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第1特集
サイゾーpremium独占取材

心と身体で宮島を体感する『menewal edition zero』の鼓動と旋律

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(写真左から:吉田大裕副住職/Colo Müller氏/田村圭介氏/JEMAPUR氏)

 新型コロナウイルスの蔓延はアートの世界にも大きな影響を与えており、人々を集めるような大規模なアートイベントが軒並み中止や延期を余儀なくされている。そんな中、withコロナ、afterコロナの時代を見据えた新たなアートイベント『menewal edition zero』が、「神の島」とも称される広島・宮島の中でももっとも歴史深い寺院、大聖院を会場に、2月20日から4日間にわたって開催された。(文・写真/大前 至)

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 今回の『menewal edition zero』に参加したのは広島出身のコラージュ・アーティストである河村康輔氏と映像クリエイター集団のCOSMIC LAB、そしてサウンドデザイナーのJEMAPUR(ジェマパー)という3組のアーティスト。主催者側の話によると、弘法大師空海が開創し、1200年以上前の歴史と高い格式を誇る大聖院を会場にして、この3組のアーティストが大聖院や宮島の霊山=弥山(みせん)をモチーフにして、最先端のテクノロジーを用いたアート作品を制作し展示するという。

 実は以前、筆者自身が旅行で宮島を訪れ、大聖院にも足を運んだ際に、歴史の重みと同時に、ほかのお寺とは何か違う雰囲気というものを感じたことを強く記憶している。そんな大聖院と最先端のアートがどのように融合するのか? そもそもバックグラウンドがまったく異なるようにも思える両者が混ざり合うことは可能なのか!? そんな期待と不安が入り混じる状態の中、緊急事態宣言中の東京を飛び出し、約2年ぶりに宮島を訪れた。

『menewal edition zero』の展示会場となったのは大聖院の敷地内にある客殿と呼ばれる建物で、最初に入った部屋には河村康輔氏による弥山の守護神「三鬼大権現」(通称「三鬼さま」)をモチーフにしたコラージュアート作品『Three』が展示されている。日本でも非常に珍しい鬼の神様3体をそれぞれカットアップ&再構築してコラージュするという手法で作られたこの作品が、真っ暗な部屋の中でライトアップされ、威厳と美しさを保ちながら独特の存在感を放つ。

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 さらにその奥の部屋ではCOSMIC LABとJEMAPURとがコラボレーションした、約15分のオーディオヴィジュアル作品『decode』を鑑賞。大聖院や弥山などすべて宮島の中で撮影、および録音した素材を用いて作られたこの作品は、 COSMIC LABによる現実とヴァーチャルが入り混じったXR映像と、JEMAPURによるハイパーソニック・エフェクトを駆使したサウンドが見事に一体化し、今まで体験したことのないような実に不思議な映像と音の空間に圧倒された。

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 作品観賞後に話を窺ったのが、『decode』を制作したCOSMIC LAB代表のColo Müller、JEMAPUR、大聖院の副住職である吉田大裕氏、そして今回のプロジェクトのプロデューサーで神戸を拠点とする田村圭介氏(menewalプロジェクト実行委員会 副代表)の4名。今回の『menewal edition zero』は田村氏と広島の仲間とが意気投合してスタートしたという。

「広島の仲間と酒の席で、『広島の人たちにとって宮島はすごく大切な場所だけど、若い世代が島の人たちと交流する機会がない』という話を聞いて。けど、あの場所で何かやりたいっていう強い思いが彼らにはある。そこで僕たちの好きなアーティストと宮島をかけ合わせたら何が出来るだろう? というところから、この企画がスタートしました」(田村氏)

 企画が立ち上がり、人の輪が広がっていく中で田村氏が出会ったのが、大聖院の吉田副住職であった。

「お寺はもともと地域と連携していて、皆さんに支えてもらっている面があります。ですから、何かされたいという思いがあれば、うち(大聖院)はできる限りのことはさせていただくよう、住職からもそういう教えを受けてきました」(吉田氏)

 さらに吉田氏は昔からあるお寺とアートとの深い繋がりが、今回のプロジェクトに賛同した大きな理由でもあったという。

「私たちも伽藍(寺院の建物)を作っていく中で、仏教美術や仏教音楽といったところには興味は持って、いつも勉強するように心がけています。ですが、なかなか一僧侶が芸術家さんたちと一緒に何かをする機会には恵まれず。それこそ今回のお話も“ご縁”だと思うんですが、縁があれば繋がってみたい思いはありました」(吉田氏)

 宗教から美術や音楽が発展していった背景は、歴史が証明する事実でもあり、1200年の伝統を背負った大聖院が最先端な今のアートと繋がるというのも必然的な流れであったということが、吉田氏の言葉からもわかる。そして、田村氏がこのプロジェクトで映像を担当するアーティストとして真っ先に思い浮かんだのがCOSMIC LABで、代表のColo Müllerにとっては待ち焦がれていた企画であったという。

「05年に高野山の御開創1200年のプロジェクトで、プロジェクションマッピングをやらせていただいたんです。そのあたりから真言密教と僕らがやっているヴィジュアルアートとが合わさったものから生まれる、新しい世界観の可能性を感じていて。いずれ山岳信仰や修験道をテーマにした作品を作りたいなっていうのはずっと思っていました」(Colo Müller氏)

 一方、サウンド面を担うアーティストとして指名されたのがJEMAPURだ。彼はCOSMIC LABとはまた違った視点で今回のプロジェクトへの参加を決めたという。

「寺院というのは僕たちが普段認知している世界を伝承している存在だと思うんですが、その中には言語化不可能な領域のものも数多く存在している。僕がサウンドで表現するハイパーソニック・エフェクトには、普段人間の脳の中で働いていない認知領域を刺激して、認知機能の向上や免疫機能の向上といった効果があると言われています。つまり、人間の認知領域という部分で仏教と繋がる部分があるんじゃないかと。そして、(今回のプロジェクトによって)本来は聴こえてない音に向き合ったときに、体験者にどういったことが起こるのか? という実験精神があって、それが参加を決めた理由のひとつでもあります」(JEMAPUR氏)

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 彼らが制作した「decode」という作品のタイトルには〈圧縮、保存された情報を引き出し、作家の感性で解凍、解釈(=デコード)する〉という意味が込められており、つまり宮島の中で撮影、録音した素材から、彼らの解釈と手法でデコードされたもので作品に収められている。言葉にすると難しくも感じるが、約15分間にわたる作品を見れば、彼らが何を伝えるべきかの真意が伝わってくる。「decode」を体感した感想を吉田副住職は次のように語る。

「僕らは真言宗の開祖、弘法大師空海さんの教えをもとに今も生活させてもらっています。その教えとは『すべては大日如来さんという仏様からできている』という考えです。つまり体の細胞一つひとつから今立っている地面もすべてが仏様からできている。ただ、それを言葉で伝えてもなかなか理解してもらえないんですが、今回の作品のように視覚的になると『確かにこのようなことである』と感じました。私自身、 COSMIC LABの映像をきっかけにたくさんの気づきを得ました」(吉田氏)

 さらにサウンドの面から受けた刺激も大きかったという。

「禅宗のような静かなイメージとは対照的に、真言宗は動的な要素が多い。護摩行をしたり読経したり、活気に満ちた、どんどんと内からパワーが湧いて出てくるようなのが真言密教の特徴としてあります。今回の作品でも太鼓のリズムや火の音が入っていて、それを聞いているとだんだんとパワーをいただける。今すぐにでもご祈祷を受けたり、護摩行をしたいと思えるような活力や刺激をいただきました」(吉田氏)

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 繰り返しになるが、今回の作品で使われた素材はCOSMIC LABとJEMAPURが宮島の中で自ら撮影・録音を行ったもの。ただし、事前にしっかりと場所や時間を決めていたわけではなく、さまざまな偶然によって撮れた映像や録音できた音もあったという。

「制作にあたって弥山に3回登ったんですが、3回目のときがちょうどケーブルカーが止まっていたんですね。弥山の一番上には巨石群があるんですけど、普段はめちゃくちゃ人が多いのに、その日はまったく人がいなくて。その光景を見て、『これが本来の姿なんじゃないか?』と感じて。神仏習合という言葉がありますけど、神様(神道)と仏様(仏教)が分離するもっと以前の、すべてがひとつだった世界みたいなものを感じました」(Colo Müller氏)

 もちろん、そのときの映像は「decode」でも使用されており、その光景は実に美しく神秘的だ。

 すでに大聖院での公開は終了しているが、現在は「Matterport」という3Dビューイングの技術を使用し、展示会場である大聖院の境内の様子やコラージュアート作品「Three」、そしてオーディオヴィジュアル作品「decode」をオンラインで観賞することができる。コロナ禍においてオンライン公開というのは必然的な流れでもあるが、一方で現地での体験には劣るのも否めない。しかし、プロデューサーの田村氏はオンラインだからこその意義を語ってくれた。

「オンラインですべてを伝えるのは困難ですが、逆に言えば、それを補完するために、見た人が実際に宮島に足を運びたくなるという流れを作れたらと思っています。宮島はとても人気のある観光地で、神様の島として崇められている。ただ、どうしてもツーリズムの環境が強くなりすぎて、深いところまでは必ずしも伝わっていない。僕たちはアートを媒介にして、説教くさくなく、宮島の本当の魅力を伝えていければと思っています」

『menewal edition zero』という今回のイベントタイトルが示しているように、宮島を舞台にした彼らのプロジェクト『menewal』はまだスタートしたばかり。いずれまた人々が自由に旅行ができるようになり、宮島にも再び多くの人が訪れていくのと並行して、『menewal』はさらなるエディションを重ねていくだろう。そして、その時には大聖院の境内で、大勢のオーディエンスの中でCOSMIC LABとJEMAPURのライブパフォーマンスが行われることを期待したい。

※3月7日まで特設サイトにてオンライン展示をご覧いただけます

https://www.menewal.com/

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