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第1特集
小林雅明&ISOが選んだ素晴らしきサントラたち

ストリーミングで手軽に映画音楽と邂逅できるサウンドトラックの調べ

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――映画公開前後に発売され、時には本編よりも話題となることもあるサウンドトラック。だが、CDやアナログで購入するほどではないのも事実。だが今はストリーミング一強時代。あの頃の名作も近年の話題作も気軽に聴けるからこその、本誌らしいテーマで粋なサントラをチョイスしてみた。

小林雅明(こばやし・まさあき)
音楽ジャーナリスト。著書に『ミックステープ文化論』(シンコーミュージック)や『誰がラッパーを殺したのか?』(扶桑社)、監訳書に『チェック・ザ・テクニーク』(シンコーミュージック)や『ロスト・ハイウェイ』(扶桑社)などがある。


日々、各ストリーミングサービスにアップされたサントラをチェックしていると、いろいろと気づかされることがある。まずうれしいのは、アナログで発売されていたことすら知らないようなサントラが、単に復刻公開されるだけではなく、いちいちリマスタリングされていることだ。作品の内容がよかったとき、フィジカルでのリリース史を追ってみると、リイシュー(再発売)されたこともなければ、ストリーミングに合わせてアナログなりCD化される予定もないことが、実は多い。もっとも、サントラの場合はリイシューされても枚数限定での発売がほとんどなので、ストリーミングでの公開は、コレクターにはなれないけど、いろいろ聴いてみたいと思っているライトなサントラリスナーにとって、ひとつの夢の世界である。

一方、サントラを手がける作曲家やアーティストにとって、ストリーミングは自作発表のための絶好の場となっている。特に配信公開の映画やドラマシリーズのサントラは、本編発表の前後に次々とストリーミングでアップされていく。フィジカル全盛の時代にはまったく想像もできなかったスピード感と量を伴って、サントラが世の中へひっきりなしに放たれているのだ。

そういった状況なので、構造的にはストリーミングでしか聴くことのできないサントラという存在そのものは、もはやめずらしくはないのかもしれない。それでも、今ストリーミングでしか聴くことのできないサントラには、作品として一聴に値するものなどもあるはずなので、あまりに膨大な量に及ぶ作品の中から、ほんの一端のさらに一端をここでご紹介したい。

◉CDやアナログの現物、そもそも盤がなくても聴ける名作
入手困難のサントラをストリーミングで

――「あの映画やドラマのサントラはどうやって聴けばいいんだ!」を解消する時代になりました。

【1】『マンダロリアン シーズン1』(2019)
公開形態:ストリーミング上のみで発表、CD未リリース

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シーズン1「第1章」を見終え、サントラを聴きながら映像を頭の中で反芻しようか、とSpotifyを開く。スコアを手がけるのは『ブラックパンサー』で注目され、期待されていたルートヴィッヒ・ヨーランソンであるのは、クレジットを見た時点で確認済みだ。Spotifyには『The Mandalorian: Chapter 1 (Original Score)』 と題され、「第1章」の劇中で使用された楽曲がまとめて収録されていた。ということは、翌週「第2章」の本編が配信されたら、そのサントラもストリーミングにアップされる、と推測できる。実際その通りで、シーズン1の最終話にあたる第8話の配信まで、サントラも8週にわけてストリーミング公開されたのだった。


【2】『博奕打ち 総長賭博』(1968)
公開形態:CD廃盤、入手困難だがストリーミング上で鑑賞可

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東映任侠映画の最高傑作。音楽は津島利章。彼がこの数年後に手がける『仁義なき戦い』シリーズにつながるセンスが聴きとれるも、猥雑さや脂ぎった躍動感とは対極にある様式美や抑制(ゆえに際立つ衝動的な暴力)が貫かれており、口ずさめるようなメロディはない。鶴田浩二をはじめとする登場人物たちが腹をくくる瞬間に堰を切ったように流れ出す音楽は、鑑賞後の追体験や作品のさらなる咀嚼を促すタイプのサントラだ。かつてCDでリリースされるも、今は市場から消え去ったような作品の数々をストリーミングで聴くことができるのは、東映が日本の映画会社でもっとも自社作品の配信に力を入れていることも関係しているのだろう。 


【3】『海潮音』(みしおね/1980)
公開形態:CD廃盤、入手困難だがストリーミング上で鑑賞可

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今なら日本産アンビエントの良質作として、むしろサントラという枠にとらわれずに聴きたい深町純の作曲作。母を亡くして父(池部良)と祖母と3人暮らしの日常に、父が海辺で発見し家で介抱することになった若い女(山口果林)が闖入。そこで生まれる思春期の少女(荻野目慶子)の心に広がる波紋のような導入部のミニマルなピアノと打楽器。やがて打楽器は消え、ピアノとシンセサイザーが生々しい潮騒を随所に取り込みつつ、クライマックスでは再び打楽器が頭をもたげてくる構成。打楽器を担当する荒瀬順子は、本作の翌年に3人組パーカッショニスト、ムクワジュ・アンサンブルのひとりとして、久石譲作品などに参加する。


【4】『Cosmos』(1986)
公開形態:CDは入手困難だがストリーミング上で鑑賞可

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「ダバダバダ」でググると、その上位の大半を占める映画『男と女』のテーマ曲の作者として知られるフランスの映画音楽作家フランシス・レイによる作品。ただし、収録曲を使った同名の映画は存在しない。これは特定の作品用にではなく、その後作られるであろう映像作品で商用使用されることを前提に作られた音楽で、「ライブラリー・ミュージック」と呼ばれている。音源を管理している会社と契約を結ぶだけで使用できるため、ライブラリー外の既存の曲のように作曲者(著作権保有者)と個別に契約する必要もなければ、費用も割安。宇宙(コスモス)をイメージしたアンビエントな音を使用したいとき、この作品はうってつけだ。


【5】『空飛ぶモンティ・パイソン』(1969)
公開形態:CD廃盤、入手困難だがストリーミング上で鑑賞可

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世界中のコメディ制作者と視聴者の意識を大きく変えた英国の人気TVシリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』。日本では昭和50年代に放映され、現在はNetflixで観ることができる。1曲目に収録されている、やたらと景気の良いテーマ曲「Liberty Bell」は、今でも多くの人たちに愛されている1曲だが、実はこれもライブラリー・ミュージック。本作自体がライブラリー・ミュージックの老舗〈デ・ウルフ〉からリリースされていて、つまりこのサントラは、ライブラリー・ミュージックをふんだんに使って作られたことを示す実践例ともなっている。笑いを誘う映像と切り離して聴くと、まったく別物に聴こえるかも。

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