――21世紀型盆踊り・マツリの現在をあらゆる角度から紐解く!
チュチュンがチュン! チュチュンがチュン! 我々の思いを代弁するタイトル『デンセンマンありがとう』デラックス盤がこちら。小松の親分さん、数々の感動をありがとうございました。
昨年の12月7日、俳優の小松政夫が肝細胞ガンのためこの世を去った。享年78。2019年11月に肝細胞ガンが見つかって以降、入退院を繰り返していたというが、小松はその直前、芸能人生の集大成ともいうべき舞台「うつつ」を上演している。副題は「小松政夫の大生前葬」。まさに芸能者として、やりきった上での逝去ともいえるだろう。
マツリ・フューチャリズム的にいえば、小松政夫はなんといっても「デンセンマンの電線音頭」(76年)という昭和音頭史に残るメガヒットに関わった人物である。「電線音頭」はもともと75年から76年にかけて放映されていたテレビ番組「ドカンと一発60分!」(現・テレビ朝日系)の1コーナーにおいて、桂三枝(現・桂文枝)が即興で歌い踊ったものが原型。すぐさま「桂三枝の電線音頭」としてレコード化され、こちらにはすでに小松が参加している。三枝版のレコード自体はそれほど話題にならなかったようだが、「ドカンと一発60分!」の後続番組「みごろ! たべごろ! 笑いごろ!」(同)で伊東四朗と小松のコンビでリメイクされると、大きな話題を集めることになった。その後「デンセンマンの電線音頭」としてレコード化もされヒットを記録している。
「人の迷惑かえりみず、やってきました電線軍団!」というベンジャミン伊東こと伊東四朗の口上、「チュチュンがチュン! チュチュンがチュン!」という囃し言葉、そしてブギと阿波おどりを融合させたリズム。「みごろ! たべごろ!笑いごろ!」では、そこに小松与太八左衛門こと小松政夫率いる電線軍団が乱入し、一種の狂乱状態を生み出すのが定番の流れだった。楽曲の持つ力と人気番組のエネルギー、さらには人気絶頂期のキャンディーズが同番組に出演していたことも大きいが、やはりなんといっても当時30代の若かりし小松と伊東あってこそ。血管が切れそうなテンションで「チュチュンがチュン!」と絶叫しまくるその姿は、現代の感覚からすると少し恐ろしくなるほどだ。
人気に火がつき始めた「電線音頭」は、やがてスタジオを飛び出し、各地の商店街などでロケが行われるようになる。応募した視聴者のもとに出かけていくこの公開録画を「出前電線」と呼び、申し込みが殺到したという。当時のメディアには「電線音頭」の大ブームを幕末の「ええじゃないか」と比較する論調もあったが、小松と伊東が先導した「電線音頭」は、テレビのバラエティ番組における企画を超え、「ええじゃないか」にも通じる一種の社会現象ともなっていくのだ。
なお、「電線音頭」をきっかけにして、小松はいくつかの関連音頭も生み出している。「みごろ!たべごろ! 笑いごろ!」から生まれたもうひとつのヒット曲である小松政夫&スージー白鳥の「しらけ鳥音頭」(77年)。「電線音頭」に続く2匹目のドジョウを狙った小松政夫とタコフン軍団の「タコフン音頭」(80年)。また、95年にはダンスホールレゲエの大御所、ランキン・タクシーのプロデュースのもと「電線音頭」のレゲエ・リメイクがリリースされ、小松・伊東ともに衰えぬ歌声を聴かせている。
では、なぜ小松は、そのように数々の音頭にフィーチャーされたのだろうか。
よく知られているように、小松は植木等の付き人兼運転手として芸能界と関わりを持ち、デビューを飾ったという人物。小松は植木のことを「オヤジさん」と呼び、実の父のように慕っていたという。一方、植木を擁するバンド、クレイジーキャッツは「ドドンガドン」という音頭のリズムを下敷きとするさまざまな楽曲を残している。「ドント節」「五万節」「無責任数え唄」「馬鹿は死んでも直らない」「人生たかが二万五千日」など挙げていけばキリがないほどだが、その筆頭はなんといってもご存知「スーダラ節」(61年)。「ドドンガドン」を内蔵したリズムと「スイスイスーダララッタ」というナンセンスな歌詞、C調な植木のキャラクター。そうした「スーダラ節」の特徴は、そのまま小松を通じて「電線音頭」に受け継がれた。音頭のDNAは植木から小松へと継承され、「電線音頭」を通じて70年代の子どもたちへと伝えられたわけだ。
小松の死は、芸能界のみならず幅広い世代に衝撃を与えた。彼がひとりのコメディアンとして長年愛されてきたことは言うまでもないが、小松は稀代の音頭MCであり、音頭界のレジェンドでもあったのだ。心からご冥福をお祈りいたします。
大石 始(おおいし・はじめ)
旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」のライター/編集者。07年より約1年間をかけ世界を一周、08年よりフリーのライター/編集者として活動。国内外の文化と伝統音楽、郷土芸能などに造詣が深い。著書に『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)、編著書に『大韓ロック探訪記』などがある。新刊『盆踊りの戦後史─ 「ふるさと」の喪失と創造』(筑摩書房)が発売中。