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「マル激 TALK ON DEMAND」【181】

なぜ日本の特殊詐欺は凶暴化したのか?

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

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田崎基(たさき・もとい)
[神奈川新聞記者]

1978年、神奈川県生まれ。2008年、神奈川新聞入社。デジタル編集部、報道部遊軍記者、経済部キャップ、報道部(司法担当)を経て22年より報道部デスク。著書に『ルポ 特殊詐欺』『令和日本の敗戦』(いずれもちくま新書)など。


フィリピンから特殊詐欺の指示を出していたとされる4人の日本人が強制送還され、その一挙手一投足に注目が集まっている。これまで特殊詐欺といえばオレオレ詐欺や還付金詐欺に代表される、言葉巧みに高齢者を騙してカネを奪い取る手口が一般的だった。しかし近年、特殊詐欺グループの手口が凶暴化、強盗や殺人事件を引き起こすまでに至っている――。

神保  今回は神奈川新聞記者の田崎基さんをゲストに迎え、特殊詐欺をテーマに議論します。田崎さんが最近上梓された『ルポ 特殊詐欺』(ちくま新書)は、実際の関係者に取材をして書かれているので非常にリアルです。

宮台  特殊詐欺を他人事と思ってほしくない。犯人たちにも親がいて、家族の中で育ち、地域の中で育っています。どんな家族や地域が、あるいはどんな問題を抱えている人たちがいるからこういった問題が起こるのかについてよく考える重要な機会だと思います。

神保  昨今巷をにぎわせているフィリピンの“ルフィ問題”はもともとは特殊詐欺から派生した事件ということですが、わざわざ身内に自分を訴えさせて勾留され、言うなれば他国の司法制度に守られた状態で収容施設の中から日本に指令を出すという手法は、想像していなかったケースです。田崎さんは、この事件をどう見ますか?

田崎 彼らが具体的にどこまで指示していたのかはわかりませんが、取材していて思うのは「誰が誰に指示をする」という構造が多層的に行われているということです。テレグラムなどの秘匿性の高いアプリも使うので、ボスとされている人物が誰なのか、何人いるのかわかりません。「ルフィ」という名前のように、末端の人々はチャット上の名前でしか指令役を認識していない。要は実態がよくわからず、指令役に「会ったことも声を聞いたこともない」という状況なので、この事件がどこまで解明されるかわかりません。

神保  これはどういう意図で作られた仕組みなのでしょうか。

田崎 逮捕される末端の実行犯は素人なので、逮捕されたら反省してすべてを話す者が少なくない。その時に、情報が秘匿化されていることで警察の突き上げ捜査を遮断できるということが理由のひとつ。もうひとつは、故意の遮断です。すべての工程をひとりにやらせると「詐欺をやってしまっている」と実感できますが、役割をいくつも分断すれば、規範意識を突破するハードルが下がる。したがって、罪悪感なくどんどん犯行を重ねさせることができます。

神保  これは自然発生的に出来上がった仕組みなのですか、それともあらかじめ誰かが設計したものなのでしょうか。

田崎 約20年前から増えてきた特殊詐欺ですが、これは当時、別の詐欺をやっていた人間たちが始めて、どんどんブラッシュアップされ、マニュアル化され、転用され、システム化されたものだと思います。

神保  まず、特殊詐欺のデータを見ていきたいのですが、2022年は認知件数が1万5000件を超えている状況です。08年は2万件くらいだったのが、09年には7000件くらいまでいったん減り、それからまた徐々に増えていって、20年にまた減った後、再び増えてきています。

宮台  09年に突如、3分の1くらいまでに認知件数が減ったのはなぜでしょうか。

田崎 08年から09年にかけて、NHKが警察庁や警視庁、全国の警察と連携して特殊詐欺の大特集をし、社会問題化したんです。キャンペーン後はかなり多くの国民がその存在を知り、一時的に急減しました。ただ検挙件数に関しては、増えてはいるものの、19年あたりから横ばいです。一方、認知件数はその3倍ほどあり、検挙されていない事件が多いことは問題です。

神保  驚きは、その被害総額です。最もひどかった14年は500億円以上に上ります。今でも年間360億円ほどの被害が出ているので、計算上は毎日約1億円を騙し取られているということになります。

田崎 データを取り始めた04年から今まで、被害総額は6000億円を超えました。

神保  それだけのお金を取られた被害者がいて、同時にそのお金が反社会的組織や非合法なところへ流れているということですよね。

特殊詐欺の定義ですが、これは「被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振り込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等を騙し取る犯罪」とされています。04年に初めて類型化もされました。

宮台  携帯電話の世帯普及率が国民の半数を超えたのが02年くらいです。特殊詐欺に携帯電話は必須のツールなので、そのインフラが整ったというのは大事なことだと思います。

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