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「マル激 TALK ON DEMAND」【143】

【神保哲生×宮台真司×高橋和夫】ジャーナリスト殺害事件で変わるサウジの覇権

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌』(NHK出版新書)

[今月のゲスト]
高橋和夫[国際政治学者・放送大学名誉教授]

今年10月2日、トルコにあるサウジアラビア総領事館で、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が同政府関係者の手によって殺害された。アラブ諸国のみならず、世界中にさまざまな波紋を広げた今回の事件だが、中東の政治、覇権という意味において、大きな出来事だったと国際政治学者の高橋和夫氏は語るが……。

神保 今回は激動する中東情勢を、世界史の文脈の中で考えてみたいと思います。中東といえば、収録の直前に、シリア内戦の取材中に拘束されていた、ジャーナリストの安田純平さんが解放されるという大きなニュースがありました。ある程度予想されていたことではありましたが、例によって、ネット上では自己責任論が吹き荒れているようです。

宮台 何度も言うように、ネトウヨ、ウヨ豚にオピニオンはなく、あるのはただの憂さ晴らし、不全感の埋め合わせです。何も気にする必要はなく、小川榮太郎などもクズだということで一蹴すればいい。

神保 「なぜあんなに危ないところに行ったんだ」と言いますが、そもそも「なぜそこが危ないところだと知っているのか」を考えて欲しいと思います。そこが危ないところだとわかるのは、誰かが危険を覚悟の上で現地に入り、取材しているからです。その情報だけもらっておいて、いざ捕まったら、勝手に危険な場所に入っておいて「けしからん」という話になるのは変でしょう。

 政府が渡航自粛を勧告している国だったと言いますが、その判断さえも誰かからの情報を基にしているわけです。それに、そもそも政府の情報を鵜呑みにするのが危険なことは誰もが知っていることのはずです。誰も行かなければ、政府の情報が信用に値するかどうかもわかりません。

宮台 いいとこ取りのフリーライダー、タダ乗り屋のクズということです。

神保 なんといっても3年4カ月の間、期せずして普通の取材では見れないものをいろいろと見てきたでしょうから、一通り落ち着いたら、ぜひ安田さんにも番組に来ていただいて、いろいろな話を聞きたいですね。

 さて、現在また、中東情勢波高しです。そのせいで、今回のゲストの先生をテレビで1日5回くらい見ています。放送大学名誉教授で国際政治学者の高橋和夫さんです。

高橋 私がテレビに出るときは、ろくなことが起こらないのですが、今回は安田さんの解放という良いニュースがあってうれしかったですね。

神保 今回はワシントンポスト紙上などで政府批判を行っていた、サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が、サウジアラビア領事館内で同政府関係者に殺害された事件を取り上げます。もっともこの話の衝撃的な部分は、ワイドショーなどでも細かく取り上げられているので、そのあたりはテレビに任せて、高橋先生にはあえて今回の事件と、事件が露わにしたサウジアラビアとトルコ、そしてイランの敵対関係を歴史的な文脈の中でうかがいたいと考えています。

 少々、壮大な話になりますが、ちょうど今から100年前の1918年11月11日、第一次世界大戦が終結しています。約500年にわたり中東を支配してきたオスマン帝国が崩壊し、中東はイギリスを筆頭に西側諸国がさまざまな形で手を突っ込むようになった。今回の事件はそうした歴史の流れを変える可能性があるものだと理解しています。

 まずは今回の事件を簡単に振り返ります。カショギ氏は婚姻届を出しにトルコにあるサウジアラビアの総領事館に入ったが、生きたまま指を切り落とされるなどして、最後は首を切られて亡くなったと伝えられています。おそらく計画的に殺害され、どうも領事館の中庭に埋められたようです。最初に指を切り落とされたのは、彼がものを書くジャーナリストだから、という理解でいいでしょうか?

高橋 そうですね。今回の事件については、ムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子の異常な性格によるところが大きいと思います。これまでも言論の自由はなかったし、さまざまな問題がありましたが、ここまでのことはしなかった。

神保 サウジアラビアは隠し通せると思っていたが、サウジアラビアの領事館はどうやらトルコ当局がずっと盗聴していたようです。

高橋 指導者が賢くないと、周りにいる賢い人は辞めていきます。やはりトルコは近代国家であり、情報機関もしっかりしている。そういう意味で、サウジアラビアはまだ19世紀というか、諜報機関のレベルでいえば、プロ野球と高校野球が戦っているような感じです。

神保 今回、先生の本を読むまで、僕はなんだかんだいって、サウジアラビアが今や中東の盟主のように思っていました。しかし、実際はサウジアラビアという国は、人口も少ないし、経済的にも本当に石油を売るくらいしかできていない。実際はとても盟主とはいえない国だったんですね。今回の件で、そういうサウジアラビアの馬脚が現れた、というか、実力が見えてしまった感じなのでしょうか?

高橋 そうです。この皇太子の前の世代は身の程を知っていて、何かあったらお金で解決して、裏で根回しをするぐらいの知恵はあった。しかし、今の世代は豊かに育ち、世の中がわかっていません。またサウジの王族はアメリカやイギリスに留学するのですが、皇太子は超ドメスティックで、海外留学の経験がない。世間を知らないんです。

神保 王族の系統図を見ても、子どもがい過ぎてよくわからないのですが、現皇太子は「第3世代」ということですね。

高橋 アブドルアジーズ・イブン・サウードという建国の王がいて、これまではずっと、息子の世代、つまり第2世代で回し、ラグビーのように“横パス”を続けていた。

 しかし、もう横に受けられる人がいないから、第3世代に縦パスをした、という感覚です。つまり、ラグビーからサッカーにルールが変わったようなもので、そのパスがうまく通らなかった。

神保 第2世代と第3世代の特徴、違いのようなものはありますか?

高橋 第2世代は、石油が出る前の貧しいサウジアラビアをよく覚えています。だから、自分たちがそんなに巨大な存在だとは思ってない。一方で第3世代は、子どもの頃からロールスロイスに乗り、家には家政婦がいて何もしなくていい――と、世の中はそういうものだと思って育っている。

 第2世代はコンセンサスに基づき控えめに、「サウジなんかは表に出るべきじゃない、華はイラクとエジプトにもたせ、実質さえ取れればいいんだ」という感覚だったが、第3世代は「どんどん表に出ていきたい」ということです。

アラビア半島を掌握するサウジアラビアの影響力

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