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小原真史の「写真時評」【108】

マス・ツーリズムの誕生【上】

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――過去から見る現在、写真による時事批評

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トーマス・クック(1808~1892年)(写真:Hulton Archive/Getty Images)

コロナ禍による移動自粛にガソリン価格の高騰が加わり、旅行関連の業者は、さらなる苦境に立たされている。旅行業だけではなく、流通そのものが滞ることが懸念される事態となり、景気後退と物価上昇が同時に起こる「スタグフレーション」という言葉もささやかれ始めている。グローバリズムの嵐がこのような形で停止させられるとは思ってもみなかったが、モノと人との大規模な移動は、すでに19世紀半ばに本格化し始めており、その流れにうまく乗ったひとりがイギリス人実業家のトーマス・クック(1枚目)だった。

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「ロンドン万博へのツアー広告」1851年(写真:ullstein bild via Getty Images)

クックの成功談としてもっともよく知られているもののひとつは、1851年にロンドンで世界初の万博が開催された際、地元のミッドランド鉄道と提携して万博見物のための割引団体切符を大量販売したことではないだろうか(2枚目)。クックは、旅客の大量動員と引き換えに鉄道会社に割引運賃を承諾させるという、薄利多売の方式をとることで、旅行への敷居を下げたのである。また、ツアーの費用を積み立てるための「博覧会クラブ」の結成や、挿絵つきPR誌「クックの博覧会とエクスカーション」(のちに「クックのエクスカーショニスト」と改題)の創刊などのアイデアを次々と打ち出して、旅客をブルジョワジーだけでなく、労働者階級にまで広げることに成功した。万博の会期中、総入場者数の3%にも上る16万5000人もの旅客を地方からロンドンへと送り込んだというから驚きだ(本城靖久『トーマス・クックの旅 近代ツーリズムの誕生』講談社現代新書)。

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