サイゾーpremium  > 連載  > クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング  > 【リクナビ】内定辞退率が法律違反以上にマズイわけ
連載
『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第69回

【クロサカタツヤ×板倉陽一郎】実はリクルート存続の危機!? リクナビ内定辞退率が法律違反以上にマズイわけ

+お気に入りに追加

通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

1910_P102-105_graph001_520.jpg
●匿名加工情報の作成・提供に係る公表状況
(出典)個人情報保護委員会 個人情報保護を巡る国内外の動向(データ利活用に関する施策の在り方関係)平成31年3月4日発表より

――リクナビが就活生の「内定辞退率」を、ユーザの閲覧状況などから勝手にスコア化して企業に販売していたとして大きな問題になっている。単なる個人情報ではなく、就職活動という人生を左右する情報の取扱いとしてあるまじきこの裏切り行為に非難の声が上がり、各大学から“リクナビの不使用宣言”も出されている。「第2のリクルート事件」として会社存続すら危ういと評されるほどのこの一件、いったい何がマズかったのかをこの分野のエキスパートに聞いてみた。

クロサカ 今月は、弁護士の板倉陽一郎さんをお迎えしています。板倉さんは、個人情報保護法をはじめ、いわゆる情報法のエキスパートとして多分野で活躍されています。先日、リクルートキャリアが運営する「リクナビ」が就活生の内定辞退率をスコア化して、顧客企業に販売していた事件についてお話をうかがいます。

板倉 今回の「リクナビDMPフォロー」【1】事件は、リクナビ側がユーザから同意を取らずに個人情報を第三者提供していたことが問題です。個人情報保護委員会【2】による勧告内容を見ると、「第三者提供違反」のみならず、「安全管理措置違反」についても言及されていますね。

 そもそも、リクナビをはじめとする就活サイトは、就活生と募集企業とを取り次ぐ「ポータル機能」と、新入社員を募集する会社側に対して「応募者管理システム」の2つの機能を提供しています。そして、ポータル機能で集めた就活生の情報と、応募者管理システムで企業側から受託した応募者のデータとは、分けて扱わなければいけないのに、リクナビはそのデータを混ぜて企業側に提供しました。同意なしに提供したという、個人情報保護法23条の「第三者提供違反」は分かりやすいですが、自社の保有するデータと受託しているデータの分別管理について20条、「安全管理措置義務違反」を認定している部分はそれなりに専門的知識がないと理解できないところです。

クロサカ リクナビ側としては、「ひとつのサービスなのだから、データの取扱いもドンブリでいいだろう」という意識だったんでしょうね。

板倉 「リクナビDMPフォロー」は、2018年3月から開始されたサービスで、19年3月にリニューアルされている。報道によればリニューアルの前後で、リクルートが持つ就活生の情報と、企業が持つ応募者情報とを紐付ける方法が変わっています。リニューアル前はネット広告で使われるサードパーティクッキー【3】という技術を使っていたようです。この方式について個人情報保護委員会は、形式上はデータを分離しているので、違法性はない(「リクルートキャリアから顧客企業への個人データの第三者提供が行われない形態」(リクルートキャリアに対する勧告等についての個人情報保護委員会の公表文書)としています。

クロサカ かなりキワドイやり方ですよね。

板倉 そして19年2月にリニューアルされた新たな「DMPフォロー」では、学生の氏名や住所などの個人が特定できる情報を互いに照合した上で、内定辞退率を企業側に提供していた。完全な個人データの第三者提供です。リクナビでは、今回のDMPフォローで内定辞退率の提供を受けていた企業は「採用に使っていない」と言い張っていますが、リクナビの広報が「赤旗」の取材に対して「100%使われていないとは言い切れない」と口を滑らせています。

クロサカ えー、それは知りませんでした。本当なら、利用した企業もダメじゃないですか。

板倉 このデータを購入した38社すべてが潔白だとは、考えにくいですよね。しかも企業側は、このサービスに少なくとも400~500万円程度は支払っていると報道されています。

クロサカ それを言われた通りに信じるほど、皆ピュアじゃないですよね(苦笑)。

板倉 一方、同じ就職サイトの「マイナビ」も、内定辞退率を予測するサービス「PRaiO(プライオ)」を販売していますが、これはマイナビによれば、企業側が保有する過去のエントリーシートのデータをAIに学習させて内定辞退率を予測するもの。「個人データ取扱いの委託」の範囲内に当たるのでセーフとされています。

クロサカ 確かに、個人情報の取扱いとしては、法律に従ったものです。しかし、就職という人生の重要な局面において、機械が過去データに基づいて判断を下すことには、倫理的に議論の余地があるようにも感じます。

板倉 プロファイリングの問題ですね。個人情報保護法においては、要配慮個人情報【4】を本人の同意なく取得する以外、利用目的の範囲内であれば、計算式に入れて分析することは問題にはなりません。しかし、個人データを集めてコンピューターで解析し、本人に法的効果を発生させるような決定を自動的に行うことは、EUのGDPRにおいて「プロファイリング規制」【5】に引っかかります。

クロサカ プロファイリングは、過去の他人のデータをAIに学習させ、それを現在の応募者に適用しています。「AIってそういうもの」というのはわかっているつもりですが、今年の学生と昨年の学生は、違う人間です。今年と10年前の学生を比べれば、それよりは昨年のほうが近いですが、「ダメな先輩たちのヤラカシ」を元に内定辞退率を算出しても、不正確なものじゃないのでしょうか?

板倉 GDPRにおいては、機械的な決定や判定に関して、個人が「やめてほしい」と言う権利があります(22条)。その上で、正確なものなのか、適切なものなのか、という問題があります。そもそも学習データは、各企業の内定にかかわる結果と、リクナビが持つ就活生のデータを組み合わせたもの。それで適切な結果を出せるのか、という問題もあります。

クロサカ この連載でも、過去にAI倫理の問題を取り上げましたが、プロファイリングはAIの本質的な問題のひとつになっています。どれだけ多くのデータをAIに学習させても、すべては過去のデータにすぎない。それを就職活動というセンシティブなことに適用するのであれば、提供する側や使う側にそれ相応の条件が必要な気がします。

板倉 NTTドコモも、ユーザの「信用スコア」を融資に際して金融機関に提供することを発表しています。今のスマホの購入はローンであることが多いですし、決して高くない通信料金を長いこと払い続けているということはそれなりに信用の源泉になる。ユーザが希望すればそのような情報を金融機関に提供することで、従来は銀行融資やカードローンを受けられない人への融資機会が増える可能性があり、ユーザに便益が期待できます。ただ、そうしたことをスコアという点数にすると、それだけが独り歩きして強烈な印象を与えてしまう。

クロサカ 今回のリクルートは、正にそれですね。スコアという見せ方が露呈して、その目的を聞いたユーザの反発を招いた。そのスコアはどうやって出しているのかと、注目を集めてしまった。そしてふたを開けてみたら……。

板倉 なぜリクルートが内定辞退率を販売したのかというと、企業の人事部のKPIの重要指標が内定辞退率になっているからです。リクルートは、それをよく知っているからこそ、人事部が金を出すことを見越して、そこを押さえにいった。

クロサカ 日本企業の闇は深いですね……。

板倉 深いんですよ。

クロサカ リクナビって、今後、立て直せるんでしょうか。

板倉 本件は、たまたま新卒採用で表面化した問題ですが、問題の構造や対応を見ていると、リクルートでは一事が万事こういうことをやっているのではないかと疑われても仕方がない。あまり報道されていませんが、リクナビの利用規約には、就職活動のみならず、入社後や、その先のキャリアのデータを得ることに対して、ユーザーに同意させるかのように書いてある。利用者にとってあまりに不利益な規定で、そもそも同意できるわけありません。利用規約の片隅に書いてあったとしても、同意にはなりませんよ。でも、リクルートは、形式的な同意でも問題ないと思っていたように見える。

クロサカ そもそも、会社としてのカルチャーというか体質に問題がありそうですよね。一方で、個人情報保護委員会のリクルートへの勧告も、利用規約をきちんと表示しなかったことについて「勧告」とし、同意の取り方が不適切だったことについてはランクが低い「指導」としていて、罰則の軽重はこれでいいのかと思ってしまいます。

板倉 日本にはまだ「データによって差別される」という発想がありません。アメリカには差別を禁ずる公民権法があるためにデータ保護法がなくても差別を防ぐことができるし、ヨーロッパではGDPRの中で差別を禁止している。しかし日本では、個人情報と人権の規定が曖昧なんです。内定辞退率というスコアの算出は、差別につながります。個人情報保護法の中にプロファイリング規制がないために問題視されていませんが、この事件の本質的課題は、プロファイリング規制でしょう。

クロサカ 個人情報保護法は、3年ごとに見直しすることが決められており、次の改正は2020年の通常国会での審議が予定されています。この中に、プロファイリング規制は導入されるのでしょうか?

板倉 今回の問題は、プロファイリング規制導入のためのきっかけになる事例だと思います。また、課徴金制度案も浮上しています。個人的には、改善命令の実例もないまま課徴金を導入するというのは懐疑的な立場だったのですが、リクナビのように有名企業が堂々と違法行為で利益を上げている事例を見ると、課徴金は必要かもしれない。

クロサカ この問題の根本には、日本企業のデータプライバシーに対する無理解があり、第三者提供や安全管理措置違反といった、データ取得手続きの話だけをしても意味がない。ちょっと極端だとは自分でも思いながら、そんな印象を抱きつつあります。

板倉 ことリクルートに関して言えば、彼らがこの先もデータを取り扱うことは難しいでしょう。明らかに、データを適切に扱える社内体制になっていない。事件後の会見などを見ても、事件の意味もわからずに、怒られたから謝っているだけ。いまだに「どうにかなるんじゃないか」と思っているように感じられます。

クロサカ 我々はデータを扱うほどの「基礎体力」を本当に備えているのか、そこから見直さないと、未来は暗そうですね。

1910_P102-105_img001_520.jpg
個人情報保護委員会のウェブサイトでは、一般市民に向けて個人情報についての解説を行なっている。

―対談を終えて―

「これは、第2のリクルート事件、ということなのかなあ」

 対談に先立って、そんな話をしていたのですが、板倉さんから解説をうかがう前だったので、さすがにそこまでにはいたらないかな、と思っていました。しかし本稿を読み進めていただくと、こうした物言いが大袈裟でないことを、ご理解いただけるのではないかと思います。

 私の中でのリクルート社は、「大手で派手な事業開発を進めながらも、パーソナルデータの利活用については一定以上の理解を有する企業」でした。してはならないこと、すべきではないことをわかっているからこそ、その具体的な方法を模索し、サービスという形で便益を提供している。きっとそうなのだろうと、漠然と思っていました。

 いえ、数年前までは、確かにそうでした。規制当局とも正しく向かい合い、行政や有識者の教えを乞いながら、サービス開発を進める。そういうスタイルを私も目の当たりにしたことがありますし、詳細はそれぞれ守秘義務があるので共有しないまでも、「彼らはよくわかっている」という評判を多くの関係者から耳にしたものです。

 そんなリクルートが、会社名の由来でもある就職活動に係るサービスという、いわば原点中の原点であるサービスのリクナビで、今回のような事態に陥ってしまったのは、直接の被害者である学生たちはもちろん、そういった関係者の信頼も裏切る結果になったのではないかと思います。

 そして、あのリクルートがこの体たらくでは、「他の日本企業はもっとダメなのではないか……」という疑念さえ抱いてしまったというのが、偽らざる思いです。

 かつての「リクルート事件」は、未公開株の譲渡という、いわば経済事犯でした。それはそれで重大な事件ではありますが、学生をはじめとしたユーザに対して直接被害を与えるような性質のものではありませんでした。また未公開株に価値があるということは、リクルートが成長の最中にあったことの証左であり、実際に彼らは躓いた後にも大きく成長をして、社会に便益を提供してきました。

 一方今回の事態は、彼らにとって事業の根幹をなしているユーザを裏切るような事件であり、それはつまりリクルートの信用を失墜させる、いわば自傷的な事件でもあります。それは成熟期に入っている彼らにとっては、かつてのリクルート事件とは違う種類の蹉跌となってしまうかもしれません。

 そしてデータプライバシーの理解が足りないというだけではなく、企業活動の根幹に関わるような重大な背景が、少なくとも彼らに、そしてもしかすると日本社会全体に存在しているのかもしれない。本件を通じて、そんなことを感じてしまいました。

1910_P102-105_ND15-0076-CDR_100.jpg

板倉陽一郎(イタクラ ヨウイチロウ)
1978年千葉市生まれ。2002年、慶應義塾大学総合政策学部卒、04年、京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻修士課程修了、07年、慶應義塾大学法務研究科(法科大学院)修了。第二東京弁護士会所属(ひかり総合法律事務所)。10年4月より12年12月まで消費者庁に出向(消費者制度課個人情報保護推進室政策企画専門官)。情報法のエキスパートとして、政府の有識者委員を多数務める。

1910_P102-105_kurosaka_100.jpg

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや政策立案のプロジェクトに従事。07年に独立、情報通信分野のコンサルティングを多く手掛ける。また16年より慶應義塾大学大学院特任准教授(ICT政策)を兼任。政府委員等を多数歴任。

【1】リクナビDMPフォロー
リクナビを運営するリクルートキャリアが2018年3月より開始したサービス。就活生の行動ログを把握し、AIが前年の応募者の行動履歴と照合することで、内定辞退率をスコア化する。400~500万円で販売され、トヨタ自動車、ホンダ、大和総研ホールディングス、YKK、三菱電機など38社がこのサービスを利用していた。

【2】個人情報保護委員会
個人情報の適正な取扱いを確保するために設置された行政機関。特定個人情報の監視・監督、苦情相談、リスク対策評価の指針作成、個人情報保護に関する基本方針の策定・推進などを行う。平成26年(2014)、特定個人情報保護委員会として設置される。

【3】サードパーティクッキー
ユーザーが訪れたウェブサイトとは関係のない、第三者のウェブサーバーがユーザーを追跡するために利用される技術。アドテク系サービスにおいて、ターゲティングや属性判定のために使用されることが多い。

【4】要配慮個人情報
不当な差別、偏見その他の不利益が生じないために、取扱いに特別の配慮を要する個人情報。これに該当する人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴、障害などについては、取得や第三者提供に本人の同意が必要とされる。

【5】プロファイリング規制
「個人データ」を集めてコンピューターで自動的に解析し、個人の性向や属性などを推測・予測する手法。EUが制定した『一般データ保護規則』(GDPR)では、市民にプロファイリングへ異議を唱える権利が定められている。日本には現在、明確なプロファイリング規制は存在しない。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ