サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 医療マンガの現在【1】/ポスト『ブラよろ』的【医療マンガ】

――医者の立場から生命倫理を問いかけてきた『ブラック・ジャック』をはじめ、医療もののマンガは長らく読まれ続けている。このジャンルでは人の生死という我々にもっとも身近なテーマを扱っているがゆえに、映像化もしやすい。昨今ではさらに、細菌学や法医学、終末医療に出産と、テーマが細分化しているようだ。

続々ドラマ化の人気ジャンル――そしてスーパードクターは消えた! ポスト『ブラよろ』的医療マンガの画像1
長瀬智也主演でドラマ化された『フラジャイル』。続編も予定されていたが、武井咲の結婚と妊娠で頓挫したとか。

 マンガ原作がテレビドラマ化する流れは、今や当たり前のもの。そのテレビドラマの定番として定着しているジャンルがある。「医療もの」だ。2019年にも、『監察医 朝顔』『ラジエーションハウス』(共にフジテレビ系)『白衣の戦士!』(日本テレビ系)『白い巨塔』『ドクターX~外科医・大門未知子~第6シリーズ』(共にテレビ朝日系)など多くの作品が放送されている。

 高齢化が進む中いつの時代にも増して、医療に向けられる関心は高まっている。今後も多くの医療コンテンツが生み出されるはずだ。本稿で注目してみたのは、ドラマの原作となることが多い医療マンガの動向だ。作品テーマの変化を振り返ることで、明日の医療コンテンツの方向性を予測することができるかもしれない。

 まず医療マンガの“歴史”をさかのぼると、2つの大きな潮流があることに気づく。ひとつは、天才医師が患者の難病や病気にまつわる事件を解決していく「スーパードクター」もの。そしてもうひとつが、社会の中でも特にタブー視される傾向が強い「医療の裏側」を暴く、「告発・風刺系」もしくは「社会派」の作品群だ。

 両医療マンガの潮流を築くことに最も大きな功績を残したマンガ家として、手塚治虫の存在は欠かせないだろう。1973年から連載開始した『ブラック・ジャック』(秋田書店)は、今なお多くのファンを惹きつけてやまないスーパードクターマンガの原点である。またそれ以前、70年から連載の『きりひと讃歌』【1】では、封建的かつ権力闘争のるつぼでもあった医療業界の裏の顔を描いた作品として、高い評価を得ている。なお、63年から連載開始し、後に「コミックバンチ」(新潮社)でコミカライズされた山崎豊子の長編小説『白い巨塔』(新潮社)も、業界の腐敗や制度の問題点を描いた告発系の作品だった。

 過去に「日本の医療マンガに関するインターネット調査」という論文を執筆している医療ガバナンス研究所の理事長・医師の上昌広氏は言う。

「医療マンガの系譜をたどると、天才的な腕を持った医師がさまざまな難病を克服していくという典型的なひな形が存在します。それら“スーパードクター”のほとんどが外科医というのも特徴のひとつ。内科における薬物療法と比較して、外科手術は読者に医療現場を強く想起させることができます。そのため、多くのマンガ家がテーマとして外科医を選択したと考えられます。一方で、世の人々にとって権威の対象であった医療の世界の問題点を描くという視点も、医療マンガの大きなテーマのひとつとなってきました」

 2つの系譜は、医療マンガの中に脈々と受け継がれていく。明確な線引きは難しいものの、まずスーパードクターマンガとしては、その名も『スーパードクターK』(講談社)をはじめ、『ゴッドハンド輝』(講談社)『サイコドクター 楷恭介』【2】『メスよ輝け!!』『JIN -仁-』『Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス~』(すべて集英社)『ホルスの手』『天医無縫』(共に日本文芸社)『ダーク・エンジェル』(秋田書店)『女監察医』(芳文社)『SEXドクター尖三郎』【3】など無数にあり、そのほかも枚挙に暇がない。

 一方、医療の問題点告発系・風刺系の系譜は、『ブラックジャックによろしく』(講談社、のちに小学館から続編として『新ブラックジャックによろしく』が発売)『医龍-Team Medical Dragon-』【4】『最上の命医』(小学館)『ネメシスの杖』(講談社、のちに『インハンド』に改題して連載中)などによって受け継がれていく。

 なお、医者の人情や患者との触れ合いを描いた「町医者もの」も医療マンガの特定ジャンルを確立してきた。ここには、『Dr.コトー診療所』【5】や『町医者ジャンボ!!』(講談社)などの人気作が該当するだろう。また意外にも、人間ではなくペットや動物の病気を治す「獣医もの」も、人気作として地位を築いている。代表的な作品には、『動物のお医者さん』(白泉社)『ワイルドライフ』(小学館)などがあるが、前者は2160万部(漫画全巻ドットコム調べ)を売り上げており、歴代では『ブラック・ジャック』(4564万部)に次ぐ医療マンガ2位の成績を誇っている。

権力の象徴であった医療現場

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