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『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第70回

【クロサカタツヤ×川端康夫】起業は失敗にも価値あり。大企業もベンチャーも知る男が語る日本が新しいことをできないワケ

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

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●テレワークに対する意識(役職別)
(出典)「平成30年度まちごとテレワーク調査事業報告書」平成31年3月株式会社日本能率協会総合研究所より

――相変わらずビジネスの世界では「イノベーション」とか「画期的なアイデア」とかを求める経営者の声が溢れている。それにも係わらず、周りを見渡すと経営状態がヤバイと噂される大企業がごまんと溢れている。かつて世界を席巻したメイドインジャパンとジャパンマネーだけど、今や「安い旅行先」としての人気が高まっている状況。一体全体、僕らはどうやって新しいことを始めればいいのか。

クロサカ 今月のゲストは、ベンチャーの起業や大企業の新規事業開発の支援をしているアクティブビジョンの川端さんをお招きしました。もとは広告代理店からとある通信事業者に出向され、そこでコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)部門を担当されていらっしゃいました。今日は、川端さんが入っているシェアオフィスで対談しているのですが、ここ、良い場所ですね。

川端 ここは昭和40年代に建てられた古いビルをリノベした施設です。シェアオフィスのほかスタートアップ企業が入居していたり、コワーキングスペースがあったりで、スペースやアイデアをシェアするといった、1つのビルの中にそんなテーマが丸ごと入っている感じですね。独立してオフィスを探しているとき、ちょうどここがオープンするタイミングで、関係者だったランニング仲間に誘われたのが入居のきっかけです。新しいビルより、こういうリノベ的な物件のほうが好きだし、24時間365日、出入りが自由なところが気に入っています。

 でも、1週間の平日のうち3日しかここにはいないんですよ。他の日は、支援しているスタートアップのところに行って、そこで仕事をする。僕は、1箇所でずっと仕事をするのが苦手なんで。会社員の頃、出向していた時期が長くて、元の会社にも入れるし、出向先に席があって、さらに出向先で投資したスタートアップを支援するためにそこの社員としてオフィスにいることも多かった。だから、一時期は社員証が3枚あって、自分が自由に使えるオフィスが3つあった。広告代理店にいた頃も、関西の企業を担当していたときは、東京だけでなく、大阪のオフィスも自由に使えていた。複数の拠点を移動しながら仕事をする生活を、もう20年以上続けています。だから、ひとつの場所でずっと仕事するという感覚がピンと来ない。

クロサカ 僕も独立してからしばらくは、オフィスを持たずに自宅やカフェなどで仕事をしていたので、その感覚はよくわかります。だから「なんで、ずっとオフィスにいないといけないのかな?」と思うんですが、でもそうすると社員からは大ブーイング(笑)。僕があまりにいないので、打合せができなかったり、書類の決裁ができなかったりで。だから、最近はできるだけいなきゃ、と思うようになってきた。

川端 ある程度の規模の組織になると、仕方ないところですよね。

クロサカ でも、現場に行ってユーザーの話を聞いたり、実物を触ったりしないと、いろんなことって見えてこないんじゃないかな。サービス開発や事業開発をするなら、もっとオフィスから外に出たほうがいいと思うんですけど。

川端 最近でこそ現場重視のムードもわずかに戻ってきた気もしますけど、一時期、ネットニュースですぐに記事が出るから「わざわざ現場に行く意味がない」といった空気が強くなっていましたね。出かけると、時間もお金も掛かるというのもあるし、上司からすれば目の届くところで仕事をしていると管理できている気になるのかもしれないし。確かに、専門家が書いた記事でわかることは多いけど、でも自分で足を運ばないと、記事に書かれていないことはわからない。そこで見聞きしたことと、記事に書かれたことを照らし合わせたときに、初めて自分なりの見解やアイデアが出てくることがあるので、現場に行く意味というのは当然ある。

クロサカ プロの記事は必要なことがちゃんと書かれているので、それは読むべき。でも、大多数の人には不要なことだとしても、自分にとっては必要なことがあったのか、それともなかったのかは、実際に行かないとわからない。

川端 あと、僕がやっているような小さな会社は、大企業と同じことをやってもしょうがない。だから、大企業の人にできないことは何か、と考えると、とにかく現場に足を運ぶことだと思うんですよ。大企業が新規事業を作ろうとすると、どうしても机上で調べたり計算したりすることが非常に多い。

クロサカ 多くの大企業で事業開発をしている人が、お客さんのいる現場と向かい合えていないという状況は少なくない。厳しい言い方をすると、お客さんと向き合わずに考えたアイデアが、商品として成功するのか、かなり疑問です。

川端 大企業は、成功以前に失敗することすらなかなかできないんですよ。つまり検討して資料を作って、また検討してから資料を直して、上司に持っていって、さらに会議に掛けられてと社内の手続きにものすごい時間が掛かっている。さらに役員に見せるなら、こういう手順を踏んでこういうデータを用意して、と事業開発の本質とは関係のないところで時間が過ぎていく。その結果、あっという間にアイデアが古くなって「もう一度検討を」と振り出しに戻ることが、僕が見てきた中でも結構あるんですよ。実際にフィールドワークなりPoCまで取り組めれば、例え失敗しても経験がたまるから、それはひとつの糧になるはず。でも、大方のケースは、検討の繰り返しで失敗すらできていない。

クロサカ 大企業が失敗できない理由って、社内手続きが煩雑というのはよくわかりますが、ほかに何か要因はありますか? 

川端 意思決定者の属性の問題はありそうですね。今の日本企業の経営陣にいるのは、失敗をしたことがないから役員になれた人だと思うんです。失礼な言い方になるけど、彼らのほとんどはゼロからの新規事業を作ったことがなくて、高度成長期に作られたビジネスモデルの改善をしてきた。サプライチェーンを改善して効率化したり、何かをちょっと改良して新商品を出したり、それで対前年比で売り上げ何パーセントアップという成功によって偉くなった人たち。そう言う人たちに「失敗が必要なんです」と言ってもたぶん理解できない。よく大企業は新規事業のアイデアを出しても「それは売り上げ100億円見込めるのか」と言われて潰されるという話があります。それは、結局、既存のものを改善することしか経験がない経営陣だから、過去の数字から改良すれば何パーセントアップが見込める、という予測できる成果にしかコミットできない。でも、まったく新しいモノを作るとき、つまりイノベーションを起こすときには、そもそも比較するものがないわけで、数字の予測なんてできないんです。

クロサカ そうですよね。新しくて予測ができない部分があるからこそ、やる価値がある。

川端 もちろん昨今は企業の業績が落ちてきて、以前ほどには自由にお金を使えないし、株主の目も厳しいというのは、あるかもしれません。でも、何より企業のトップがいわゆるイノベーションを経験したことがない人たちで、失敗していないから出世したということがジレンマなんじゃないかという気がします。

クロサカ スタートアップに投資するCVCって、大企業の危機感を受け止めて、新しいものにお金を回そうという取り組みじゃないですか。上手くいくための条件は何だと思いますか。

川端 やっぱりトップ次第だと思う。私がCVC担当だった時、その部門の担当役員はベンチャーをよくわかっている人でした。というのも彼は、最初の会社に入社してすぐに、小さな通信ベンチャーに出向して、以来そのままそこの仕事を手がけ、現在は社長です。だから、ベンチャーは失敗するものだと肌身でわかっている。でも、そんな経歴の人は非常に珍しい。一方で、そういう経験を持たない人ばかりで運営されているCVCが、苦戦しているのを見ると、それはそうだろうなと思うところはあります。

クロサカ 特定の個人に寄る部分というのは大きいですよね。普通の大企業では、危機感を持つことはできても、具体的にどうすれば良いのかわからず、結局は失敗を避けることにフォーカスしてしまい、同じ繰り返しになってしまう。

川端 だから大企業にとってCVCは、ほとんどの場合、企業側が望むような結果が出にくいと思うんです。ただ、スタートアップの側にとっては、少なくとも投資を引き出せてそれで成長できれば成功だし、あるいは失敗したとしても貴重な経験になるわけです。確率論的にはスタートアップのほとんどは失敗に終わるのですが、そうやって失敗しても、もう一度立ち上がって挑戦した起業家は失敗を踏まえることができる。さらに、スタートアップやその界隈で失敗が共有されれば、より有益な知見・共有財産になる。スタートアップが次の日本にとってすごく大事だと思う理由もそれなんですよね。だから、言い方は悪いかもしれないけれど、CVCを踏み台にしてでも成長するスタートアップがいるなら、それは日本の社会全体で必要な企業新陳代謝のプロセスになるんじゃないかと思う。

クロサカ CVC以外にも、大企業が社内で保有する技術をスタートアップに公開するような取り組みも出てきました。ただ、彼らが持つ課題に、大企業の技術がはまれば良いんですが、そうではなく「なんか上手いこと活用して」と事業開発を丸投げするようなやりかたでは、やっぱり受け取る側もモチベーションが保てなくて成立しないような気がします。それよりは、大企業で実際に開発にたずさわった人が、自ら事業開発に取り組んだほうが、モチベーションとビジネスとが一体化するんじゃないかな。

川端 企業側がそれを支援するような制度を生み出せるか、だと思うんですよね。CVCでも、担当者が積極的にスタートアップとのオープンイノベーションに取り組んでも、社内制度がフィットしないために疲弊していく。何年たてば成功するかわからないスタートアップ支援と、失敗せずに仕事を続ければ一定の評価を得られる既存事業は、別物ですよね。スタートアップ支援と既存の事業とでは、同じ会社の社員であっても働き方や仕事の成果、その評価の仕方も違わなければうまくいかない。一方で既存事業の側からは、CVCが失敗を恐れずに大きなお金を使うのを、不公平だと感じることもあり、そこをどう乗り越えるかはものすごく難しい。それこそ、スタートアップにとっては働き方改革とか残業規制とか言っていられないのに、既存事業の側はギチギチに管理されてしまう。

クロサカ スタートアップって、やっぱりオフィスで9時5時の仕事して週末にきちんと休む、というものではないですよね。だとすると結局、大企業にはスタートアップみたいに新しいことはできない、という結論になってしまうんですが、それもあまり受け入れたくない。もうちょっと人事制度とか、何か工夫して、大企業の社員でもスタートアップのようなことができるようにならないものでしょうか。

川端 フランス企業に勤めていた人から聞いたのですが、そこでは2年間は給料をもらわずに会社に籍だけ置いて新しいチャレンジができる制度があるそうです。会社の中で埋もれている研究開発の成果とかがあって、それを使って自分が何かできると思うなら、2年間は無給だけど自由にやっていい。上手くいったら共同事業するとか出資するとかの可能性があるし、駄目だったらまた会社に復帰できる、という感じみたいです。日本では、昨今大企業で早期退職制度がはやっていて、割増退職金をもらって独立する人がいます。でも、そうやって完全に会社を辞めてしまうのではなくて、会社とつながりを持った状態で新しいことに挑戦できる枠組みがあると良いですよね。

クロサカ 新しいことを生み出したいけど、今の企業ではムリだとなった場合、お金の問題だけじゃなくて、人事制度や労務制度、つまり会社のルールだけじゃなくて法律や社会制度が、実は壁になっている。

川端 社会の仕組み全体が20世紀後半のままなんですよ。だからみんなの根本のマインドセットも昔のまま。人口構成が変わって、高齢者が増えましたが、年を取っても皆元気になっている。だから、昔は定年イコール老後でしたが、今は定年と老後の間に「人生の後半戦」と呼べる時期があるけど、その意識は薄い。それに、人口減少の結果、終身雇用と住宅ローンのセットを始めとして、色々なビジネスモデルや制度が終わっているのに、それを変えられない。端から見たら、我が国の状況は滑稽ですよ。

―対談を終えて―

 サードプレイスという言葉があります。自宅(第1)でも職場(第2)でもない「第3の場所」という意味です。カフェが社会に広がりを見せる局面で、日本でも注目を集めたので、ご記憶の読者も多いでしょう。

 改めて調べてみると、この言葉を最初に用いたのは、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグでした。彼自身の著書「サードプレイス(原題:The Great Good Place)」の中で、ヨーロッパのカフェやパブなどをコミュニティの中心となる場所と位置づけて紹介しつつ、そうした機能が欠如していたアメリカ社会を批判する論考を展開。それが少し時間をおいて日本でも普及した、という経緯のようです。

 ところが調べてみて驚いたのが、その書籍の初版が1989年。もはや30年近く前の発刊でした。もしかすると「まだ生まれていない」という方もいるかもしれません。

 ちなみに、Googleトレンドで「サードプレイス」という言葉の(日本国内の)検索頻度を調べると、確認可能な04年時点ですでにかなり調べられているのですが、その後08~09年頃に落ち込みます。そしてその時期を「底値」として、多少の変動はあるものの、19年に至るまで上昇トレンドにあります。

 なぜこんな話をしているかというと、川端さんと対談しながら、働き方にもサードプレイスが必要なのではないか、ということに気づいたからです。

 これまで私たちは、自宅、職場、そしてサードプレイス、というものを見つけてきました。そしてそれは、今日も引き続き必要とされており、特にサードプレイスは一定の定着を果たしたといえます。

 しかし、自宅を中心としたプライベートの過ごし方が多様であるように、働き方も多様であっていいはず。特に、社会全体がスピード感を高め、仕事がどんどんプロジェクト化している時代では、それぞれのプロジェクトに適した働き方や、それを支える仕事の環境も、もっと柔軟であっていいのではないでしょうか。

 おそらくコワーキングスペースは、そうしたトレンドの上にあるものだと思います。しかしそれは、放っておくと単なるカフェの延長や、昔からあるレンタルスペースでしかない、かもしれません。

 では、そうした空間に「魂を入れる」ために、どうすればいいのか。当然ですが、一義的には、働く人間自身の意識や働き方の変化が必要です。しかしそれだけではなく、「そうした自発的な変化を支援する、雇用や評価などの人事制度の改革こそが重要だ」と川端さんは指摘します。

 そしてふと改めて考えてみると、もしかすると30年前のアメリカ社会も、今の日本と似たような壁にぶつかっていたのではないか。そんなことに気づきました。

 オルデンバーグの主張は、主に都市機能の観点からの社会論でした。しかし、集団が個人の多様性を支援するという意味では、「働き方のサードプレイス」もまた、必要とされているように思えます。

 そうした問題意識で、改めて「サードプレイス」を読んでみようと、思いました。

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川端康夫(カワバタ ヤスオ)
アクティブビジョン株式会社代表取締役。大学卒業後、広告代理店に入社し電機メーカーなどを担当。通信会社への出向の後、独立し現職に。

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クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや政策立案のプロジェクトに従事。07年に独立、情報通信分野のコンサルティングを多く手掛ける。また16年より慶應義塾大学大学院特任准教授(ICT政策)を兼任。政府委員等を多数歴任。

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