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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第172回

【アステロイド・シティ】砂漠の街で起こる宇宙人到来と軍による隠蔽作戦

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――雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。


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『アステロイド・シティ』

舞台は1955年のアメリカ南西部に位置する架空の街、アステロイド・シティ。そこに科学賞を受賞した高校生とその家族が集められた。やがて授賞式が始まるが、宇宙人が到来、街は大騒動となる。だが、街は封鎖され、軍はこれを隠蔽しようとするが……。

監督:ウェス・アンダーソン、出演:ジェイソン・シュワルツマンほか。劇場公開中。


上下がセパレートになっている水着をビキニと呼ぶのは、1946年に南太平洋のビキニ環礁で行われた原爆実験が由来だ。「原爆と同じくらい破壊的」という意味でフランスのデザイナーに名づけられた。今なら「不謹慎だ!」と大騒ぎになるだろう。

1945年に原爆が投下されてからの10年ほどを「アトミック・エイジ」と呼ぶ。欧米は原子力というものを、人類の未来を拓くエネルギーとして楽観的に考えていた。アトミック・エイジのムードを映画に再現したのが『アステロイド・シティ』だ。

舞台は1950年代、アメリカ西部のどこかの砂漠の真ん中にある町アステロイド・シティ。大昔に落ちた隕石のクレーターがあるのでそう呼ばれている。地平線の彼方で時々、キノコ雲が上がる。原爆実験をしているのだ。実際に当時、ネヴァダの砂漠では100発以上の原爆実験が行われ、ラスヴェガスから見えるキノコ雲は観光名物のひとつだった。

そのアステロイド・シティでは米軍が全米から天才的な高校生を集めて発明コンテストをしている。光線銃など兵器に使える発明の。これは第二次大戦末期、アメリカ軍がニューメキシコの砂漠の町ロス・アラモスに世界中からロバート・オッペンハイマーをはじめとする天才物理学者を集めて原爆を開発させたことを元にしている。ロス・アラモスはその後「アトミック・シティ」と呼ばれ、『アステロイド・シティ』の名前の元にもなっている。集まった天才少年たちに将軍は演説する。

「君たちが平和で静かな人生を送りたいなら、生まれる時代を間違えた」

当時、ソ連も原爆を開発し、米ソが核兵器開発競争をしていた。あっという間に、地球を何回も全滅させるだけの核兵器が作られた。人類は皆、いつ死ぬかわからない状況に置かれていた。

でも、『アステロイド・シティ』という映画はそんな話には見えない。ウェス・アンダーソン監督はいつものように、画面をピンクやスカイブルーのパステルカラーで明るくかわいく楽しそうに彩る。アトミック・エイジのデザインがそうだったように。

だが、この映画の登場人物たちは、決して明るくも楽しそうでもない。みんな無表情で、セリフを抑揚なく早口で棒読みする。実は彼らは、どうしようもない悲しみを隠している。

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