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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第50回

自力で手法を編み出してこなかった ネット広告業界がスマホで不振にあえぐ

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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au、ドコモ、ソフトバンク、キャリア3社の戦略は完全にスマホにシフトしている。ユーザー数に伸びしろがある今が狙い目のはずなのだが……。

 スマートフォン向けの広告が伸び盛りとされている。値下げ戦争に疲弊して頭打ちになっているネット広告業界はここに期待をかけているが、まだ広告効果の根拠は薄い。ソーシャルメディア広告も同様だ。加えて、業界特有の空気と慣例が生んだ、さらに根深い問題も存在している──。

 インターネット広告業界が、不振にあえいでいる。これまでは検索連動型広告とディスプレイ広告を軸にして成長してきたが、安値合戦が猛烈に繰り広げられ、結果として極めて利幅の薄いビジネスになってしまった。従来の事業分野がレッドオーシャン化すれば、ブルーオーシャンを目指すのが当然の進化の方向性だろう。だが、ネット広告業界はこれまで営業力をテコに成長してきて、技術力は基本的には持っていない。海外で流行している広告ビジネスを日本に持ち込み、それを営業力によって売る形のビジネスで伸びてきたからだ。だからこの広告不振をテクノロジーで打開するような手は、何も持っていないというのが現状なのである。

 今ウェブの世界で最も儲かっているのは、GREEやモバゲーが手がけるソーシャルゲーム。そこで、広告業界の中でもソーシャルゲーム開発に乗り出すところが現れてきている。しかしすでにさんざん食い荒らされているこの分野に今さらのこのこ出て行っても、果たして利益を上げられるのかどうかは怪しい。

 そこで最近、業界人の多くが期待をかけているのがスマートフォンだ。スマホの広告は今急成長していて、すでにガラケー広告の1000億円市場を上回っているという話もある。普及台数はガラケーの1億台に対してスマホはまだ3000万台ぐらいなので、伸びしろもこれから相当あるのでは? と期待されているのだ。

 スマホはガラケーのようにポータルのウェブ画面が中心ではなく、アプリが中心の世界。だからアプリに広告を掲載するのが一番の近道として、開発企業に営業電話をかけまくる広告企業も少なくないようだ。

 しかし所詮、それらは単なる期待でしかない。力強い根拠があるわけではないのだ。そもそもガラケーの広告だって、効果は怪しかった。ネット広告の側が売り出しキャンペーンを展開し、クライアントを煽った面が大きく、「20億円しか売り上げがなかったのに、1億円以上を突っ込んでクライアント向けセミナーを開き、ガラケー広告を盛り立てていた」などという話もあるようだ。

 スマホの広告は始まったばかりで、どの程度の効果があるのかはまだきちんと実証できていない。スマホなどのモバイルデバイス上では従来のディスプレイ広告ではなく、映像や音声などを使った双方向性のある広告の可能性が拓けていると説いたのは故スティーブ・ジョブズで、アップルはiPhone上で表示できるiAdという、まるでゲームのような広告モデルを作り出した。日本でも2011年から電通と提携し、トヨタ自動車やキリンビールなどがキャンペーンを実施している。しかしiAdはスタート当初はかなり注目されたものの、効果が今のところあまりはっきりせず、新しい広告の潮流を作るまでには至っていない。

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