サイゾーpremium  > 連載  > 大石始の「マツリ・フューチャリズム」  > 大石始のマツリ・フューチャリズム【57】
連載
大石始のマツリ・フューチャリズム【57】

「炎上」という祭りの開会式

+お気に入りに追加
2109_MF_09_PH_1C_320.png
「東京2020オリンピック」公式サイトより。

――21世紀型盆踊り・マツリの現在をあらゆる角度から紐解く!

7月23日、東京オリンピックの開会式が開催された。開会式・閉会式には「Moving Forward(前を向いて生きるエネルギー)」という共通のコンセプトが込められていたそうだが、前向きどころか、度重なるトラブルに見舞われながら辛うじて形にしたという印象を持った方は少なくないだろう。筆者も開演から終演まで約3時間半に渡ってモニターにかじりついたが、なかなか疲れる視聴体験であった。

繰り返し報道されているように、これほどまでにトラブル続きのオリンピック開会式も過去記憶がない。全体の統括役を務める佐々木宏の騒動が表面化したのが今年3月。その際、当初演出の中心的役割を担っていたMIKIKOが演出チームを辞任することになった経緯も明らかになった。開催直前には小山田圭吾の過去のいじめ騒動が広く知られることになり、自ら辞任することに。ゴタゴタが続く中、今度は小林賢太郎がラーメンズ時代におけるコントの不適切発言が問題視され、すぐさま解任された。

それが開会式前日。このときの“祭り”状態はまさに近年稀に見るものであった。普段は異なる意見をぶつけ合う論者も一致団結。皮肉なことに「オリンピック反対」という一点で異なる陣営が結びつき、今までにない絆が生まれる事態となった。昨年同様、リアルな祭りや盆踊りはどこも中止、および規模縮小を余儀なくされた2021年において、最大の「祭り」とはオリンピック関連の炎上だったのかもしれない。開会式当日から1週間ほど経った今もなお、炎上の火種は残ったままだ。

東京オリンピック開催までのトラブルの多くは、日本の社会システムそのものが老朽化し、新しい倫理観に対応できなくなっていることを明らかにするものだった。度重なる炎上とは、旧態依然としたシステムの中で育まれてきた価値観そのものが燃え尽きた瞬間でもあったはずだ。これでようやく日本は変わることができる。そうした感覚を覚え、炎上に不思議な爽快感を覚えたのは筆者だけではないだろう。

マツリ・フューチャリズム的にいえば、開会式にはいくつかのポイントがあった。ひとつは江戸の木遣り歌をもとにしたパフォーマンス。真矢みきが棟梁役を務め、木遣りとタップダンスが融合したあのシーンには、東京という地の持つ伝統を世界へ発信する目的があった。確かにモニター越しに見ると、広大なスタジアムの空間に火消しの纏はあまりにも小さく、カメラが引くと何とも寂しい印象を受けたが、東京の伝承文化を引っ張り出してくるとすれば木遣り歌か里神楽あたりになるだろうから、多少地味ではあるものの仕方ないか──それが開会式当日の感想だった。だが、後日その感想はひっくり返される。火消しと木遣りのパフォーマンスが、16年の都知事選で江戸消防会の1支部が小池百合子を支援したことへの恩返しだったことが文春オンラインのスクープによって明らかになるのだ。

また、このパフォーマンスの際には「多様性と調和」がしつこいほどに繰り返されたが、もともと出演が予定されていたセネガル人パーカッショニストのラティール・シーが「アフリカ人であること」を理由に出演がキャンセルされたことをフェイスブックに投稿。「多様性と調和」からあまりにもかけ離れた裏事情が海外メディアでも報じられ、こちらも大きな騒動となった。

開会式全体の評判は(少なくともSNS上では)「もっと和の要素が入ってもいいのに」なる意見と「今までのような和の演出が少なくてよかった」という意見が拮抗していたようだが、そもそも海外から求められている日本像をどのようにプレゼンテーションすればいいのか、日本側にも迷いがあったように思えてならない。今までのように外国人が喜ぶエキゾチックジャパンはもう古い。そのことはわかっているけれど、政治的理由などから「和の演出」を排除することはできない。そもそもの話として、「多様性と調和」を謳うには日本社会はまだまだあまりにも未成熟であり、新しい日本像を世界へ発信する以前に、解決しなくてはいけない問題が山積みなのである。

今回の東京オリンピックでは、開会式の段階でさまざまな問題と課題が浮き彫りとなった。皮肉にも、それだけでもオリンピックという空虚な「マツリ」の意味があったというものだろう。

大石 始(おおいし・はじめ)
旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」のライター/編集者。07年より約1年間をかけ世界を一周、08年よりフリーのライター/編集者として活動。国内外の文化と伝統音楽、郷土芸能などに造詣が深い。著書に『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)、編著書に『大韓ロック探訪記』などがある。新刊『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』(アルテス・パブリッシング)が発売中。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ