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「マル激 TALK ON DEMAND」【180】

国際比較から見る日本の“やばい”現状とその解

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

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本田由紀(ほんだ・ゆき)
[東京大学大学院教育学研究科教授/教育社会学者]

1964年、徳島県生まれ。94年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。日本労働研究機構研究員、東京大学社会科学研究所助教授などを経て、2008年より現職。近著に『「日本」ってどんな国?―国際比較データで社会が見えてくる』(筑摩書房)など。


「私は数十年間『日本はやばい』と思っている」――。『「日本」ってどんな国?』を上梓した教育社会学の本田由紀氏は、こう指摘している。豊富なデータを駆使した同書は日本の「やばい」現状を看破しているが、その解決策としては「戦後日本型循環モデル」が、もはや破綻していることを受け止めた上で「新しい循環モデル」を作っていく必要があるという。

神保 本日のゲストは、東京大学大学院教育学研究科教授で教育社会学がご専門の本田由紀さんです。本田さんの近著『「日本」ってどんな国?――国際比較データで社会が見えてくる』(筑摩書房)には、今日本が考えなければならない喫緊の課題が羅列されています。そこには今の日本が本当はどういう国になっているのかが、他国と比較した多くのデータを基に示されているからです。

ところが今、どれほどの日本人が、日本がどんな国になっているかを認識できているでしょうか。今日はまずそこから議論を始めたいと思います。宮台さんいかがですか。

宮台 それはマスメディアを中心として、経済指標にばかり注目しているところに原因があります。人々は社会生活上の動機づけで経済活動をするので、社会がおかしくなると経済もおかしくなる。社会がうまくいっているかどうかを表す統計的な数値を社会指標といいますが、解釈が必要なのでマスメディアは嫌うのです。例えば、出生率減を克服することに成功したほとんどの国では、シングルマザーを中心とした婚外子を政策的に支援しました。しかしそれを言うと日本会議系、旧統一教会系が「日本の家族を壊すのか」と反応してくるため大変なのです。

神保 今回、本田さんがデータを基に国際比較をしようと考えた経緯を教えてください。

本田 私は数十年間「日本はやばい」と思っているのですが、いかにやばいかを講演などで一目瞭然に示すときに国際比較データは便利なんです。少し見渡せば、望ましい数字は日本が最下位で悪い数字は最上位、というデータがたくさんあります。今回の書籍では、そうしてコレクションしていたものを見せて、若い人を対象に「これをどう思うか」と問いかけたかったのです。

宮台 この本の良いところは、「一部だけが問題なのではなく、何かトータルな問題があるに違いない」と読者に気づかせるところです。

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日本の家族は親密性がうまく成り立っていないというが……。写真はイメージ。(写真/GettyImages)

神保 いくつかデータを抽出して見ていきましょう。まずは「家族」というカテゴリーで日本は先進国の国際的経済組織のOECDに加盟している38カ国の中で、「15歳未満の若年人口率」は38位、つまり最下位で、「65歳以上の高齢人口率」も1位。つまり日本は世界の中でも群を抜いて少子高齢化が進んでいることがわかります。また「家族生活の満足度」は31カ国中男性が27位、女性が29位、「父母を『尊敬できる』と答えた人の割合」はG7の7カ国中最下位です。

宮台 似たデータで僕がよく使うのは、高校生が「自分には価値があると考える割合」「自分には人より秀でたところがあると考える割合」です。これらも日本がダントツに低い。家族生活に満足できず、自己肯定感の低い若者に何ができると思いますか。人間は不安になり自信がなくなると自己防衛機制が働きます。そしてこれが強くなると、公共的な姿勢が弱まる。たとえ公共的に良いアイデアを示せても、公共に関心のない人が大半だったらどうするのかという話です。

本田 日本の家族は親子であれ夫婦であれ、双方の親密性がうまく成り立っていないように見えますが、憎しみ合っているわけでもない。しかし、子ども視点だと「父親は金稼いでこいや、母親はメシ作れや」のように、親視点だと「子どもは勉強しろや」のように、機能としてお互いが見合っているのではないかと。愛し合って一緒に暮らす「家族」というプライベートな領域が、日本の中でうまく成り立っていないように見えます。

神保 次に「ジェンダー」「教育」といったカテゴリーでは、「男女間賃金格差」は37カ国中35位、「国会議員に占める女性の割合」は発展途上国なども含めた146カ国中133位、「企業管理職に占める女性の割合」も146カ国中120位、そして「男性の1日あたりの無償労働時間」は33カ国中33位です。つまり日本の男は仕事しかしていないということですね。

宮台 仕事以外の人間関係がないという点で、ジェンダーロール問題や孤独死問題にもつながります。

神保 「教員1人あたりの小学校児童数」は38カ国中29位、「教育への公的支出」は37カ国中35位で、教育面でも遅れが目立ちます。また、「家族以外の人と交流がない」と答えた割合は20カ国中1位、「1週間あたりの社会的交流時間」は24カ国中24位で、社会のつながりの希薄さがうかがえます。さらに「貧困」というカテゴリーを見ると、「相対的貧困率」は35カ国中31位、「子どもの貧困率(17歳以下)」も35カ国中25位です。発展途上国や最貧国ならいざ知らず、日本はGDP世界3位を誇る経済大国なのに、なぜこうした経済指標がここまで低いのか。その一方で「自殺死亡率」は34カ国中27位で、若年層の自殺も非常に多い。

宮台 付け加えると「子どもの幸福度」もOECD加盟国中、下から2番目です。

本田 教育について、中学校のクラスサイズを国際比較したときに日本が主要国で一番大きい。政府がお金をかけていないことや、教員数が少ないことの裏返しなのですが、そういう雑な詰め込み教育をずっとやってきた結果、子どもは試験不安が非常に高く、学習意欲が非常に低くなっています。

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