サイゾーpremium  > 連載  > 稲田豊史の「オトメゴコロ乱読修行」  > オトメゴコロ乱読修行【62】/【鬼滅の刃】が表す現代女性の生きづらさ
連載
オトメゴコロ乱読修行【62】

胡蝶しのぶの自爆が表す現代女性の生きづらさ――『鬼滅の刃』女性キャラの悲愴

+お気に入りに追加

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

2006_inada_2006_1c_200.jpg

 この出版不況下、単行本の売り切れ続出が報じられるほど盛り上がっているのが、2016年に連載が始まった、『鬼滅の刃』(「週刊少年ジャンプ」)だ。「オリコン年間コミックランキング 2019」では売り上げ1205万8000部(!)で第1位。19年にテレビアニメ化され、今年10月には映画版も公開される。

 舞台は大正時代の日本。炭焼きの少年・竈門炭治郎が家族を惨殺した「鬼」たちと戦うため、「鬼殺隊」に入隊して鍛錬を積んでいく。和モノ伝奇ホラー+必殺技系剣戟モノだが、「ジャンプ」をとっくに卒業したサイゾー世代へ雑に説明するなら、『ジョジョの奇妙な冒険』と『るろうに剣心』と『忍空』と『HUNTER×HUNTER』のいいとこ取り、といった趣である。

 挙げた作品からもわかるように、一見して正統派少年マンガに見える本作だが、なかなかのオトメゴコロ案件だ。鬼殺隊の隊員や鬼化した人間たちは、皆なんらか訳ありの重たい過去を背負っており、それが鬼と戦う、もしくは鬼になる理由と密接に結びついているが、なかでも女性キャラの置かれている境遇が、なんというか実に、人生ハードモード。少年誌連載作品ながら、「虐げられた女性たち」からの社会告発的な色が強いのだ。

 例えば鬼殺隊の甘露寺蜜璃が入隊した理由は婚活のため。入隊前は「変な髪の色、異常な筋力、異常に大食」であるがゆえ見合いに失敗、相手からは「そのおかしな頭の色も子どもに遺伝したらと思うとゾッとします」と言われたため、髪を黒く染めて食事を控え、弱いふりをしていた。しかし本当の自分を出せないことに苦しんだ挙げ句、自分を受け入れてくれる鬼殺隊に入ったのだ。「ありのままに生きたい」件は、さながら『アナと雪の女王』のエルサ。蜜璃もエルサも社会から押し付けられる一様な「女子らしさ」の呪縛の被害者だ。

 同じく鬼殺隊で炭治郎と同期の栗花落カナヲは幼少期、「いてもいなくてもいい存在」だったので親から名前すらつけられず、貧困のため人買いに売られた。そのため成長後も「あらゆることがどうでもよく、自分の意思では何も決められない」パーソナリティが形成されてしまう。指示されたこと以外はコイントスで決める彼女は、逃れられないDVやネグレクトを受け続けた子供たちが陥る「学習性無力感」に近い症状が出てしまっている。

 鬼殺隊でカナヲを指導する胡蝶しのぶは、生まれつき体格に恵まれていないため鬼を殺傷すべく首を斬り落とすことができない。そのため毒薬を剣の刃に塗って戦うという涙ぐましい努力を続けている。優等生の姉が鬼に殺されており鬼を憎んでいるが、生前の姉が「鬼と仲良くしたい」と願っていたため激しく葛藤し、それを隠すためにスマイルを絶やさない。そんな彼女は炭治郎曰く「ずっと笑顔」だけど「いつも怒ってる匂い」がする。抑圧された女性の典型だ。戦いでは、長い年月をかけて毒を取り込んだ自分の体を鬼に食わせることで絶命させるという壮絶な最期を遂げた。“力”を持たない女性が社会を動かすには、“自爆”しかない。ミソジニー男性からの二次被害を覚悟した捨て身の#MeTooにも通じる悲しさがある。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2026年11月号

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界
    • 「沼化」するエンタメ業界
    • 膨らみ続けるグラビア市場
    • SNSがつくる「あなたの好み」
    • 映画界ハラスメントの実態
    • ゲーム実況者の高齢化問題
    • PS、ディスク販売廃止の衝撃
    • 私たちは「ドパガキ」なのか
    • AI時代の「生歌」の価値
    • 「ニコ生ホラー」とは何だったのか
    • テクノロジーが広げる学びの未来
    • AI時代のサイバー攻撃
    • リングを彩る美女たち
    • 〈Cosplay beauty〉もちむぎ

NEWS SOURCE

インタビュー

    • 滝藤賢一、名バイプレイヤーの境地
    • 唯一無二の音楽家・水槽
    • 小八重葵美が得たもの

連載

    • [マルサの女]高橋凛
    • 神保哲生×宮台真司の「TALK ON DEMAND」
    • 萱野稔人と巡る「超・人間学」
    • ドクター苫米地に聞け!
    • 井川意高の天上夜想曲
    • 韮原祐介の匠たちの育成哲学
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • GROOVE SEQUENCE
    • 笹 公人×江森康之の「念力事報」
    • 町山智浩の「映画でわかるアメリカがわかる」
    • 花くまゆうさく『カストリ漫報』
サイゾーパブリシティ