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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第142回

『アメリカン・ファクトリー』中国資本の米工場は奴隷労働か……でも最低賃金は日本の倍!!

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『アメリカン・ファクトリー』

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2008年、リーマン・ショックの影響により、米大手自動車メーカー「ゼネラルモーターズ」が経営破綻した。翌年、アメリカ大統領に就任したオバマは、公的資金により同社を救済すべく働きかけるも、オハイオ州デイトンの工場は間に合わなかった。やがて、好景気に湧く中国企業が再生に着手。だが多くの弊害が従業員に……。監督:スティーブン・ボグナー、ジュリア・ライカート。Netflixで配信中。

 オバマ前大統領が映画会社を始めた。その名も「ハイヤーグラウンド(スティーヴィー・ワンダーの歌から)」。

 第一作は、すでにネットフリックスで全世界に配給された『アメリカン・ファクトリー』。閉鎖されたアメリカの自動車工場を、中国資本が再生させる過程に密着取材したドキュメンタリーだ。

 2008年、リーマン・ショックの中で、GM(ゼネラルモーターズ)の経営が破綻し、オハイオ州デイトンにあった工場も閉鎖され、1万人が職を失った。オハイオはラストベルト(錆びついた工業地帯)と呼ばれ、1970年代以降、重工業の縮小が続いている。09年に大統領に就任したオバマ大統領はさっそくGMに公的資金を投入して再建させたが、そのデイトンの工場は間に合わなかった。

 それから6年たった15年、中国のフーヤオ(福耀)グループがその工場を再生させることになった。フーヤオはGMやクライスラー、トヨタなど、自動車のための窓ガラスを製作する国際企業である。オハイオ州が補助金1500万ドルを提供して誘致したのだ。

 数千人が応募した。フォークリフト作業員のジルさんはGMの閉鎖後、職がなく、妹の家の地下室に居候していた。彼女のような人々が救われた。

「アメリカは自由の国だ。大統領をバカにしてもいいんだ」

 管理職としてデイトンの工場に派遣されたフーヤオの社員たちは、アメリカ人との付き合い方の説明を受ける。

「思ってることを言わないと、打ち解けられないぞ」

 ワン氏は30代の社員。妻と2人の息子を中国に残しての単身赴任。ラストベルトの労働者の貧しさを見てショックを受ける。

「僕はずっとアメリカ人は豊かに暮らしていると思っていたのに」

 しかしデイトン工場はフーヤオの求める生産量も品質も達成できない。

「作業しながら私語を交わしてるなんて信じられない」

 ここまでの展開は1986年の映画『ガン・ホー』と変わらない。ラストベルトの閉鎖された工場を再生すべく、日本の自動車工場を誘致するが、日米の労働文化の違いでうまくいかない。しかし友情が国の違いを乗り越えてハッピーエンド……。『アメリカン・ファクトリー』はそうならない。

 フーヤオはアメリカ人の管理職を中国の本社に呼んで、中国式のやり方を教え込む。皆、黙々と休まず朝から晩まで作業し、家にも帰れず、子どもにも会えない。作業の安全は二の次。完全な奴隷労働だ。共産党は労働者の権利を守るのではなく、労働者の管理組織でしかない。

 一方、デイトンでは労働組合を求める声が出始める。GMでは労組が作業中の負傷の補償や病欠した労働者を守ってくれたが、フーヤオではすぐクビになってしまう。しかも時給はGM時代の半分以下。最低賃金レベル。

「年収たった2万7000ドルだ。ネイルサロンで働く娘は私の倍稼ぐ」

 しかしフーヤオはLRIという労組対策コンサルタントを雇い、「組合に参加したらクビだ」と社員を脅す。会長は「労組ができたら工場を閉鎖する」と言う。労組は結成できるのか?

 ドナルド・トランプはラストベルトの再建を掲げて労働者の票を集め、大統領になった。しかし、米国内の中国や日本の工場を「安全保障上の脅威」と批判するなど、トンチンカンな政策ばかりで、雇用はまるで増えていない。

『アメリカン・ファクトリー』の恐怖は、ロボットが導入されるシーン。ロボットは組合に入らない。これでもう労働者はいらない。なら誰が大統領になろうが、労働者の仕事は増やせない。

 あ、一番の恐怖は最後のテロップだ。「フーヤオ・デイトンの時給は今も14ドルのまま増えていない」絶望的な低賃金という意味で出してるけど、それ、日本の最低賃金の倍近いから!

まちやま・ともひろ
映画評論家。サンフランシスコ郊外在住。『映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』 (新潮文庫)、『今のアメリカがわかる映画100本』(小社刊)など著書多数。

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