたIOSYSという、2つの札幌の同人音楽集団も、ファナティックなボーカルスタイルが電波系的ニュアンスを強く併せ持っていた。これらもテクノ音楽をよく研究し、本来ビートに乗りにくい日本語を、ヒップホップとは違った形でよくリズムに乗せている。

 そんな中、2000年代後半にはメジャーシーンではヒャダインのブレイクを迎えるわけだが、と同時に同人大手のI’ve、IOSYSをはさんで、オーバーグラウンドにはまったく現れない同人市場における大量の電波ソングも隆盛を迎えることになる。脳がシュワシュワに溶けそうになる歌とサウンド。しかしその音楽性は、意外にも地に足が着いている。

 その理由は、前述したように電波ソングが90年代のハードコアテクノの出自でありながら、と同時に2000年代にはガバ(GABBA)系といわれる世界最狂の高速テクノとも地下水脈でつながっていたからだ。その名も「DENPA」(2007年~)というイベントでは、ガバなどのノイジー・エレクトロ音楽とアニメ、コスプレなどが実験的にカオスな状況を作っている。DJ TECHNORCHといったキーパーソンが関わっているその交流状況は、電波ソングが、日本の独善的な音楽として孤立せずに、世界につながる脈路を開いているといえよう。

 秋葉原の代表的なアイドル・カフェであるディアステージは、「DEMPAビル」という建物に入っており、そこから「でんぱ組.inc」というアイドルユニットが2010年にメジャーデビュー。電波ソングを継承している。

 そして2013年現在、先述したように、こうした電波系のエッセンスを、ももいろクローバーZなどが紛れもないメジャーシーンへと押し上げた。彼女たちのライブ会場に押し寄せる若者は、息もつかせずたたみかけるこの日本製のビートに熱狂している。高速のビートに乗せてたたみかけるそのメロディーは、PC上以外からは絶対に誕生しない、IT時代の音楽なのである。

サエキけんぞう
1958年、千葉県生まれ。80年、ハルメンズとしてデビュー後、パール兄弟を結成。モーニング娘。のインディーズデビューシングル「愛の種」など、多数のアイドルの作詞を手がけるほか、テレビタレント、プロデューサーとしても幅広く活動している。近著に『ロックとメディア社会』(新泉社)など。
公式サイト〈http://www.saekingdom.com/

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