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「マル激 TALK ON DEMAND」【179】

EV革命に乗り遅れた日本自動車産業の行く末

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

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村沢義久(むらさわ・よしひさ)
[環境経営コンサルタント]

1948年、徳島県生まれ。71年、東京大学工学部卒業。74年、同大学大学院工学系研究科修士課程修了(情報工学専攻)。79年、スタンフォード大学経営大学院MBA取得。ベイン・アンド・カンパニー、ゴールドマン・サックス証券、モニター・カンパニー日本代表などを経て2015年より現職。


日本経済を支えているのは自動車産業である、ということに疑いを持つ人はそういないだろう。だが、世界で自動車のEV(電気自動車)化が進む中、明らかに日本はその波に乗り遅れ始めている。EV市場に詳しい経営コンサルタントの村沢義久氏は、日本はもはや「遅れ始めている」という悠長な段階は過ぎ、すでに「手遅れ」であると言う――。

神保 今回のテーマは宮台さんの好きな「自動車」です。主にEV(電気自動車)の話になりますが、気がつけばなぜ今の日本がダメになっているのかを論じることになりそうな気がしています。

宮台 EV関連政策のいたるところに、日本人の劣等性がよく表れています。それは、沈みかけた船の座席争い、つまり既得権益へのしがみつきから逃れられないということです。子々孫々に良いプラットフォームを残すという公共精神が存在せず、結局、座席争いの前提になる所属集団の温存にだけコミットメントする。ガソリン価格が高騰し、諸外国がEVシフトを加速しているのに、日本はガソリン補助金を加速するなどわけのわからない方向にシフトしています。本当に異常と言うしかない。

神保 ゲストは環境経営コンサルタントの村沢義久さんです。まず、今回参考にさせていただいたのが2022年2月に発売された村沢さんのご著書『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)です。それから、入門書として村沢さんが約5年前に書かれた『図解 EV革命 100年に1度のビジネスチャンスが一目瞭然!』(毎日新聞出版)も参考にしました。5年前に書かれた本は副題が「100年に1度のビジネスチャンス」となっていて、今より前向きな感じになっていますね。

村沢 これは日本の自動車産業に対する警告のようなものでした。「もう遅いかもしれないけれど、今からやれば間に合うかもしれないから頑張れ」と。それから4年半たちましたが、トヨタを含めて進歩がない。『EV革命』では日本の「出遅れ」について書きましたが、新しい本では「手遅れ」だと書いています。「手遅れになったらどうするかを書いてほしい」と出版社に言われましたので、一応、書きました。例えば、日本のメーカーがアメリカや中国の下請けになるといったことです。

宮台 ミッドウェー海戦の日本軍の動きとよく似ています。丸山眞男がよく言っていましたが、日本の組織、あるいは日本の社会は、敗色が濃厚になってくるとセクショナリズムと自己保存に汲々とし、全体についての計画を立てることができない。

村沢 まさに、トヨタが過去10年近くやってきたことは、敵の空母から飛行機がどんどんやってきて日本の空母群が攻撃を受けているところで攻撃機を甲板状に並べたままで発進させずに、魚雷と爆弾の積み替えをしていたようなものです。他のメーカーもそうですが、さっさと行動しなくてはいけないのに、攻撃を受けながらあたふたしている。EVにシフトせず、ハイブリッドの現状維持。魚雷の積み替え作業はやらなくてもいい水素燃料電池車(FCV)です。わざわざ水素なんかに変えなければ、トヨタはもっと経営資源を集中して、電気自動車で手遅れにならずに済んだ可能性もある。実際、FCVの「MIRAI」はまったく売れておらず、トヨタ内部や取引業社から漏れてくる話によると、一部では見切りをつけているようです。

神保 10年に日産のリーフが出た時は割と世界中で人気を集めていたので、僕は日本のEVは結構いい線をいっているのだとばかり思っていました。しかし、EVとPHEV(プラグインハイブリッド車)を合わせた販売台数の世界ランキングで、リーフは20年までは海外トップ3に入っていたのに、21年にはベスト10の圏外(15位)に落ちてしまいました。もちろん他の日本車もトップ10にランクしたものはありません。

村沢 私の用語では、EVとPHEVを合わせて「電動車」、英語では「プラグイン車」と呼んでいます。つまり、外から充電できる車ということです。また中国の定義では、EVと電気だけで150キロメートル以上走れるPHEVを新エネルギー車と呼んでいます。プリウスのPHEVはそこまで走らないので、各国でガソリン車が禁止される時に一緒に禁止される可能性が非常に大きい。

神保 日本のPHEVは国際基準ではEVには数えられないということですね。EVのランキングでは18年以降、テスラが1位を維持しています。

宮台 そこにフォルクスワーゲンと、中国の会社が上位に食い込んできていますね。

村沢 21年の世界2位は五菱「宏光Mini EV」(中国)ですが、当時の最低価格が(円レートで)46万円でした。 日本ではまだ売られていませんが、輸入しようと画策している人はいます。航続距離は100キロメートル強ですね。

神保 22年上半期のEV+PHEV販売台数のトップ10は、テスラとフォルクスワーゲン以外は全て中国車です。

村沢 私はガソリン車メーカーを「恐竜企業」、EVメーカーを「哺乳類企業」と呼んでいますが、テスラ、五菱やBYD(中国)は哺乳類。恐竜は、もう絶滅するしかありません。GMやフォードは、ランキングに入ってない。フォードは「マッハE」という電気自動車を出しましたが、結局売れていません。「ガソリン臭い」というイメージなんです。その中で、なんとか哺乳類に転換しつつあるのがフォルクスワーゲンです。

これはトヨタにとって非常に重要な教訓です。トヨタは、「俺たちは横綱なんだから、出遅れていても勝てる」という考えですが、私の見方は逆で、「あなたたちはガソリン臭いから、車が良くても相手にされない」ということです。テスラはもはや宗教であり、熱心な信者たちに支持されています。ここにトヨタが出ていっても相手にされないということを、トヨタの人はまったく理解していません。

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2022年12月/2023年1月号

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