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第1特集
弁護士、ジャーナリストに聞く、日本の風俗考現学

ソープランドも「グレーではなく黒」ホンネとタテマエが産んだ“本番禁止店”

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――売春防止法や風営法などの法律により、日本の性風俗産業では、男性器の挿入を伴う性交本番行為は禁止となっている。ところが、ソープランドの存在をはじめヘルスなどでも本番行為が行われてしまうこともある。こうした中で“本番禁止店”などといった倒錯した店舗まで存在している。歪んだ状況を引き起こしている日本の性産業の実情とは。

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(写真/淵上裕太)

「男と女が密室で」。性風俗業の多くは、金銭を介することでこの状況を作り出す。

それが犯罪だろうが、そうではなかろうが、その密室の中でナニが行われていても、他者は窺い知ることはできない。もちろん誰だって罪は犯したくないだろうが、残念ながら風俗を利用する時に、知らぬうちにそれに手を出してしまっているかもしれない。

現代の日本の性風俗業は多様化する性欲にマッチしようと、ソープランド(以下、ソープ)やデリバリーヘルス(以下、デリヘル)、ピンクサロン(以下、ピンサロ)にメンズエステ(以下、メンエス)など、さまざまな業態が生まれている。そこでは基本的には本番行為、つまり男性器の挿入を伴う性交は法律で禁じられているはずだが……“本番ができる”ことが暗黙の了解となっている店が多いのが現状だ。

性風俗業の口コミサイトを覗いてみると「基盤」「円盤」といった言葉が飛び交っている。基盤は“基本的に本番可能”といった店やキャストのことを指し、円盤は“円、つまり金銭による交渉により本番可能”となることを指す。いずれにしろ、日本では(金銭など)対償を伴う性交は売春防止法第3条により禁止されている。風俗店のHPにも「本番禁止」と明言されていることがほとんどだ。それにも関わらず、“基盤”や“円盤”は無くならず、密室で店が黙認した上でキャストから交渉されるケースは多い。

ただし、法令遵守による性風俗業の存続を目的とした“本番禁止店”もある。倒錯した言葉の並びだが、犯罪に関わらずにキレイに遊びたいなら本番禁止店を選択するべきだろう。

前置きが長くなったが、この国には密室を利用して基盤や円盤を行う本番店と、それを拒否する本番禁止店の、複雑怪奇な生存闘争があるのだ。

売春防止法は「ザル法」?

日本の性風俗業での本番禁止の根拠となっているのが、1956年に公布された法律・売春防止法だ。ナイトビジネスの法律に詳しいグラディアトル法律事務所の若林翔弁護士によると、その当初の目的は「女性を守るといった側面が強かった」と解説する。

「売春防止法では、単純な売春行為については罰則がなく、売春を助長する行為、売春の斡旋や管理売春など、女性に売春をさせた側を罰するのが基本の構造です。つまり、売春をさせられる女性の保護がひとつの目的となっているんです。昨今では援助交際やパパ活なども増えているようですが、女性が金銭を目的として自発的に売春をすることはあまり想定して作られていないように思えます」(若林氏)

実際に近年、売春防止法が適用されて摘発された事例では、ソープやデリヘルなどの経営側にあたる使用者や、ホストが売り掛けのある女性客をソープに斡旋するといったものが多いという。ソープは「浴場内の自由恋愛といった建前がありグレーゾーンなので捕まらないのでは?」と疑問に持つ方もいるかもしれないが、若林弁護士は「グレーではなく黒」と断言する。

「性風俗業には、もやっとした建前がたくさんあり捜査機関が黙認しているところも多く見受けられますが、検察が証拠を集めて起訴したら裁判所はほぼ全てで有罪にすると思います。デリヘルなどに関しても、本番行為が行われていて使用者がそれを推奨していたり、黙認している状況がある場合には斡旋にあたると判断されるケースもありますね」(同)

ほかにもピンサロやハプニングバー(以下、ハプバー)などでは本番はなしとされているが、他者の前で裸になった段階で、公然わいせつ罪で摘発されることも。公然わいせつ罪の場合、使用者のみならず客や接客をしたキャストも逮捕されることになるそうだ。

「警察も見せしめで摘発することも多いので、比較的踏み込みやすい実店舗で営業しているソープ、ピンサロ、ハプバーといった類を対象にすることが多い。ソープは風俗営業法上に記されている業態ではありますが、売春防止法では売春は禁止、といった入り組んだ状況になってしまっていますね」(同)

その風俗営業法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 以下、風営法)は48年に制定されており、売春防止法よりも前に公布されている。だが、風俗営業法では66年にトルコ風呂(現ソープランド)が規制対象になったり、98年にデリヘルが解禁になるなど時流に合わせた改正が適宜行なわれてきた経緯がある。しかし、売春防止法は公布以降、改正は行われていない。売春行為自体に関してはお咎めがなく、しかも密室の中の出来事と言い張ることができることに関しては、風俗業者の中でも「ザル法」と言って憚らない者も多い。

「一応、女性側を罰する規定も売春防止法の中にはあるんです。最近再び話題に上っていますが街娼、いわゆる立ちんぼによる売春勧誘は、処罰の対象になるとされています。処罰といっても罰金や執行猶予になることが多いですね。売春防止法には補導処分も定められており、補導の場合は婦人補導院に収容されることになるのですが、国内では町田にある東京婦人補導院しかなく、過去10年間で数人程度しか収容された実績がないと聞いています」(同)

ちなみに、この婦人補導院は2024年4月に施行される困難女性支援法に伴って、廃止予定となっている。「ザル法」と呼ばれる所以が垣間見られるところだ。

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