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「マル激 TALK ON DEMAND」【144】

【神保哲生×宮台真司×小泉 悠】“主権”はどこに? 北方領土問題と日露の思惑

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『プーチンの国家戦略 岐路に立つ「強国」ロシア』(東京堂出版)

[今月のゲスト]
小泉 悠[軍事アナリスト・公益財団法人未来工学研究所研究員]

日露両国が平和条約締結に向け、北方領土問題の決着に手を着け始めた。日本はこれまで貫いてきた四島一括返還路線を放棄し、 二島返還、もしくは二島+αに舵を切ったとみられる。だが、二島返還は日本にとってはこれまでの主張からの大きな譲歩になる。だが、ロシアにとっては何らかの皮算用があるようだが……。

神保 日本とロシアの間で、北方領土問題をめぐり急展開があったようです。そこで今回は、特にロシア側にどんな事情の変化があったのか、あるいはなかったのかについて、議論していきたいと思います。

宮台 少なくとも、安倍首相が二島返還図式で前のめりになっていることは、たいていの方が知っておられますね。アベノミクスも新東京五輪以降は出口戦略の不在で機能不全になるだろうし、消費増税で政権が不人気になるだろうし、経済指標が悪くなれば森友・加計問題を含めたデタラメな政権運営に対する否定的評価が前景化します。名ばかりの憲法改正さえ実現可能性が危ぶまれています。たとえ二島返還であれ名を残したいでしょうね。

神保 ただ、もし本当に事態が急進展しているのであれば、当然ロシア側にも何らかの変化があったはずです。今日はそのあたりのお話も聞いていきたいと思います。ゲストはロシア情勢に詳しい、軍事アナリストの小泉悠さんです。

 早速ですが、何十年も膠着状態にあった北方領土の問題が、ここに来て急に動き始めたようです。早ければ年内にも具体的な動きがあり、来年には平和条約に仮調印などという、勇ましい話まで聞こえてきています。ロシアウォッチャーとして、今の状況をどうご覧になっていますか?

小泉 ここのところ、安倍さんが何度もロシア詣でを繰り返しているにもかかわらず、状況が動いていなかったので、今回もたいしたことではないのではと思っていました。しかし、9月にウラジオストクでプーチンさんが前提条件なしに「平和条約を」という爆弾発言をして以降、初の首脳会談だったので、何かあるかもしれない、ということで番組に呼ばれていたんです。すると「日ソ共同宣言を基礎に」という発言が出てきた。

 ソ連の末期から冷戦後にかけて、日本側がさまざまな合意をロシアと結び、「共同宣言は基礎ではあるが、まずは四島の帰属を確認しなければいけない」ということを飲ませてきた歴史があります。その話をせず、なぜ日ソ共同宣言だけいうのか、というのが僕は引っかかりました。そのうちに、日本のメディアが沸き立ち、「二島返還に舵を切ったんだ」という話で、しばらく休む暇がない、という状態になっています。

神保 小泉さんも、メディアに引っ張りだこなんですね。

小泉 ソ連が崩壊した後、ロシアの専門家が少なくなってしまったので。

神保 ロシアとは北方領土問題が解決できないために、第二次世界大戦の平和条約も締結できていないし、経済関係もいろいろな制約があります。近隣の超大国なのに、日本にロシアの専門家があまりいないというのは、なぜなのでしょうか?

小泉 経済の制約、というファクターは意外に小さいのではないかと思います。というのは、儲かるのであれば日本企業は中東の危険なところにもプラントを作りに行くし、中国にだって、まだ国交が回復する前から出て行っている。つまり、制約のあるなしにかかわらず、ロシアでは儲からないんです。ロシアの極東部は非常に大きく、日本の15倍くらいの国土があります。しかし、人口は日本でいうと千葉県程度で、市場もなく、サハリンを除けばエネルギーもあまり出ない。そこにきて、「島があるから投資してくれ、サハリンと北海道をつなごう」とロシア側からいわれても、日本企業は当然乗ってこない。ロシアから見れば、日本が持ち出してくる経済協力はしょぼい、という話になり、日本側からすればなんでそんなことをしなければいけないのか、ということになる。すれ違いがあります。

神保 平和条約が結ばれれば、何か変わりますか?

小泉 僕はそこで何が変わるのか、ということにはもともと懐疑的です。戦争状態を終わらせる、ということについては、日ソ共同宣言の中でもいっています。北方四島の問題は、確かに日露関係のトゲであり続けてきましたが、これが合意できたからといって、日露関係が劇的によくなるという問題ではない。どちらかといえば、日本にとっての戦後処理のような話であり、あるいは安倍政権がロシア外交にここまで熱心なのは中国を意識してのことだ、とずっといわれていて、ロシア側の専門家もそういうふうに観測しています。つまり、これは政治マターの話であり、国民同士とか、経済の話はあまり動かないのではないかと。

宮台 小泉さんがおっしゃる通りで、もし企業など日本の経済システムにとってそれほど意味があるのだったら、政治情勢はどうあれ、ロシアで既に実績を作ってきていなければおかしい。それを考えると、プーチンサイドが「少なくとも二島を引き渡そう」などと譲って何の得をするのかが、よく見えません。二島返還どころか一島返還だろうが、譲る理由が見当たりません。今回、一番知りたいのはそこです。

神保 両国の関係は1956年10月19日に署名された日ソ共同宣言で「歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すこと」に同意しています。ただし、そこには但し書きがあり、「これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」となっています。ポイントは「平和条約締結後」のくだりで、「いつ」とは書かれていません。

 ただ、共同宣言は領土問題のほかにも「戦争状態の終了」や「日本の国連加盟を支持」、「賠償請求権の放棄」「平和条約交渉の継続」など重要な合意事項も盛り込まれています。

小泉 日本の国会とソ連の最高議会が批准した共同宣言は、これしかありません。なので、ロシア側はこの日ソ共同宣言に特別な重きを置いています。プーチンさんも紙に書いてあることは重視する人なので、この文書はもう動かせないし、仕方がないと。しかし、「引き渡す」という言葉には解釈の余地がある、といっています。

 日本側からすると、16年に「8項目の経済協力プラン」という話を持っていけばロシアの態度も軟化すると思ったが、ロシア側はあまりこれを評価しなかった。そうした中で9月にプーチンさんからネジを巻かれて、安倍さんが「残り3年しかないから、これしかない」というところに立ち至ったというのが、現在の構図なのかなと見ています。

領土問題急展開の背景に見える米露関係の悪化

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