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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第169回

【マスター〜見えない敵〜】東部名門大学で繰り広げられる“見えない”差別

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――雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。


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『マスター〜見えない敵〜』

舞台はアメリカの東部にある架空の一流大学。その大学に入学、寮に入ったひとりのアフリカ系女子学生の部屋は、かつて自殺が起こった場所だった。やがて彼女は得体の知れない人種差別を受けるようになり、“亡霊”のしわざだと考えるようになるが……。

監督:マリアマ・ディアロ、出演:レジーナ・ホール、ゾーイ・レニーほか。アマゾンプライムで配信中。


ゲイル・ビショップ(レジーナ・ホール)は、東部にある架空の名門校アンカスター大学の教授で、アフリカ系としては初めて寮長(マスター)に任命された。

アンカスター大学の歴史はアメリカ合衆国の建国よりも古い。そこはピューリタン(清教徒)に開拓された土地で、17世紀には厳格なセイラムと同じような魔女裁判があった。無実の人々が魔女の疑いをかけられて処刑されたのだ。また、1965年にはアンカスター大学の学生寮でマーガレット・ミレットという学生が自殺し、それは魔女の呪いと呼ばれた。そのマーガレットの部屋だった302号室に、アフリカ系の新入生、ジャスミンが住むことになる。

映画『マスター〜見えない敵〜』(Amazonプライム)は、ゴースト・ストーリーのように始まるが、幽霊よりも嫌なものを見せられる。

数少ないアフリカ系の学生ジャスミンを白人学生たちは「ビヨンセ」と呼ぶ。これは「マイクロ・アグレッション」。自覚のない人種的な嫌がらせだ。パーティで白人学生たちはヒップホップで盛り上がり、歌詞に合わせて「ニガー」という言葉を連呼する。

文学の教授ベックマンはアフリカ系だがジャスミンに冷たい。授業では、セイラム出身の作家ナサニエル・ホーソンの『緋文字』における人種問題を論じろとジャスミンに言う。無茶な質問だ。『緋文字』には白人しか登場しないから。当惑するジャスミンにベックマンはF(不合格)を付ける。

友人関係でも授業でも味方がいないジャスミンはさらに追い詰められる。学生寮の庭で十字架が燃える。それはKKKがこれから黒人をリンチするという予告だ。そして、ジャスミンの部屋のノブに、ヌース、首吊りのロープがかけられる……。

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