いまだ買取先が見つからないビクターエンタテインメントだが、サザンが新曲を出せば株価が上がると言われ、09年の活動休止時には、大きく下落。桑田の復活が最後の頼みかも!?
──長らく音楽業界の内部で、アーティストのマネジメント業務などに就いてきた面々は、昨今の状況をどう見ているのか? 大手レーベルの内外から悲痛な叫びが聞こえてきた......。
大手レコード会社が苦境にあえでいる。EMIやコロムビアに続き、avexも大幅なリストラを断行。「ここ数年でどんどん人が少なくなっていますね」(大手レコード会社関係者)と、現場の社員たちは語る。買収のニュースが飛び交うビクターエンタテインメントなど、存亡の危機に立たされている会社も少なくない。
「業界の状況はめちゃくちゃ厳しいですよ。知り合いのレーベルやスタジオも次々と閉鎖したし、メジャーレーベルの音源制作費も減少傾向。今は収入を維持するために以前の4倍ぐらい働いている状況。もはや、斜陽産業です。もう、死ぬかも(笑)」
こう自嘲気味に語るのは、80年代から多数のヒットを生み出してきた音楽プロデューサーだ。また、かつて大手レコード会社の取締役を務めた某氏も、「もうレコード会社は終わりだと思いますね。規模を縮小してもしょうがない。廃業したほうがいい」と厳しい意見を語る。
「レコード業界の不振の原因は、上層部に保守的な人が多くて変化に対応する手立てを打てなかったこと。かつて音楽配信が普及し始めたときに、とあるレコード会社の社長が『配信やダウンロードでCDに入った楽曲を二次利用するなんて冗談じゃない!』と力説していた。それを聞いて『だからダメなんだ』と思いましたね」(元大手レーベル取締役)
CDの売り上げ低迷の要因として、音楽配信や違法ダウンロードが語られることは多い。
「音楽のデータを取り扱う音源ビジネスは、世の中の流れに何度もダメージを受けています。1回目はレンタルレコードの普及。2回目は手軽に個人で録音、編集ができるMDなどの登場。3回目はPCが一般化して、さらに簡単にコピーができるようになったこと。4回目は違法アップロードや共有ソフトの登場。結果、いまやCDは購買意欲をそそらないプロダクツになっている。コピーコントロールCDなどの導入もその時々の抵抗としては無意味ではなかったと思いますが、違法コピー問題への対応策はないに等しい状況です」(音楽プロデューサー)
そもそも音楽データのコピーがこれだけ一般に広まっているにもかかわらず、著作権の保護や違法コピーへの対策にやっきになるくらいしか、大手側が手を打っていないのも問題なのだという。
「レコード業界の上層部はいまだに著作権を保護することしか考えていないけれど、そもそも音楽業界は自分で曲を書いていない、演奏をしていない奴がいかに儲けるかというシステムで成り立っていて、その体質は今も変わっていない。音楽出版社やプロダクションが原盤権を持ち、コピーに対して印税を請求するというのは、ヤクザがみかじめ料をとるのと同じような商売なんです。そんなビジネスも早晩なくなると思いますよ」(前出元大手レコード会社取締役)
さらに、新人を発掘して、育成する余裕もなくなってきているという。
「昔は、新人アーティストを発掘したら真っ先に持ち込んだのがレコード会社でした。共に才能を育てるという作業には緊張感もありながら楽しさもあった。でも、数年前に『すぐに10万枚CDが売れるアーティストを連れてきてほしい』と言われてから、アーティストをメジャーレーベルに持ち込むことをやめました(笑)。そんな売り上げが最初から立つんだったら、自分でレーベルをやったほうがいい。育てるという行為を大手レコード会社が放棄してしまっているんです」(前出・プロデューサー)
新たなスターを育てるノウハウを手放したことで、魅力あるソフトが生み出せなくなるという悪循環も招いている。
「結局は、"流行を追ってCDを売る"ということだけに走って、コンテンツへのこだわりを徹底しなかったことが、レコード業界の衰退を招いたんです。音源制作をプロダクションや事務所に任せて単なる流通を受け持つだけじゃ、レコード会社の存在意義はないですから」(前出元レコード会社取締役)
音楽をめぐる状況は激変し、過去の方法論は既に通用しなくなっているのだ。
「こんな状況下でも、テレビや雑誌のランキングを買収すれば売れると思っている人々もいる。いくら頑張ってもそういう動きやニュースが悪目立ちして、業界全体が希望を持てない状況にあるんです」(レーベル宣伝担当)
業界再編が行われるには、まずは業界内の意識改革が必要なのかもしれない。
(石破朋也)