サイゾーpremium  > 特集2  > 比較で知る「日本の国葬の異常性」

――奇しくもほぼ同時期に行われた、英国・エリザベス女王の国葬と、日本の安倍晋三元首相の国葬。我が国の国葬と比較してエリザベス女王の国葬を「本物の国葬」と呼ぶ人もおり、この言葉はSNSでトレンド入りした。両国の国葬にまつわる法律や歴史の比較から、日本の国葬の特異性について考察する。

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戒能通弘氏の著書イギリス法入門: 歴史、社会、法思想から見る(共著/法律文化社)。

英国史上最長となる70年間の在位を記録したエリザベス女王(エリザベス2世)。評価の分かれる人物で、凶弾に倒れて亡くなった安倍晋三元首相。今年9月に行われた両者の国葬は、その実施前から、日本のメディアでさまざまな形で比較されてきた。

国家元首の国葬と、元首相の国葬を並べて論じるのはアンフェアな話だが、両国の国葬にまつわる法令や慣例、過去の事例などを比較すると、イギリスと日本の社会の違い、政治の違いも見えてくる。そして、イギリスの国葬の実情に触れれば、「なぜ安倍元首相の国葬がここまで反対されたのか」も理解しやすくなる。

そこで本稿では、同志社大学法学部教授で、イギリス法思想史が専門の戒能通弘氏に話を伺い、英国の国葬の法令や慣例と、それが成立した背景を探っていく。

ではまず、エリザベス女王の国葬はどのような法令に基づいて行われたのか。

「エリザベス女王の逝去に際しては、布告によってチャールズ3世への王位継承が宣言され、国王大権により国葬が決定しました。つまりイギリスにおいては、国家元首の国葬実施に関しては議会の同意は不要です」

この点は日本でも誤解が広まり、自民党の石破茂元幹事長なども「イギリスではエリザベス女王の国葬でも議会の議決をとっている」と発言。後にその誤りを指摘される事態となっていた。

「なお国葬には国費が使われますが、庶民院の同意を得なければ国葬に必要不可欠な国費の拠出は認められません。先代のジョージ6世にも、その国葬(1952年)の実施後に庶民院が請求書を精査した記録が残っています。今回の国葬の費用も、庶民院が同意を示してから拠出が認められることになるでしょう」

君主の国葬を行う大権により、国家元首の国葬は議会の同意なしに行える。しかし予算は庶民院の同意が必要。この複雑な状況は、英国の歴史が育んだものだ。

「イギリスでは元来、すべての統治権力を国王が持っていましたが、その権力が議会や裁判所に分化してきた歴史があります。特に17世紀以降は、その国王大権もさまざまな形で制限されるようになり、その過程で議会の承諾のない課税は認められなくなり、国費の使用に際して庶民院の同意も必要となりました」

税金の徴収や使用、またその用途について厳しく精査する法令が整った背景にも、イギリスの歴史が関係している。

「イギリスではエリザベス1世の英西戦争(1585年~1604年)の頃から自国の防衛問題などが本格化し、戦争のために課税を行う機会が増えていました。しかし国王の好き勝手な課税を認めれば、当時の権力者である貴族や大土地所有者の財産権が保障されなくなる。そこで課税には議会の同意が必要という取り決めが行われたわけです。そのため現在もイギリスでは、税金について議会の承認を求めるプロセスが明確化されています」

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