サイゾーpremium  > 連載  > 澁川祐子の「味なニッポン戦後史」【最終回】
連載
澁川祐子の「味なニッポン戦後史」【最終回】

カラムーチョからマー活まで 激辛ブームがあぶり出す国民性 「辛味」(後編)

+お気に入りに追加

甘い、辛い、酸っぱい……日本の食生活で日常的に出くわす味がある。でも実は、“伝統”なんかではなく、近い過去に創られたものかもしれない――。味覚から知られざる戦後ニッポンを掘り起こす!

【澁川祐子の「味なニッポン戦後史」】
【1】専業主婦率上昇で浸透した「だし」をめぐる狂騒 「うま味」(前編)
【2】魔法の白い粉「味の素」の失墜と再評価 「うま味」(中編)
【3】無形文化遺産登録で露呈した伝統的な「和食」のほころび 「うま味」(後編)
【4】専売制下で誕生した「自然塩」の影にマクロビあり 「塩味」(前編)
【5】地名を冠した塩商品の爆増と「日本人は塩分を摂りすぎ」問題 「塩味」(後編)
【6】終戦後の砂糖不足で救世主に 「人工甘味料」バブルと転落 「甘味」(前編)
【7】カロリーゼロから高糖度の野菜まで 「甘い」をめぐる大転換と二律背反「甘味」(中編)
【8】サラリーマン社会の衰退で始まったスイーツのジェンダフリー 「甘味」(後編)
【9】「体にいい」飲む酢や酢大豆が流行 忍び寄るフードファディズム 「酸味」
【10】「若者のビール離れ」は本当か? 「苦味嫌い」の裏にある日本の画一化と格差 「苦味」
【11】「陳建民が最初に紹介」はガセ 麻婆豆腐が食卓を席巻した真相 「辛味」(前編)

2303_ajina_01.png
1984年に発売された「カラムーチョ」。湖池屋の公式サイトより。

麻婆豆腐が日本の食卓に紹介されてから約半世紀経った2018年(平成30)、本格的な四川の麻婆豆腐が話題になった。「マー活」と呼ばれるブームの渦中でのことだ。

「マー活」とは、「麻(マー)」を味わうこと。四川料理の特徴は「麻辣(マーラー)」と言われ、「麻」は花椒(ホワジャオ)の清涼感のあるしびれる辛さを指し、「辣」はトウガラシのホットなヒリヒリする辛さを意味する。花椒の独特な香りと突き抜けるような辛さにハマり、花椒入りの料理を食べ歩いたり、マイ花椒を持ち歩いたりする人たちが増えたことからスポットが当たった。

麻婆豆腐は、四川の代表的な「麻辣」料理だ。ちなみに麻婆豆腐の「麻」はしびれではなく、あばたを意味している。最初にこの料理を作ったとされる陳婆さんにあばたがあったため、「あばたのあるお婆さんが作る豆腐料理」として命名されたという。発祥とされる店は「陳麻婆豆腐」という名で現在も成都にあり、日本にも進出している(なお陳婆さんと、日本で麻婆豆腐を広めた陳建民とは一切関係がない)。

前置きが長くなったが、日本で昭和30年代に広まった麻婆豆腐は、当時手に入りにくかった花椒を省略した、「麻」なしの「辣」だけの麻婆豆腐だったわけである。そこから約半世紀の時を経て、ようやく本場の辛さが広く知れ渡ったのだ。

マー活は、俗に「第四次激辛ブーム」と言われる。では、それまでどんなブームを経てきたのか、振り返ってみよう。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2024年5月号

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ